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FANTAGOZMAーー完全版ーー  作者: 無道
始動する黒龍
30/32

入隊試験、開始

10

約束の放課後、決戦に向かう前に、俺はCクラス一組の教室に来ていた。無論Cクラスが恋しくなったとかそんな理由ではない。目的の男を見つけると俺は片手を上げて声を掛けた。

「ようブラート。まだお前が学校にいて助かったよ」

「誰かと思えばシュウか。なんだ、まだ一緒に帰るほどお前とは仲良くもねえだろ」

つっけんどんな物言いではあるが、ここまでハッキリ言われると逆にすがすがしく感じる。やはりこいつはとは反りが合いそうだと思いながらも、時間がないため率直に用件を言う。

「今からちょっとの間、お前が背負ってるそれを貸してくれ。礼は今度必ずする」

「あ?お前、これのこと言ってんのか?」

ブラートは視線を後ろに向け、彼の大柄な背中を隠さんばかりの長大な得物を指さす。

そう、俺が今回ブラートに頼むのは彼の大剣を貸してもらうことだ。正直な所、別にブラートの剣でなくても良かったが、いかんせんCクラスの知り合いの武器ではこれから始まる闘いでは心もとないため、唯一Bクラス(元だが)の友人であるこの男を訪ねてきたというわけだ。

しかし、自らの得物とは武器のレベルに関わらず自分の半身のような物。ちょっとやそっとでは貸してくれるどころか相手にもされない。ブラートも案の定警戒したように鋭い目を向けてくる。

「わかってるとは思うが、剣は剣士の魂だ。それを貸すってのは相手への信頼と相当の覚悟が無けりゃ出来ねえことだ。大体お前は魔法使いだし剣なんて使わねえだろ。一体何に使うつもりだ?」

「――Aクラスを倒す。そのためにはお前の魂が必要なんだよ」

俺の答えにブラートは瞠目する。それから気を疑うように俺の顔をじっと見つめる。

「…正気かお前?昨日の今日Bクラスに入ったばかりの奴がAクラスの奴倒すなんて相当の馬鹿でもなけりゃ考えねえよ。そういえばさっき教室でそんな話をすると聞いたがまさかそれお前だったのかよ。ちなみに、Aクラスの誰とやるんだ?」

「スクルドってやつだ」

次の瞬間、ブラートは素っ頓狂な声を上げる。

「かぁー!あの《疾風迅雷》のスクルド・アイギスかよ!Aクラスでもトップ層の奴じゃねえか!」

「…アイギス?あいつもアイギスと言うのか?」

ブラートの言葉にひっかかりを覚え、俺は正直に疑問を口にする。ブラートはああ、と頷く。

「多分お前が連想していることは正しいぜ。スクルド・アイギスは、同じくAランク上位層の妹、ユーリ・アイギスとは兄妹関係にある。まああれだけ強くても、妹の方が強いって言うのも皮肉な話だけどな」

「そうか…、あいつ、あの女の兄か…」

確かに、今思い返せば、髪の色や顔の輪郭といい、どことなく似ている気がする。しかしこれで、俺にとって負けられない理由がまた一つ出来た。直接の復讐の対象ではないとはいえ、ユーリを殺そうとするならばいずれ障害となりえるかもしれない。俺が超えるべき相手の一人というわけだ。

心に決意を宿し、強い瞳でブラートを見据える。

「吐いた言葉は死んでも貫き通すってのが漢の道理だ。そのうえで俺はスクルドに勝つ。もし負けたら俺の(タマ)でもなんでもくれてやるよ。――ブラート、お前のその眼よおく開けて、集って漢を見定めろ」

「…ふん、なかなか言うじゃねえか」

ブラートは俺からの視線を真っ向から見つめ返すと、やがて背中に背負っていた大剣を鞘ごと外して手に取ると、こちらに差し出した。改めてみるとその長大な剣の刀身は、下手をすればシーナの肩幅近くはあるのではないかというほど異様に太く、長さも一メートルは超えるであろう巨大さだ。

「ほらよ、なんの銘もないクレイモアだが、そこらで出回ってるやつとは切れ味も硬さも段違いで違うはずだ。魔法使いのお前が何に使うかは知らねえが俺の魂預けたんだ。無下に使ったらただじゃおかねえからな」

「…ああ、ありがとう」

俺はブラートからクレイモアを丁重に受け取ると、背中に背負う。ブラートは剣の切っ先が膝上くらいの所にきていたが、俺の上背では踵より少し上あたりのところまで来ていて、下手をすればひきずってしまいそうだ。

「見た目お前はけっこう体引き締まってるし、そこそこ力はあると思うがなんせ俺のクレイモアは二十キロはある代物だからなあ。普通の剣みたく振り回せるとは考えない方がいいぜ」

少し心配そうに忠告するブラートに、俺は曖昧な笑みだけを返した。彼は知らないから当然なのだが、それは日本から転移して来た集にとって、全く的外れな質問だったからだ。




「おいおいなんだよこの人の多さは」

ブラートとグラウンドへ着くと、既にそこには大勢の人だかりができていた。八十人くらいはいるだろうか。ネクタイの色はまちまちで、それこそEクラスからAクラスの生徒まで様々で、どうやらこの話はブラートのクラスだけに限らず、他の教室でも噂されていたらしい。

ブラートが漏らした言葉は俺の心を正に代弁したようなものだ。入隊試験である以上見物する人はいくらかはいると思ったが、せいぜいデイティクラウドのメンバーくらいであろうと考えていた俺の見通しは甘かったようだ。

「まあ見物はいくらいようと構わねえよ。そんじゃ行ってくる」

「おお、せいぜい魅せてくれよ、お前の漢って奴を」

ブラートなりの激励だろうか。俺はその言葉に親指を立てて答えると、人垣に向かって歩き出す。

見物人たちは俺を見つけると、外側の人間から黙って左右に避けて道を空けてくれる。そして俺の前にはやがて一本の道が出来た。その奥に居るのは、腕を組み瞑目して俺を待つ漢。

「来たか…」

人垣の中心まで来るとその男――スクルドは目を開きこちらを鋭く射抜いた。彼のすぐそばには地面に突き刺さる槍が一振り。俺はそれに少なくない意外感を感じる。

俺が姿を見せた途端、それまで隣にいる生徒と話していた奴らがおおーっ、と一気に歓声を上げる。今日の主役二人が揃ったということで周りのボルテージは一気に上がっていく。

「役者は揃ったようね」

俺とスクルドが対峙すると、人垣の中で最も内側にいたセシリアが声を掛けてくる。その声はさほど大きくは無かったが、彼女持ち前のよく通る声は十分周りにも聞こえたようだ。一流の指揮者がするように、周りの見物人は一気に静かになる。

そのタイミングを見計らい、俺は今感じた意外感をそのままスクルドにぶつけてみる。

「スクルド。アンタ、そこにある槍を使う気か?みたところ、ガンランスじゃねえようだが」

ここに来るまでにブラートから聞いたことだが、スクルドの得意とする得物はガンランスらしい。彼の武器である俊敏性と柔軟性による抜群のボディコントロールで敵を翻弄し、オールレンジどこからでも一方的に攻撃し続ける戦い方から、彼に付けられた二つ名が《疾風迅雷》。しかし今彼の傍にある槍には、ガンランスのガンにあたる部分は見受けられない。

これに対して答えたのは、スクルドではなくセシリアだった。

「今回の模擬戦はあくまでデイティクラウドの入隊試験よ。スクルドが本気でやったらデイティクラウドに新隊員なんてほとんど入らなくなっちゃうわ。だから、シュウは気に入らないかもしれないけどこれはハンデ。スクルド・アイギスには彼得意のガンランスではなく、通常の槍を使用してもらいます。そのうえでシュウ・タチバナがスクルドに一撃入れることが出来れば彼の入隊を許可します」

セシリアは、最後は見物人の方にも兼ねて説明すると、周りからは納得したような反応が帰ってくる。

「なるほどな…。つまりはスクルド氏は今回得意のオールレンジ攻撃は使えず、槍による近距離戦だけしか使えないってことか」

「それでもハンデとしては小さ過ぎる気もするけど、まあ最低限試合くらいにはなりそうね」

しかし今の話を聞いて納得しない生徒もいた。無論それは俺だ。

「…一撃なんて温いこと言うなよ。俺は今回、友達(ダチ)の魂背負ってきてるんだ。――最初言ったように、目の前のこいつをぶっ倒してやるよ」

そうして俺がスクルドを指さす。その挑発的な行動に、見物人――既に観客となっている彼らは、一気に盛り上がった。

「おー!言うじゃねえかシュウって奴!いいぞもっとやれー!」

「コラてめえ調子乗んじゃねえぞお!」

「スクルドさーん!世間知らずのガキに教育してやってくださーい!」

反応はそれぞれだが、大半は俺への罵倒、侮蔑だ。この間Bクラスにやっと上がったばかりの身の程知らず、とこの戦い自体俺が負けるのを期待している生徒は多いだろう。しかし観客のヤジもセシリアの鶴の一声でぴたりと止む。

「お静かにっ!…シュウ、本気なの?大体あなたの後ろに下げているのって剣でしょ?友人の物とかは分からないけど、元々魔法使いであるシュウが付け焼刃の剣術なんて…」

「セシリア、信じろとまでは言わないが、俺は元々アンタの眼鏡に適って入隊の機会が巡ってきてるんだ。それならせめて、この戦いが終わるまでは黙っててくれないか?」

「…そうね。私があなたを推薦したんだもの。それくらいは当然よね。――スクルド・アイギス。シュウ・タチバナはこのように提案していますがあなたはどうしますか?」

セシリアは以降は口出しせず立会人として振舞うことに決めたらしい。俺の言葉を受け入れてくれたようだ。過干渉を弁えるというか、彼女のそういう人の機微を察すことが出来る点は素直に好感が持てる。

「…いいでしょう。彼がそのような覚悟で臨んでいるならば、貴族として私も無下にすることはしない」

セシリアに問いにスクルドは頷く。てっきり観客と同じく調子に乗るなと俺に言ってくると思っていたので少々意外だった。貴族とはいえ、その点はうちのクラスのトム・アーカイブスとは違うのだなと少し見直した。

セシリアはその答えを聞いていいでしょう、と片手を挙げる。

「それではこれより、模擬戦を開始します。使う武器はデイティクラウド入隊試験ということで、特例として刃引きなしで魔法も当ててよし。このルールに両者依存はありませんか?」

「ない」

「ありません」

俺とスクルドの肯定に、セシリアは顎を引く。

「よろしい。では始めます。両者後ろに下がってください」

模擬戦はお互いが十メートル離れた地点から始まる。

俺とスクルドは一瞬視線を交錯させると、互いに背を向け、グラウンドへ引かれた模擬戦用の白いラインまで歩き出す。

遠巻きに眺める観客に目を向ける。その輪の中にブラートを見つけたが、その隣にいる人物を見て、俺は危うく声を上げかけた。カリラも驚いたようで俺に話しかけてくる。

『おい主様。ブラートの隣でこっちを見ている奴、楓じゃねえか?』

(…あの馬鹿…)

楓はブラートの隣で、その鞘すら周りの生徒の中では目立つ日本刀の柄に手を添え、いつでも割って入れるようにさりげなく構えている。隣のブラートも少し気になるようで、俺の方を見ながらもチラチラ隣に視線を送る。楓ェ…。

『ありゃ主様にもしもの危機が迫ったらすぐにでも飛び込んでくるつもりだぞ。主様は愛されてんなあ』

カリラの軽口にも物を返せないレベルで呆れる。あいつは一度ここの生徒に顔が割れたというのにその自覚は無いのか。幸い顔写真などは出回っていないが、もしかしたら気づく奴が出るかもしれないだろう。楓は帰ったら説教だと心に誓って白いラインを踏むと、ぐるりと振り返る。

対峙するスクルドは既に所定についており、ゆっくりと槍を構え、腰を低める。俺も背中に手をやり、その巨大なクレイモアを腰だめに構えた。

セシリアはその二人を確認すると、後ろにいたララとユーリの位置まで下がり、勢いよく手を下した。

「それでは試合…開始っ!」

セシリアが宣言した瞬間スクルドの姿がぶれる。風の如く疾駆するその速さは文字通り疾風。開始宣告から一瞬にしてスクルドは俺を射程範囲に捉えていた。

スクルドは走ってきた勢いを乗せて、鋭い刺突を放つ。ここまでの行動で二秒と満たない。

並の戦士ならばこれで終わりだし、魔法使いならば防げる者などほんの一握りにまで限られる。当然だ。魔法使いは基本後衛専門だし、剣士などと近距離戦を行うならば自己強化魔法を事前に掛けておかなければ話にならない。

その点で言えば俺も例外に漏れず、今まで学園で過ごした魔法使いとしてのシュウ・タチバナではこの一撃で敗北していただろう。

(…学園では使わないって決めてたんだけどな)

しかしシュウ・タチバナでは無理でも、立花集ならば話は別だ。

俺はスクルドが槍を引き絞ったほんの刹那、手にしたクレイモアの腹で胴体を守る。

そのすぐ後に、クレイモアの腹に鋭い刺突。

金属同士が激突する甲高い音と共に、クレイモアを握った両手には鈍い衝撃が伝わるが、体の方は至って無事だ。

今の一撃を防がれたことに触れ合わせている得物越しからスクルドのわずかな動揺が分かる。彼もこの一撃で勝負を決める気でいたようだ。

「舐めんなよ…ッ!」

「!?」

俺は次の瞬間、立花集のフルパワーで未だ打ち合うクレイモアを振り切る。未だ刃先でこちらに力を押し込んでいたスクルドごと、だ。するとどうなるか。

「なっ…ぐッ!?」

魔法使いだと思って油断していたのか、押し返されてきた物凄いパワーにスクルドは為すすべもなく、数十メートル吹っ飛んだ。

観客、セシリアも含めた全員がそれを見て口をあんぐりと開けた。さっきまで騒がしかったヤジが一瞬で静まり返り、誰もがスクルドが吹き飛んだ遥か先をただ呆然と見つめた。

その中でどこからかぽつりと、鈴のような凛とした声が彼らの耳に届いた。

「ほら、私の集が負けるわけがありません」


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