第1章 4話 スキルとアビリティ
「それじゃ、石板を両手で持って、魔力を流し込んでみてくれ」
シャルルの言葉を聞き、石板から、
彼の顔へと視線を移した。
「ああ、そうだったな」
シャルルは人差し指で側頭部を掻く。
魔力の流し方が分からないことを、どうやら察してくれたらしい。
そこへ、見かねたジキルが横から口を挟んだ。
「まずはの、自分の体の中に魔力がある、という認識をする必要がある」
「力を抜いて、シャルの両手を握ってみなさい」
言われた通り、シャルルの手を握る。
意図を察して、シャルルも軽く握り返し、目を閉じた。
しばらくすると、シャルルの左手から、私の右手へと温かいものが流れ込んできた。
それは、血流とは違う、不思議な感覚だった。
温かさは体の中を巡り、やがてシャルルの右手へと戻っていく。
手が離れた後も、その感覚だけが体の中に残っていた。
――これが、魔力。
「感じるか?」
シャルルの問いに頷く。
「ほれ、それを今度は右手に集中させてみい」
ジキルの指示に従い、意識を向ける。
どうやら、それなりにそれらしい顔をしていたらしい。
私を見たジキルが、満足そうに笑った。
「その感覚を、忘れんようにな」
改めて石板を手に取る。
心臓の辺りから、ゆっくりと右手へ魔力を流す。
指先まで届いた魔力は、少しだけ留まったように感じたが、意識を向けると、今度は石板へと流れ出していった。
石板に移った魔力は、体内にあった時よりもずっと速く、表面に光の軌跡を描きながら駆け巡る。
鏡のような表面を埋め尽くすと、今度は左手へと戻ってきた。
しばらくして、石板の表面に文字が浮かび上がる。
それを見て、息を呑んだ。
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《評価》ヴェール性能 総合評価E
耐久E 魔力量E 自動修復E 魔力回復E
攻撃E 防御E 俊敏E スタミナD 魔力E 魔力耐性E
《系譜》
狩人、神官、探求、契約、学者
《能力》
【狩人】S「風刃」1
A「新緑の加護」1
【神官】S「癒しの手」1
A「破邪の護符」1
【探求】S「帰還への道標」1
A「成長の手助け」1
【契約】S「精霊契約」1
A「妖精の倉庫」1
【学者】S「凡者の知恵」1
A「閲覧権限」1
【汎用】S「周辺地図」1 「食物鑑定」1 「自動言語翻訳」3
A「攻撃の加護」0 「魔道」0 「自動回復」0 「鉄壁」0 「走破」0
収受エネルギー 1
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「……見ていいか?」
シャルルの声に、黙って頷く。
「おお、さすがに多いな」
その言葉に、ジキルも身を乗り出す。
「ほう……これは、おぬしが選んだんか?」
「いえ、選べなかったです」
「ランダムにしては、出来過ぎじゃと思っての」
その言葉に、神様の説明を思い出す。確かに「完全なランダムではない」と言っていた。
「その神とやらが、気を利かせたのかもしれんの」
考えを見透かしたように、ジキルが言った。
「これらのスキルって、どういうものか分かる?」
シャルルに尋ねる。
「大体はな。だが、じじいの方が詳しい」
そう言って、ジキルに視線を向けた。
「では、ワシが説明してやろう」
ジキルは座り直す。
「まず、ヴェール性能じゃが……まあ、見たまんまじゃな」
正直、そうでもない気はしたが、とりあえず頷く。
「耐久はどれだけ攻撃に耐えられるか、魔力量はスキルを使える量に影響する」
どうやら、HPとMPのようなものらしい。
「自動修復と魔力回復は、その自然回復力じゃ」
「最後の収受エネルギーは、現在の蓄積量じゃな」
「現在の?」
「賢者の石に渡した分は、表示されんからの」
「なるほど……?」
「他の項目は、まあ分かるじゃろ」
「はい、何となく」
「なら大丈夫じゃ」
続いて、ジキルが能力の説明に入る。
「Sがスキル、Aがアビリティ。その下の数字がレベルじゃ」
私は頷きながら聞いていたが、途中で不安になった。
「……すみません」
「どうした?」
「覚えきれる気がしなくて。何かに書き留めたいです」
「それはそうじゃな……」
一瞬考えたジキルが、石板を指さす。
「おお、では、このスキルを使いなさい。“凡者の知恵”じゃ」
「これは……?」
「まあ、使えば分かる」
ジキルは続ける。
「スキルの使い方は、石板に魔力を流した時と同じ感覚じゃ」
「魔力を外に出しながら、スキルの名を声に出す」
石板を床に置き、指先に意識を集中させる。
「凡者の知恵」
次の瞬間、目の前に四角い枠が浮かび上がった。
「……!」
思わずシャルルとジキルを見るが、二人は特に驚いた様子もない。
「その中に、指で文字を書いてみなさい」
言われた通りになぞると、書いた文字がそのまま残った。
「おお……」
声が漏れる。
その後は、ジキルの説明を聞きながら、ひたすら書き留めていった。
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S「風刃」 空中に、魔力を出しながら指でなぞった部分が刃に変わり、まっすぐと飛んでいく
A「新緑の加護」 詳細は不明だが、条件下でヴェール性能が上がるものらしい
A「癒しの手」 手で触れた対象の、ヴェール耐久を回復させる
S「破邪の護符」 呪いの効果を低減させる。呪いがかかりにくくなる。
S「帰還への道標」 地図系のスキルと合わせて使用する。自分の通ってきた道が表示される
A「成長の手助け」 収受した際のエネルギー量が増える
S「精霊契約」 精霊と契約し、呼び出すことができる
A「妖精の倉庫」 精霊世界の空間と繋げて、そこに物を保管することができる
S「凡者の知恵」 何もない空間に、仮想の紙を作り出して、そこに書くことができる。
その紙は保管しておくことが可能
A「閲覧権限」 賢者の石に書かれた情報を見ることができる。見える範囲はレベルに応じる
S「周辺地図」 自分の周辺が地図として表示される。レベルによって範囲が変化
「食物鑑定」 食物に関して鑑定できる。レベルに応じて詳細に分かるようになる
「自動言語翻訳」 レベル1で相手の言葉、2で自分が話す言葉、3で書いている内容の理解、
4で自分の書く内容が翻訳されるらしい
A「攻撃の加護」 ヴェールの攻撃が上がる
「魔道」 ヴェールの魔力量、魔力が上がる
「自動回復」 自動修復と魔力回復が上がる
「鉄壁」 防御と魔力耐性が上がる
「走破」 敏捷とスタミナが上がる
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説明が一通り終わったところで、気になっていたことを口にする。
「精霊が、いるんですね」
「おお。おぬしの世界にはおらんかったか」
「ええ、精霊世界って、別の世界なんですか?」
「この世界と繋がった、別の空間じゃな」
「えーっと、行けるんですか?」
「基本的には無理じゃ。精霊は来れるが、人は行けん」
「じゃあ、契約はどうすれば?」
「精霊の方から会いに来ることが多いそうじゃ」
正直、よく分からなかったが、それ以上聞いても仕方がなさそうだった。
「……このヴェール性能って、どれくらいの強さですか?」
「駆け出しの冒険者、というところじゃな」
少し、肩を落とす。
「オレのを見せてやるよ」
シャルルがそう言って、石板を拾った。
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《評価》ヴェール性能 総合評価C+
耐久C++ 魔力量C 自動修復D++ 魔力回復D++
攻撃B 防御D+ 俊敏B+ スタミナB 魔力C+ 魔力耐性C
《系譜》
狩人、生産
《能力》
【狩人】S「消音歩法」2
「気配察知」3
「力の蓄積」3
「天雷」4
A「疾風の遊撃者」9
【生産】S「矢生成」3
【汎用】A「耐久の加護」8 「魔力量の加護」6 「自動回復」5 「防御の加護」4
「魔力の加護」7 「魔力耐性の加護」6 「着火」1
収受エネルギー 324
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表示された数値を見て、思わず息を呑む。
「シャルルって……どれくらい強いんだ?」
「中堅だな。上位には届かない」
「ただ、じじいは別だぜ」
「昔は――」
そこで、シャルルが言葉を止めた。
ジキルを見る。ジキルが小さく頷いた。
次の瞬間、シャルルは立ち上がり、扉へと走り出した。ジキルも、すぐに後を追う。
私は一瞬、何が起きたのか分からず立ち尽くしたが、すぐに二人の後を追って外へ出た。




