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世界樹の下でまた会おう  作者: 文鳥


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第1章 9話 準備

 村長は、囲炉裏の前で地図代わりの木板を指でなぞっていた。


 ジキルは白髪の民族衣装のような服を着たその人物に、騎士団が現れた経緯から、私が転生者であることを、私に許可を取ったうえで事細かに話した。


「まだ、しばらく時間はあると」

 低く穏やかな声で村長はそう言う。

「ああ、サイードのやつが一か月後と言っておった」

 ジキルが答える。サイードはおそらく騎士団の中でジキルと話していた人物なのであろう。


「ただ、あくまでも案内をせいと言っておったからの」

「まだ、場所はバレておらんってことか」

「この村は、街道から大きく外れている。意図的に避けなければ普通にしてたら、辿り着けん」

 村長は言う。


「だが、騎士団が“探している”。となれば、森の奥に入る」

「確かにしらみつぶしに探されたら、見つからん保証はないな」

 村長はそう言うと視線を上げ、ジキルを見た。


 シルフィは、黙って聞いていた。

 その表情には、焦りよりも諦観が混じっている。


 村長がシルフィの方に顔を向けた。

「“見つからない”前提は捨てる」

 その言葉に、空気が引き締まる。


「今からこの村は、“見つかっても困らない村”になる」


 私は思わず口を挟んだ。

「それって……」

「怪しまれない村、という意味だ」

 村長は迷いなく言う。

「余計な人影を消す。だが、生活は消さない」

「畑は耕す。店は開ける。狩人は狩りに出る」

「“いつも通り”を、強化する」

 シャルルが口角を上げた。

「派手に隠れない、ってやつだな」

「そうだ」

 村長は頷く。


「仮に騎士団が近くに来たとしても、ここが目的地だと確信させない」


「そのために、やることは三つある」

 指を一本立てる。

「まずは村の者たちへの情報共有じゃな」

「余計なことは言わず、今までどおりを演じてもらう」

「もちろん、神託の巫女についてはすべて知らないということにはしてもらわにゃいけんが」


 村長が二本目の指を立てる

「二つ。騎士団の動きを、先に察知する」

「ジキル殿、シャルル」

「俺たちだな」

「うむ」

「もう一度来ると言っていた日には、ジキル殿は家にいるようにしてくれ」

「それが良いじゃろな」


 三本目。

「レン殿」

 名を呼ばれ、背筋が伸びる。

「お主には、巻き込まれた形になって申し訳ないが」

「いえ……」


「シルフィとレン殿は、この村に“いない”準備をしておくように」


 シルフィは、一瞬だけ目を見開いた。

「……逃げる、ってこと?」

「逃げるとは言わん」

 村長は静かに首を振った。


「一時的に“消える”だけだ」

「騎士団が来る前に」

 少しの沈黙の中、囲炉裏の火が、ぱちぱちと音を立てる。


「場所は?」

 シルフィが聞く。

「まだ決めん」

「決めた瞬間、それは隠さなきゃいけんものになる」

「今は、可能性を残す」


 村長は視線を戻す。

「よいか。これはまだ戦いではない」

「見つかる前に、備えるだけだ」

 その声音には、長年この地を守ってきた者の重みがあった。


「まあ、とりあえずじゃが」

「レンにはどのみち強くなってもらわなあかんの」

 ジキルは私の方を向き、にっと笑顔を作った。


 朝靄の残る森で、レンは剣を構えていた。修行が始まってからもう10日程度経った。


「もっと腰を落とせ」

 ジキルの声が飛ぶ。

「剣は振るな。流れを切れ」

「流れ……」

 イメージしながらひとつひとつ丁寧に剣を振る。

 数えきれないほど繰り返したが、それでもイメージがつかめない。

 数時間経つといつものようにスキルの練習に移る。


「風刃は“斬る”技じゃない」

「通す技だ」

 言われるままに、呼吸を整える。

 魔力を前へ。

 さらに先へ。

「――風刃」

 空気が、わずかに歪んだ。

 次の瞬間、目の前の草が、遅れて倒れる。

「……まだ浅いの」

 ジキルはそう言いながらも、否定はしなかった。

「でも、初日よりはマシじゃな」


 腕も、脚も、すでに重い。ただ、この体じゃなかったら、とうの昔に限界を迎えていただろう。

「休憩だ」

 ジキルが言う。

「倒れるまでやっても意味はない」

 もう倒れる寸前であることが喉の奥まで出てきたが、それを飲み込み木陰に座り込むと、視界の端に人影が見えた。


「あ」

 シルフィだった。

「やっぱりここにいた」

「見てたのか」

「ちょっとだけね」

 笑いながら近づいてくる。

「レンさん、剣振るときの顔、すごい真剣」

「ちょっと恥ずかしい」

「いいじゃん。必死な感じで」

 そう言って、私の横に腰を下ろした。


「……ねえ」

「ん?」

「無理してない?」

 その問いに、すぐには答えられなかった。


「してるかも」

 正直に言う。

「でも、今はやるしかない」

 シルフィは少しだけ黙り込み、それから言った。


「レンさんは」

「うん?」

「逃げても良いんだよ?」

「すぐに強くならなくても、もちろん息子さんを助けるためって聞いたけど」

「今すぐ危険な目に合う必要はないんだよ」


 息子の話が出てきたことに少し驚いたが、村長に細かく経緯を話した際に、当然シルフィにも伝わっていたことを思い出した。


「そうだね」

「会って数日の、何ていうか私のために、変な言い方だけど、……安全じゃないと思うの」

 シルフィはたどたどしく言葉を繋げた。


「逃げないって、約束はできない」

「うん」

「でも」

 横に置いていた剣を握る。

「目は逸らさない」


「まあ、困ってる女の子を助けられないで、到底息子を助けられるとは思えないし」

「ふふっ、ありがと」

 シルフィは、それを聞いて笑った。


「私ね」

「強くなるって、怖いと思ってた」

「できないことが増えるより、できることが増える方が」

「ずっと怖いって思ってた」


 視線を森へ向ける。

「でも、今はちょっと分かる」

「何が?」

「守るものが増えることより、守る方法がない方が怖い」

 

 レンは、黙って頷いた


 それから10日間以上、修行は続いた。


 朝は基礎。

 昼はモンスターとの実戦。

 夜は、ジキルのもとで魔力制御とスキルについての理解。


「焦るな」

 ジキルは言った。


「力は、“溜める”より“流す”方が難しい」

「おぬしは、溜め込みすぎじゃ」

 言われるたびに、何度も失敗した。

 風刃が暴れ、地面を抉り、木を無駄に傷つける。


 だが。

 ある日、森の奥で、ふっと感覚が変わった。

 魔力が、外に溢れない。

 自然に流れる。

「……今の」

 ジキルが目を細めた。

「悪くない」


 始めて成長を実感できた瞬間だった。

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