勇者召喚
拳がラルクに迫る。
_____ボッコォッ!
「いっでぇぇ!」
「急になんですかあなた!!」
殴られた頬をさすりながら、殴った張本人の元へ視線を移す。
そこに居たのは、薄い金色の美しい髪の持ち主で、蒼い瞳に水色と白を基調としたドレスを纏った美しい少女だった。
おそらく同い年か、少し年下くらいだろう。
俺は、高校1年から付き合い始めた彼女と校舎裏にいた。
高校の卒業式を終えて、祝いにキスをしてほしいとお願いをし、遂に念願のファーストキスを献上してもらうところだったのだ。
目を閉じて、「うー...。」とキス顔をして唇を近づけていると、急に頬を殴られ気がついたら、異国の碧眼少女が目の前にプンスコしながら立っていた。
「え?......え?なに?あんた誰?ここはどこ?私は誰?」
「ここはフェルグラディア王国です。私は第三王女ローリス・フェルグドーラと申します。あなたを勇者としてこの場に召喚しました。」
理解が追いつかない。
異世界転生?いや、転移か?なぜ俺?いや、すっごく大好物でワクワクすっぞだけど。
今じゃなくない?彼女今頃、パニックになって泣いてるよたぶん。
「勇者って、俺が?そんな力俺にあるの?」
「それは、調べてみないとわかりません。これから大聖堂に行き能力を開示してもらいます。」
すごく本格的だ。
というかそろそろ周りの兵士さん、槍を降ろしてくれませんか。なぜか殺意が凄い。
言われるがまま、ローリスについていく。
「勇者って事は、魔王がこの世界に居るって事ですよね?どんな魔王なんです?」
「魔王の名は、シャヴィア・シルヴァリル。人間を殺戮し、世界を掌中に収めんとする邪悪な魔族です。」
「へぇぇ...。怖そう...。」
「着きました。ここです。」
大聖堂はいくつもの尖塔と、その真ん中に聳える巨大な時計を携えた建造物。
城壁を越えていた為、城から出たときすぐさま目に入った。
近くに来るとその巨大さに圧倒される。
見上げるほどに高い天井は、美しいアーチを描いて遥か頭上に広がっている。
何よりも圧倒されるのは、正面の壁一面を埋め尽くす極彩色のステンドグラスだった。
降り注ぐ昼の光が、ガラスを通じて赤や青、黄金色の光の帯となり、厳かな大理石の床を鮮やかに染め上げている。
まるで、光そのもので編まれた万華鏡の中に迷い込んでしまったかのようだった。
目の前にすごくヨボヨボな、息を吹きかけたら今にも倒れて天から迎えが来そうな老神官が立っていた。
「ようこそいらっしゃいました。こちらへどうぞ。」
礼拝堂の中央に設置された、大人の頭ほどもある巨大な魔力水晶があった。
「こちらに手を翳すだけで構いません。」
言われるがまま、魔力水晶に手を翳す。
すると突然、ひび割れんばかりの猛烈な輝きを放ち、大聖堂の天井を突き抜けるほどの光柱を打ち上げていた。
「____な、何という魔力量だ……! 予言は、予言は真実であった!」
儀式を執り行っていた老神官が、震える声で叫び、その場に膝を突く。
良かった。びっくりして心の臓が止まってなくて。
周囲に控えていた近衛騎士たちも、あまりの神聖な気配に圧倒され、次々と剣を引いて平伏していく。
光が段々と収まっていき、翳していた手に集まる。その手には、神々しいデザインの剣が握られていた。
老神官が目を見開き、前のめりになって説明してくれる。
「そ、それは!!!選ばれた主の魔力に呼応し、眩い黄金の粒子を漂わせる白銀の刃!それこそが、我が国の象徴たる聖剣『レクイエタス!!』その剣があなた様の前に現れたという事は、正真正銘の勇者様で間違いございませぬ!!この目で生きているうちに拝めるなど、恐悦至極に存じまする!!」
めちゃくちゃ早口な老神官の叫びが木霊すると同時に、大聖堂の重厚な扉が開け放たれた。
現れたのは、フェルグラディア王国の頂点に立つ者たち。まばゆい衣装を纏った王族の血頭が一歩を踏み出す。
「よくぞ、我が呼びかけに応じてくれた、異世界の勇者よ」
「いや、応じたつもりないです。こっちはお楽しみ中だったんですよ。どうしてくれるんですか。」
威厳に満ちた声で語りかけてきたのは、国王だった。その隣には、慈愛に満ちた笑みを浮かべる王妃。だが、あなたの目を引いたのは、その背後に控える2人の王女たちだった。
「お初にお目に掛かります、勇者様。第一王女のエナドにございます。あなたのその力、実に素晴らしい。これならば我が国の憂いも晴れましょう」
紅いドレスに身を包み、誇り高く、どこか冷徹な美しさを湛えた長女、エナド・フェルグドーラ。
彼女は値踏みするような視線を一瞬だけ向け、完璧な淑女の礼をとった。
エナド...?
リを足したら一徹出来そうな名前だな...。
俺も何回お世話になったことか。
「ふーん、あなたが勇者? 聖剣レクイエタスに選ばれた割には、ちんちくりんね。」
黄色のドレスに身を包んだ彼女は、妖艶な笑みを浮かべ、値踏みするように覗き込んできたのは、第二王女のカシャル・フェルグドーラ。その瞳の奥には、邪悪とも言える強い執着と計算が垣間見える。
ちんちくりんって...。
それよりも、
れくいたす...
れくれいたす...
れくたえいす...
あぁーー!!もう!!言いにくいな!!
レタスでいいや。
「さあ、勇者よ! 宴の準備だ!!!お主は今日から、我がフェルグラディア王国の勇者として魔王討伐のために殉国してもらう!!」
国王の宣言とともに、大聖堂の外からは、地響きのような民衆の歓声が聞こえてきた。
あれだけ大きな光を放ったんだ。
国中に勇者誕生が知れ渡っているだろう。
宴は朝日が昇るまで行われていたらしい。
らしいというのは、俺は成長期の身体には徹夜は難しく、眠気に耐えられず早々にローリスに部屋に案内してもらったからだ。
酒を何度か勧められたが、流石に未成年で飲酒は罪悪感が半端なかった。この世界では、16歳から成人らしい。なので、17歳の俺はすでに成人らしいけど...。あ、てことは結婚もできるのかな?
眠い目を擦りながらムクリと起き上がる。
起きたら自分の部屋...という夢オチを期待していたのだが甘くなかった。
いや、むしろ戻れなくてハッピーかもしれない。だって、俺勇者だよ?魔法使えるんだよ?街のみんなが俺が通るだけで、「勇者様!勇者様!」ってわっしょいわっしょいしてくれるんだよ?でも、せめて彼女とキスしてから召喚されたかった...。
____コンコンッ
部屋の扉からノックが聞こえてきた。
「勇者様。お目覚めでしょうか。」
「はい、目覚めてます。」
ガチャ
「朝食の準備が整いました。ご案内いたしますのでご支度をお願いいたします。」
着替えを済ませ、案内のメイドの後ろを歩く。
「あの、勇者召喚って、ええっと...第三王女様が行ってるんですか?」
横文字の名称を覚えるのがどうも苦手だ。
自慢じゃないが、英語のテストも毎回赤点だ。
「左様でございます。第三王女 ローリス様しか召喚魔法は扱えません。神に選ばれたお方なのです。」
あぁ...そうだそうだ。ローリスちゃんだ。忘れるから、ロリちゃんで覚えとこう。
「てことは、元の世界に戻すことも出来るんですか?」
「いえ、召喚は一方通行です。こちらに取り寄せることは出来ますが、送ることは出来ないという感じですね。」
「召喚した人間が、勇者の適性が無かった場合どうするんですか?」
「さぁ、着きましたよ。こちらへどうぞ」
食堂の扉を開けると、すでに国王、王妃、3人の王女達は着席をしていた。




