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絃ノ匣  作者: しま
外伝
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悩ましいこと

鮮やかな色を何枚も何枚も重ねた豪奢な着物。

常に傍に控える礼儀正しい女性たち。

豪華絢爛な緩くも硬い、箱のような屋敷。


絡みついた糸を断ち切ったのは、あいであるはず。しかし、己はあいを逆に捉えて人目のつかぬ奥に押し込めた。いくら身分のある家とはいえ、宮中の狐狸妖怪のうごめく中に何も知らぬあいを放り込んだ。


「なんて、考えてはいませんよね。私の自惚れでしょうね」

「…何だ、急に」


ほうら、何を言っているのかわからないふりをして。ならばなぜ目を合わせないのです。眉間にしわを寄せたままそっぽを向くのがいい証拠でございましょう。こわばっている口元は舌打ちを抑えてのことでしょうか。かつては、何を考えているか分からないと思わせたそのおもては、今ではとても雄弁に語ってくれます。


「町に出ないか、なんて。慣れないことを言うからですよ。そんなに私、退屈そうにしていましたか」


あらあら、黙り込んでしまいました。性悪が過ぎましたかね。彼にとっては精いっぱいの気遣いだったでしょうに。ですがついつい、からかってしまいたくなるのです。


「あいにくと私、そんなに人ごみが得意ではありません」


今までの立場は、異能は、ただの言い訳でしかないのです。元々出不精だったという、情けない理由だったのです。


「それでも、今まで一座らと外に出ていただろう」

「確かに楽しくはありました」


びくりと、指先が震えて。なんて、かわいらしいお方。そんなことを言ったら怒られてしまうでしょうけど。頑としてこちらを見ないのに、こちらの言葉に応じる様が、いじらしくも慕わしい。


「でも、お庭があって、出入り自由となれば十分です」


動かない。


「良い衣に良い食事、良い寝場所もあります」


これでも、動かない。


「そこに、お慕いしたお方がいるならば、十二分ではございませんか」


今度は肩が震えました。

そんなに、鬱屈としていたでしょうか。私としてはのんびりと楽しく、暮らしていたのですが。この人が至高の位を継いで、私も気が付けばその対となる立場となって、確かにあれやこれや責任事や行事事が増えました。慣れぬものは確かに煩わしい。でも、一人ではないのです。お互いに愚痴を言い、疲れたならば供に茶を飲み、甘いものを食べ。分からぬことは周りに聞く。理不尽なことは無いとは言えませんけども。つらいだけの立場ではないのです。


「強いてわがままを言うならば、守られるだけというのも悩ましいことで。大変贅沢な悩みですけれども」


この世界は元々横のつながりはさほど重要視はされない。女は顔を隠し、基本は出歩かないものをよしとする。ぽっと出の自分が皇族にとついだとあれば、妬みに嫉みに僻みがあって当然のこと。なのに、私にたどり着く前にどうやら遮られている。もちろん、この方の力もあるでしょうし、朱華さんや柏木さん、もしかしたら父の尽力もあるのかもしれません。ただ、悪意と言うのは完全に押しとどめ消せるものではないのも事実です。


「あんまり秘されたままですと」

「と?」

「朱華さんと浮気します」


意訳するなら、彼女に協力を得て脱走しますよと。その際に、たまたまなにがしかを聞いて、たまたま柏木さんに報告してしまっても、それは偶然の産物ですので私に責任はありませんね?


「…実は、怒っているだろう」

「はて。何のことです。私に内緒でとっておきのお茶を飲み切ったことですか。お団子を食べたことですか。それともついさっきのけがを隠し通そうとしたことですか」


今度はうめき声をいただきました。


全く。隠したいなら、まずは頭領と姐さんの口を止めませんと。

あなた様が土台固めに奔走していることは知っています。なればこそ、弱みでしかない私は、守られやすい場所で大人しくしているのが一番なのです。


ゆえにゆえに、朱華さんと画策して、あやしげな貴族の袖に盗聴器ならぬ盗聴式をつけているのは秘密です。

えぇえぇ、怒っていますとも。大事な大事な旦那様にけがをさせられたとあっては。怒らないはず、ないでしょう。気分転換に外に連れ出せば収まるとお思いでしょうか。なんて、何て、ああ全く。


「おかわいらしい方」


ぐりん、と音に聞こえそうなほど勢いよく振り向かれてしまった。何です?本心ですよ?


お久しぶりです。突発的に、あいに振り回される須黒が書きたくなりました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] すきです。 あいと須黒の掛け合いが大好きです、特に最後。 [一言] こんな素敵な物語をありがとうございました。
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