表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王様はなりゆきまかせ  作者:
魔王様、魔族の平定に乗り出す
37/37

その18

 異国風の音楽が聴こえる。


 何だろう、ときょろきょろすると、舞台でオオカミ頭のたくましいお兄さんが剣を持って踊っていた。

 ゆったりして見えるけど、動きのキレがいい。キラキラゴテゴテの剣なんて重そうなのに、しっかりとコントロールしてる。獣人族らしい、筋肉を見せつける衣装、というかほぼ半裸。それに、キリリとした顔がなかなかクールだ。

 気のせいか、舞台を取り囲むオバ…お姉さま方もとろんとした顔になってる。あそこにアシルを放り込んだらどっちが勝つんだろう。お兄さんに迷惑かけるからやらないけど。


「ねえシバ、私のあいさつは昼過ぎにって話だったけど、あそこでするの?」

「そうだな。緊張してるのか?」

「いや、うーん、…どうだろう。」

「なんだそりゃ」


 スピーチの中身はユージンが考えてくれたものがある。私はカンペを読むだけの簡単なお仕事だ。

 人前に引っ張り出されるのは、故郷でも経験したから、別に初めてじゃない。

 初めてじゃないけど、「英雄」としてあいさつするのと、「王様」としてあいさつするのって、やっぱりちょっと違う気もする。どっちもテンション上がらないのは確か。

 私の命を狙うヒトには大チャンスだな、とも思ったけど、そこはシバを信用するしかない。


「元気がないな。早いけど腹ごしらえするか? ユージンから小遣いもらってるから、気になるものがあるなら言えよ」


 小遣い。

 成人男子が言う単語じゃないんだよなあ。

 でも、シバが言うと、妙にしっくりなじむ。


 それはそれとして、腹ごしらえというのは悪くない。

 舞台のある広場を中心に、屋台があちこちに伸びていて、どこから見て回ろうかと正直うずうずしてた。


 肉の塊をどどんと並べて焼いてる店の隣には、注文を受けて朝摘みの果物をしぼってくれる店。さらにその隣の揚げ菓子の店では、「あっついわ~」と言いながら熊頭のお兄さんがおすそ分けの果汁をあおってる。

 別の通りでは食材も売ってるのか、風に乗って生臭いような臭いもしてくる。ネズミ族が「魔王様御用達」の旗を立ててクルミ饅頭を売ってる店の前を通りかかった時には、さすがのシバも苦笑い。


 大きなテントが並んでるのをのぞいたら、中は遊技場になってて、見慣れないゲーム台で妖精族の子供が盛り上がってた。もっとよく見ようと近づいたら、通りすがりの淫魔族らしいお姉さんに背中を指でつーっと撫でられたシバが「キャン!」と鳴いて、腕を引っ張られて出る羽目になった。


 逃げた先では「新魔王様の栄光を讃えて」なる歌を吟遊詩人が歌い始めて、笑いをこらえてぷるぷるしだしたシバをどついた後、こそこそ逃げた。

 花飾りを売る店には魔人族らしいお嬢さん方が、お互いに似合うものをあてがってキャッキャしてて、無理やり目をそらした。

 あんな風に友達と遊ぶことは、きっともうない。


「なんだ、もう疲れたのか」

「いや…時間が大丈夫か気になって」


 小間物屋の前でしゃがんで剣帯を見てたシバが、立ち上がって、来た方向を見た。


「時間はまだ大丈夫だろ。この先は居住区になるし、戻りながら土産でも探すか? それとも、どこか静かな店で休憩するか?」

「ううん、いい。疲れてないし、土産は後でゆっくり探す。それより、おひめさま探しどうする? ブルーノだけじゃ目の届かなさそうなとこ、回ってみる?」


「その必要はないわ」


 小さな声に、はっと振り向く。

 気づかなかった。違う。 あまりにも気配が弱くて、敵だと思えなかった。

 だって、シバは今も戦闘態勢になっていない。そこまでしなくても、すぐに倒せると思ってる。


 細い体に、よれよれの生成りのワンピース。足元がどろどろに汚れて、布靴に血がにじんでる。背中に流しっぱなしの榛色の髪はぼさぼさで、太陽に弱いのか、あちこち日焼けして真っ赤になってる。

 私と同じくらいの年に見えるけど、子供みたいに頼りない手足が、思わず手を差し出したくなる。

 でも、炎のような目がそれを拒絶する。

 炎―――――敵意だ。

 頭が気づくより早く、手が反射でマントの下の武器を探っていた。

 獣人族や妖精族には見えない。魔人族にしては魔力が少なすぎる。妖魔族か、もしくは。

 街を歩いてて、途中から生臭い臭いがしてた。

 向かい風が吹いて、鼻がつんとする。これは生魚の臭い。レシャムさんと同じ。


 心当たりなんて一人しかいない。

 アーディティヤ。

 探し出して、保護しないといけないお姫さま。


 ナイフから手を離す。


「探してたのよ。魔王様―――――あのひとの、仇!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ