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小次郎転生伝  作者: 杉山薫
第七部 時空
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 天正十年二月、仁科盛信の高遠城が落城すると武田家臣団は総崩れとなる。新府城の武田勝頼は真田の岩櫃城か小山田の岩殿城のどちらに撤退するかの選択を迫られる。結局、外様である真田ではなく、小山田を選んだ武田勝頼は岩殿城に撤退する途中で小山田の寝返りにあい、新府城へ逆戻りすることになった。三月十一日、天目山麓の田野において武田勝頼の最後の戦いが始まった。


 滝川一益率いる織田軍は大軍をもって寡兵の武田軍に迫り、圧倒する。そう、歴史通りでいいのだ。武田勝頼の最期に立ち合うことができれば、リセットされることもなくおそらくオレの目的は達成される。若武者の武田信勝の活躍は目覚ましく織田軍を斬り捨てていった。やがて、田野の地で全員自害することになった。


そして、オレは白光眼を開いて勝頼の元に歩いていく。


「小次郎か……。介錯を頼む」


武田勝頼の言葉を最後まで聞かずにオレの口が勝手に動く。


「すまぬ。もう一度やり直しだ。次は必ず迎えにくる」


もう一度?

次?


「小次郎、何度目だ?」


武田勝頼は苦笑いしてオレにそう言った。


何度目?

勝頼、お前なに言ってんだ。


「来たぞ。小次郎」


武田勝頼がオレにそう言うと、白く光る世界から異形の鬼が歩いてくる。


まさかね。

鬼って、本当に青鬼かよ!

洒落にならんぞ。


「おい、クソ坊主!」


あれ、無視ですか?


オレは忍び刀を抜き、雪舟と思われる青鬼に斬り掛かる。手応えがない。


まさか、幻術?


そういえばこの白く光る世界ではオレは何故か攻撃できなかったんだ。青鬼(せっしゅう)はオレに気づいていないようだ。


どうやらターゲットは武田勝頼らしい⋯⋯。

どうする?


あっ、閉じればいいんじゃねえか。


オレが白光眼を閉じると、辺りは色彩を取り戻す。青鬼(せっしゅう)はそのまま武田勝頼に歩み寄っていく。


「おい、クソ坊主! 無視かよ」


青鬼(せっしゅう)に反応なし。


とりあえず青鬼(せっしゅう)をぶっ飛ばす。手応えがあった。


物凄く痛い。

あれ、これでも無視ですか?


仕方ねえ⋯⋯。


「風魔忍術 疾風斬!」


城でも斬れそうな斬撃が青鬼(せっしゅう)を直撃する。傷一つつけられなかったが、こちらには気づいたようだ。オレは青鬼(せっしゅう)に声をかける。


「おい、クソ坊主。無視はいかんぞ。そういう小さなことが学級崩壊のきっかけになるんだぞ」


オレの渾身のギャグが虚しく響き渡る。そして、静まりかえった場に青鬼(せっしゅう)のガアアアアという叫び声か泣き声かわからん声が響き渡った。


こいつ、一度ばかりか二度までも⋯⋯。


青鬼(せっしゅう)はオレを見つめる。見つめるがそれだけ。やがて、オレに飽きたらしく武田勝頼に向き直る。


頭にきた。

とっておきだ!


「風魔忍術 風雷棒!」


オレの忍び刀の切っ先から噴き出した蒼白い閃光は周囲の空気を巻き上げて天目山の空に雷雲を渦巻かせる。その雷雲は激しい勢いで渦巻いていく。


「落雷!」


オレがそう叫ぶと凄まじい轟音をたてて蒼白い閃光の柱は青鬼(せっしゅう)に直撃する。


辺り一面に焼け焦げた臭いが充満している。


おおー、どうやら今度は効いたようだ。


青鬼(せっしゅう)は跡形もなく消え去っていた。


こいつ、絶対死なねえんだろうなと思いながら武田勝頼とふたたび向き合う。


「ハハハ、とんだ邪魔が入ったね。じゃ……」


オレは最後まで言葉を言わないまま気を失った。


 そこは暗闇の世界。雪舟と会う場所。オレは仰向けに倒れている。


なんだろう。

オレの身体、光ってないか?


向こうから青鬼(せっしゅう)がのっそのっそとゆっくり歩いてくる。


「忌々しい。忌々しいぞ。小次郎、せっかく時の底に貶めたというのに這い上がってきおって。道舟が余計なことをするから……」


青鬼(せっしゅう)が恨めしそうにオレを見て言う。


時の底?

なんだよ。

それ?


「おい、ヴィルはどうした?」


「ああ、あの役立たずはワシが喰ろうてやったわ。涙流して喜んでおったわ」


「なんでお前に食われて喜ぶんだよ?」


「そんなこともわからんのか。ワシら鬼に食われてしまえばそれで終わり。何もなくなるからだよ」


意味がわからん。


オレがしばらく黙り込んでいると青鬼(せっしゅう)は言葉を続けてきた。


「アヤツは時の底を彷徨い続ける亡者だったからな。ワシの手先として使ってやっていたのに。本当に使えん奴だ」


「時の底ってなんだよ?」


この世(じごく)を永遠に彷徨う地獄の底の地獄だよ」


なんとなくイメージできた。

要は永遠にタイムループするっていうことだろ。


「それって、何度でもやり直せるってやつだろ。いいんじゃねえか?」


「愚か者め。永遠に同じ間違いを繰り返すことがいいことなのか?」


同じ間違いを永遠に繰り返すって地獄じゃねえのか。


オレは青鬼(せっしゅう)の言葉に首を縦に振った。


「ところで雪舟。お前、先ほど聞き捨てならねえことを言っていたが。オレをその時の底に貶めたと言ったが相違ねえか?」


「フハハハ、ワシら鬼をさんざんコケにしたお主を時の底に貶めて何が悪い。お主が何度も何度も自死して時の底から逃れようとする様、面白かったぞ」


「そうか。それで今際の際の四郎とオレを会わせたくなかったんだな」


青鬼(せっしゅう)は首を傾げる。


「雪舟、さっきのオレと勝頼の会話は聞いていなかったろ? 次は必ず迎えにくるってオレは武田勝頼に言ったんだぞ。この意味わかるか?」


青鬼(せっしゅう)はハッとしたような顔をした。


「それでは次にお前と会うときはお前の最期だ。楽しみにしてろ。クソ坊主!」


青鬼(せっしゅう)は何かを言いかけたが、その前にオレがリセットをかけたために聞き取れなかった。罵る言葉だったのか。懺悔の言葉だったのかもわからない。

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