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世界樹の下でまた会おう  作者: 文鳥


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第2章 17話 精霊の声

 治療院の扉を開けると、薬草と清浄な魔力の匂いが鼻をくすぐった。


 白い布で区切られた奥の一角。

 そこに――見慣れた獣人の姿があった。


「……あ」

 フーリーが、こちらを見て目を丸くする。


 次の瞬間。


「目、覚めてる!?」

 ハルが駆け寄った。


「ついさっきだ」

 フーリーは、少し照れたように耳を揺らす。

「起きたら、もう朝でな。頭がふわふわするが……生きてるよ」

「よかった……!」


 ナナは、その場で深く頭を下げた。

「本当に……ありがとう。皆さんが来てくれなかったら……」

「……命を張ってくれた」


 フーリーも、ベッドの上から頭を下げる。

「俺のせいで……危ない目に遭わせた」


「問題ない」

 シャルルが即座に言った。

「当然のことをしただけだ」


「依頼の時」

「“よくあることだ”みたいなこと言ってなかった?」

 ハルがシャルルのものまねをしながら言う。

「冒険者は……慈善事業じゃねえ!」

「だっけ?」


「いや、それはあれだ」

「一般論だよ!」


 病室に明るい空気が流れた。


 そこで――

 ルゥが一歩前に出た。


 両手を胸の前で揃え、深く、丁寧に頭を下げる。

「……改めて」

「私の名前は、ルゥといいます」


「ケットシー族で、フーリーとナナの妹です」

 顔を上げ、ひとりひとりを見渡す。


「ジキルさん」

「レンさん、ハルさん」

「グレンさん、シャルルさん」


「であってますか?」


「皆さんが来てくれなければ」

「私は……ここにいませんでした」

「本当に、ありがとうございました」

 その声には、揺るぎのない感謝が込められていた。


「……あ、いや」

 レンが、少し気恥ずかしそうに頭を掻く。


「俺はレン……であってる」


「体はもう大丈夫?」

 言いながら――

 気づけば、自然に手が伸びていた。

 ふわり、と。

 指先に伝わる、柔らかな感触。


「……?」

 ルゥが、きょとんと目を瞬かせる。


「――レン」

 ハルが、即座に眉をひそめた。

「それは、失礼だよ」

「……っ!?」


 レンは、はっとしてルゥの頭から手を引っ込める。

「わ、悪い!」

「ち、違うんだ、その……」

「昔、猫を飼ってて……その感覚で……」

「いや、だからって――」

 しどろもどろになりながら、深く頭を下げる。


「本当に、ごめん」

 一瞬の沈黙。

 次の瞬間。


「……ふふ」

 ルゥが、くすっと笑った。


「いいですよ」

「嫌な感じは、しませんでしたから」


 レンは、さらに赤くなる。

 ハルはため息をつき、

 グレンは小さく肩を揺らし、

 シャルルは、どこか面白そうに目を細めた。


「……ところで」

 ジキルが、空気を戻すように切り出す。


「どうして、森に入ったんじゃ?」

「理由は、聞いておきたい」


 ルゥは、少しだけ視線を伏せ――やがて、静かに話し始めた。


「……声が、聞こえたんです」

「精霊が……助けを求める声が」

 空気が、わずかに変わる。


「強いものじゃありません」

「泣くような、かすれた声で……」


「放っておけなくて」

「慌てて様子を見に行ったら……」


「ゴブリンに、見つかった」

 フーリーが、悔しそうに拳を握る。


「言ってくれたら」

「付いていったのに」


「シリィもいたし、ちょっと様子を見るだけだったから」

「ごめんなさい」

 

 その時だった。


『……まったく』

 どこからともなく、澄んだ声が響いた。


 ルゥが、慌てて振り返る。


 空中に、淡い光が集まり、形を成す。

 小さな人影。

 透き通る羽と、風をまとうような姿。


「……シリィ」

「また勝手にでてきて」

 ルゥが、少し困ったように呟いた。


『一応、挨拶くらいはするべきでしょう?』

 シリィは、ふわりと浮いたまま、ジキルたちを見る。


『助けてもらったことには、感謝してるわ』


「精霊……か」

 シャルルが、興味深そうに目を細める。


「……ルゥ、シリィ、実は」

 ナナが言いにくそうに切り出す。


「私たち、ジキルさんたちに正式な報酬をしてなくて」

「命を助けてもらったのに……」


 フーリーも続く。

「それで……お願いがあるんです」


 シリィを見る。

「報酬の代わりに……」

「レンさんに精霊を、紹介してあげてもらえませんか?」


 一瞬の沈黙。

『ふうん……』

 シリィは、レンたちを観察するように視線を巡らせる。

『……悪い人たちじゃなさそうね』


 そう言って、肩をすくめた。

『いいわ。とりあえず話を聞くだけなら』


「あ!」

 ルゥの顔が、ぱっと明るくなる。


「それなら!」

 彼女は、一歩前に出た。

「助けを求めてる精霊を助けたら……」

「契約、してくれるんじゃないでしょうか」


『うーん、そうねぇ』

 シリィは、ふとレンを見る。


『ところで』

『あなたのスキル、何て言ったかしら』


「《妖精の倉庫》だったと思う」

 レンが答える。


 その瞬間。

 シリィの目が、わずかに見開かれた。


『……なるほど』

『それなら、話は別ね』

『そのスキルには妖精界に、専門の集まりがある』


「専門の集まり?」


『まあ、こっちの商会みたいなものよ』

『《妖精の倉庫》は需要も使う人も多いから』

『別に、誰かを助けなくても、簡単にできるわよ』


 ルゥの尻尾が垂れて、表情が分かりやすく曇った。

「……あ、そう、だよね」


 少しだけ泣きそうなルゥの顔を見てシリィが焦る。


『あ、違っ』

 シリィが、慌てて手を振る。


『別に、無意味だって言ってるわけじゃなくて!』

『その精霊を助けたら』


『ほら、あんたたち』

『私が、ちゃんと話を通してあげる』

『……その方が、きっといい契約になる』


 ルゥは、微笑んだ。

「なんでシリィが慌ててるの?」

『うるさいわね』


「決まりじゃな」

 ジキルが言う。


 レンが、一歩前に出る。

「助けに行こう」

 迷いのない声だった。


「困ってるなら、それで十分」


 グレンが頷き、

 ジキルは、静かに笑った。

「よし」


 シリィは、ふわりと宙で一回転する。

『決まりね』

『じゃあ、案内するわ』


「みなさんこちらです!」

 ルゥが元気よく立ち上がり扉の方にかけていく。


 小さく頭を下げる、ナナとフール―の声に見送られて

 一行は妖精とケットシーの後に付いていった。

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