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魔王様はなりゆきまかせ  作者:
魔王様、魔族の平定に乗り出す
17/37

その1

大変お待たせいたしました。ゆるっと再開です。

…がいです。どうか。どうか…


……を………しろ


……、…なければ、あな………………してやる






「…っふわぁ?」


 目が覚めたら、まだ薄暗かった。

 魔王城の私の部屋のベッドは天蓋とカーテンがついてて、カーテンを開けないと朝でも暗くて、それがなんだか秘密基地っぽくていいんだけど、今はいつもよりも暗かった。


 腕を伸ばして、カーテンの隙間を作ってみる。やっぱり、まだ夜明け前。

 クリーム色の壁紙が少し青く見える。金の刺繍がきれいなカーテンも、栗色のテーブルセットも。しんと静かで、海の底に沈んだら、こんな感じなのかな。

 ぱたり、とそのまま腕を落とした。ふかふかしてるから、ちょっと乱暴でも、全然痛くない。すごいな。

 喉かわいた。水のみたいな。ベッドサイドに、毎晩クルルさんが水差しを用意してくれてるんだけど、起き上がる力がない。誰か、口元まで持ってきてくれないかなー、なんて。

 しばらく、毛布の中でぼんやりする。変な時間に目が覚めた時の、眠気はしっかり残ってるんだけど、頭のすみっこに穴が空いてしまった、あの感じ。

 嫌いだ、こういうの。魔力でからめとられたみたいに、体が重い。全身が沈んでいくみたい。眠いのに、目を開け続けるのがしんどいのに、普段考えないようにしてることが、風通しのよくなってしまったところから、水みたいにゆっくりと広がっていく。


 どうして、だろう。どうしてあの子は、あんなこと、したんだろう。

 魔界なんかもうこりごりって、みんなで言い合った。休みたいって。あの子も、疲れるから、二度とこの魔法は使いたくないって。

 マリス。気弱な私の魔法使い。いちばん、仲がよかった。何でも話した。おうえん、してた。

 姉妹より、わかりあってると、思ってた。

 あんなこと、できる、子じゃ、なかった。

 どうして。マリス。どうして。

 わからない。

 どうして、わたし、こんなごーじゃすなとこで…まおーなんて………






 私の朝は毎日、クルルさんとの戦いから始まる。


「陛下ーっ、おはようございます。今日もいいお天気ですよ。」


 私は目覚めがいい方だ。親元にいた時からそうだったし、旅に出てからは、すぱっと起きられないと死んでしまう暮らしだった。の、だけど。


「………」

「まあ、陛下。今日も寝起きが良くなさそうですねえ。毎日夜ふかしでもなさってるんですか?」


 部屋中のカーテンを開け、窓を開けて空気を入れ替え、モーニングティーを淹れ、手洗い用の水を張ったタライとタオルを差し出してきたクルルさん、ここまで所要時間三分。きびきびしつつも、あくまで丁寧。がさつさ一切なし。うーん、優秀。


「ダメですよ、夜ふかしは。顔色もよろしくないですし。」


 うさ耳をぴんと張って、「めっ」と言われた。かわいい。首から下を気にしなければ。

 熱々のお茶を流しこんで、タライを受け取って顔を洗うと、気分がすっきりした。


「夜ふかしはしてないんだけどねー。それで、クルルさん、その手に持ってるものはまさか…」

「はい、本日のお召し物です! 今日は一日お勉強で、外出の予定はないとお聞きしましたので、着心地のよさを重視してみました!」


 にっこりと差し出されたワンピースは、なんというか、うん。素材は確かにやわらかそうというか、肌なじみがよさそうというか。生地がくたっとしてて、着たらすとーんと落ちてしまうというか。フリルとリボンがたっぷりで、十歳くらいの華奢で可憐な女の子なら似合うだろうなっていうか。


 さんざん「ぴっちりしたのは嫌! もっと布増やして!」と言い続けた成果なのか、クルルさんが選んでくれる服の露出は減った。二の腕も太もももちゃんと隠れる。

 そのかわり、フリルがどさっと増えた。襟も裾も袖も肩回りも胸元も大増量だ。すごくワサワサしてる。

 あと、どうしても譲れない「ぴっちり」成分として、スカートの時はお腹まわりをきゅっと締めるサッシュベルトがついてくるし、ズボンの時はすごく細身で、逆に動きにくい。ついでに、色はピンクで白で水色だ。乙女すぎて全身がかゆい。


「もうちょっと大人しい色はなかったんですか。初日の茶色いスカートとか…」

「あれはお若い陛下が着るには地味すぎます!」


 地味でいい、地味で。


「フリルも少なくしてください。クジャクみたいで、ちょっと。」

「クジャク、綺麗だと思いますけど…」

「あのね、クルルさん。私、クジャクよりカワセミの方が好き。」

「あら、青がお好きなんですか?」


 違う、そうじゃない。そこじゃない。

 うーん、でも、これは私の例えも下手だったな。もう少し目立たない生き物にするべきだった。なんだ。何なら伝わるんだ。あんまり派手な色じゃなくて、しゅっとしたシルエットで、できれば、さわり心地がよさそうな…。


 ひらめいた。


「キツネ! そう、キツネみたいな!」

「いやーっ! だめです! キツネなんて! キツネなんて!」


 ものすごい拒絶反応がきた。クルルさんの耳がぷるぷるしてる。


「おばあさまが言ってました! キツネは性悪だから近づいちゃいけないよ、ぱくっと食われてしまうよって!」


 おおっと、そこはリアルに肉食獣と獲物の関係なのか。まずい例えをしてしまった。

 あれ? でも、この「キツネ」ってキツネの獣人のことだよね、きっと。魔族同士での「食い合い」は基本的にないって、授業で聞いたんだけどな。おかしいな。


「おばあさまのお姉さまは、キツネに見つかって、さらわれて帰ってこなかったって聞きました! あげくに、子供まで!」


 あ、そっちか。なんだ。めんどくさ。


「キツネなんて絶対ダメですー!」

「わかった、わーかったから。クルルさん、お仕事。私とりあえず着替えたいから、他の服よろしく。えーと、えーと、短毛種のネコみたいな感じで。」


 自分で取りに行けば早いんだけど、さすがの私も自分ちと素直に言っていいのかためらうとこで、寝間着で廊下をうろつくのは遠慮したい。

 どうにかこうにかなだめて送り出し、戻ってきたクルルさんが持っていたのは、体の線にぴたっと沿った、やけに裾の短いワンピース(三毛)だった。


 ………なんで私は動物で例えたんだ。

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