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小次郎転生伝  作者: 杉山薫
第六部 征伐
31/37

 オレはそのまま小田原に向かって歩いていく。別に急ぐわけでもなく、どこかに立ち寄るでもなく。ただ、歩いていく。こんな狭い国なんかどんなにゆっくり歩いたってゴールに着く。オレはその年の十二月には風魔の里のオレの家に戻っていた。家に戻って数日後、親方(こたろう)がオレを心配して見舞いに来た。


「小次郎、久しいな」


「長いこと留守にしてしまって、すまぬ」


オレは気乗りしない言葉を返す。


今回の親方(こたろう)の訪問の意図が分かっているから⋯⋯。


甲州征伐のため織田と徳川に手を出すな。オレが親方(こたろう)の立場でも同じ指示を出す。


「実はな」


親方(こたろう)の言葉を遮り、オレは口を開く。


「甲州征伐だろ。すまぬ。事情が変わった。大暴れしてリセットしてもらう」


「リセット。なぜ?」


オレの言葉に親方(こたろう)は戸惑う。


「伊賀の大虐殺でゆきなを失った。どうしてもその前まで戻る必要がある」


親方(こたろう)は得心したようでそれ以上は何も言わずに立ち上がって部屋を出ていった。


 翌天正十年二月、木曽義昌の裏切りにより織田・徳川連合軍そして北条家による甲州征伐が開始された。


「小次郎殿、すまぬ。兄者との連絡がつかなくなっての……」


「仁科殿、お気づかい痛み入る。某はある人物の暗殺のためにここで待っているだけだからな」


オレが高遠城主の仁科盛信にそう言うと仁科盛信はこう返した。


「御館様ということはないと信じてよいのか?」


仁科盛信の懸念は当然である。北条家は今回、織田・徳川連合軍と組んで甲州征伐に参加しているのである。その配下のオレが武田家に与するとは俄には信じがたいのだろう。


オレは首を横に振り仁科盛信に告げた。


「織田の跡取りだ」


オレの言葉に仁科盛信は驚きを隠せないようである。


「織田信忠がここに攻め込んでくるのか?」


オレは首を縦に振って頷く。


「間違いない。そして、この高遠城は激戦の末、落城する」


オレの言葉に仁科盛信はしばらく言葉を失ったが、やがて気を取り直して口を開いた。


「某は?」


「もちろんここで討ち死にする」


オレの言葉に仁科盛信の顔に生気が漲る。


「安心しました。仁科盛信、この城とともに逝くのであれば本望でござる」


この男が生き続けていれば歴史は変わったのかもしれないなと思ったが、オレはそれを口にせずに仁科盛信の前から消えた。


 オレは高遠城近くの林に潜む。大軍をもってこんな小さな城を包囲するのだ。高遠城にいたのでは総大将に辿り着く前に織田軍を全滅させてしまう。まあ、それでもリセットされるなら問題ないが、確実なのは本能寺の変のキーマンの一人である織田信忠をここで討ち取ることだろう。


 やがて、織田軍は三万の大軍で高遠城にやってきた。すぐさま籠城戦をとる高遠城を包囲し始める。オレは総大将の織田信忠を捜す。残念ながらオレは織田信忠にあったことがない。会ったことがないのだから気配で探すことはできない。


なんだろう。

オレの記憶の片隅。

一夜城……。

まさかね。


オレの記憶というよりはこれはおそらく荘介の記憶だろう。


荘介は未来の人間ではない。だとすると、ここでの一夜城という記憶が出てくるわけがない。


オレの記憶?

わからん。


そんなことをオレが考えていると何やら屋敷のような建物ができ始める。


まさかね。

そんなところに総大将が居たら殺ってくれと言っているようなものである。


オレは近くにいる武将を捕らえて身ぐるみを剥がして武者に変身した。


何をする?


もちろん決まってる。

北条家家臣の橘左衛門佐の登場である。



「こりゃかなわん。なんで北条家家臣が織田軍に攻めらにゃあかんのじゃ」


オレは堂々と織田軍の本陣に入って行く。衛兵はオレを止めに入るが、オレの熱い眼差しでノックアウト。白光眼をほんの少しだけ一瞬開いて衛兵の動きを止めただけなのだが……。正直言うと伊賀攻めの際のトラウマが残っていて白光眼を使えないというのもある。


 オレはスイスイと織田軍本陣の中心へと進んでいく。そもそもオレは風魔上忍なのだ。普通に潜入したってこのくらい造作もないのだ。ただね、オレは残念なことに織田信忠の顔を知らない。なんとなく居そうな集団を皆殺しにしてもいいが敵は三万の大軍だ。本陣に総大将がいるとは限らない。よって甲州征伐に与する北条家家臣という肩書が是非とも必要なのだ。


本陣らしき場所に到着したオレはすかさず挨拶した。


「某は北条家家臣の橘左衛門佐。衛兵にここにくるように言われたんだが……」


一人の若武者がオレを見て鋭い眼光で言った。


「北条家に橘などという家臣は……」


そこまで言うと隣に居た老臣が若武者をとめる。


「これは小次郎殿。お久しゅうございますな。金ヶ崎以来ですな」


誰やねん?


オレは苦笑いをするばかり。


「一益、やはりこやつ曲者ではないか?」


先ほどの若武者が殺気立つ。


かずます。

かずます。

ああぁ⋯⋯。


「滝川殿か。すまぬ、わからなかった。許せ」


オレがそう言うと滝川一益は笑いながら言った。


「某も歳を取ったからな。わからんでも仕方ない。若、この者が桶狭間で活躍された風魔小次郎殿でござる」


若?

一益、名前で呼べ。

若じゃわからん。


若武者はオレの顔を一瞥して滝川一益に言う。


「桶狭間で活躍? この若造がか。寝言は寝て言え。どう見ても某と歳は変わらないぞ」


そう、オレはここに転生して以来、外見的には歳を取っていないように見えるのだ。ゆきなは年相応になってきているんだが……。


オレは痺れを切らして滝川一益に訊く。


「滝川殿、この方は?」


「ああ、信忠様にござるよ」


ビンゴだ。

後はどのタイミングで殺すかだ。


いかんせん、隣にいるのは滝川一益。中途半端なタイミングで斬りかかったら確実に滝川一益に阻止されるだろう。どうするか?


「これは織田殿のお子でしたか? 某、お父上とは桶狭間の戦友でしてねって、白々しいにも程がある……」


「小次郎殿、いかがされたか?」


滝川一益が心配してオレに駆け寄る。


織田信忠のガードがガラガラ?


あれ、これ行けるんじゃね。

風魔忍術 疾風!


オレは疾風を使い、滝川一益の横を風のようにすり抜け、ターゲットの織田信忠の胸に忍び刀を突き刺す。


よし!


これで確実に即死したろう。後はヴィルの登場を待つばかり。


「お主、何やつ!」


滝川一益がオレに向かって突進してくる。その場にいる織田方の武将たちもオレに突進してくる。


ヴィル早く来い。


ヴィルが来るのを邪魔しないため白光眼は使えない。オレは疾風を連発して逃げ回るが、やがて部屋の隅に追い詰められる。


仕方ねえ。

ダメ元だ。


「リセット!」


次の瞬間、オレは比自山城の一角にいた。

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