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小次郎転生伝  作者: 杉山薫
第六部 征伐
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「オレが転生者じゃないってどういうことだ?」


「言葉の通りだ。お主、己を人とでも思っているのか?」


雪舟の言葉にオレは自らの身体を見る。

間違いない。

人間だ。


オレが深く頷くと雪舟は呆れ顔で呟く。


「己をわからぬ者がそのような力を持つなど……」


全くもって意味がわからんクソ坊主だ!


やがて、戦死者の武具を漁る野盗が現れたのでオレは白光眼を開く。すると、野盗どころか雪舟までが倒れ込む。


「咎人が! 私にこんなことをしてタダで済むと思うなよ」


雪舟がそう言うと小助が現れる。


「やっと見つけたよ。雪舟」


小助の言葉に雪舟の身体はピクリとする。


「おのれ。道舟か……」


いや、小助ですけど⋯⋯。


「旅人よ。ご苦労だった。コヤツを捕まえるのに一苦労だったのだよ」


そう言う小助の言葉にオレは首を傾げる。


「お前……」


オレの言葉に小助はニヤリと笑う。


「お主の思った通りだ」


いや、全くわからん。


オレが黙り込んでいると小助は語り始めた。


「雪舟は某と同門の神。旅人よ、この広い世界にはたくさんの神がいるのはわかるか?」


オレは小助の言葉に黙って頷く。


「まあ、お主もそうなのだがな」


「オレが?」


小助の言葉に首を傾げるオレを見て、雪舟が呟く。


「お主がこの世(じごく)の均衡を壊したんだよ。咎人よ」


「オレがこの世(じごく)の均衡を壊した?」


オレの問いに小助が答える。


「そうだよ、旅人。お主がこの世(じごく)の均衡を壊したんだ。覚えていないのかい。まあ、覚えていなくても不思議ではないけど。そろそろ戻るよ。雪舟を連れて……」


小助がそう言うと、オレの意識が消えていった。


 次にオレが目覚めた時、オレの目の前にゆきなの顔があった。


ち、近!


「ゆ、ゆ、ゆきな、落ち着け。何やってる?」


「えっ、ちゅうだよ。あんた起きないから毎日ちゅうしてんだよ。眠り姫を起こすのは王子様のちゅうでしょ! 知らないの?」


「おとぎ話じゃねえか」


オレがそう言うとゆきなは急に不機嫌になる。


「あんただってちゅうしたでしょ!」


「確かにした。なんかわからんが身体が勝手に。でも、その一回だぞ」


オレの反論にゆきなはさらにヒートアップ。


「一回でも百回でもちゅうはちゅうだろ!」


「百回もしたのか?」


「覚えていないわよ」


痴話げんかは延々と続く。


 時は天正九年九月、オレは伊賀の国で目覚めた。ちゅうがどうとかは、もうどうでもいい。間もなく織田軍の総攻撃がここ伊賀の国で行われる。後の世に言う第二次天正伊賀の乱である。そんな歴史的に重要なイベントにゆきなと一緒にその場にいる。もう、嫌な予感しかしない。


「ゆきな、今すぐ一緒に風魔の里に戻ろう」


オレの言葉にゆきなは首を横に振る。


「明日、ナオっちとピクニックに行くんだから無理に決まってんじゃん」


戦国乱世にピクニックの約束って時代錯誤も甚だしい。


「ごめん。日にちまでは覚えていないんだが、天正九年九月に織田軍の伊賀攻めが行われて非戦闘員も含めて皆殺しになるんだよ。今日かもしれないし明日かもしれない」


「小次郎、あんた風魔の疾風だろ。織田軍が総攻撃してくるならあんたの出番じゃん。何逃げ出すって、笑えるんですけど」


ゆきなはオレの言葉を笑い飛ばす。


「ゆ、ゆきな頼むよ。もう、さよの時のような想いはしたくないんだよ」


「ハイハイ」


ゆきなはそう言って、オレの頭を抱えて呟く。


「めぐみだって同じこと言うと思うよ」


オレは振り絞って言葉を吐き出した。


「それでも、それでもだよ……」


 そういうやり取りをした日の翌日、天正九年九月二十七日、織田軍は伊勢地口、柘植口、玉滝口、笠間口、初瀬口、多羅尾口の六方より侵入して戦闘が開始された。もう、ピクニックどころの騒ぎじゃない。ピクニックの予定が平楽寺だけあってゆきなとナオは平楽寺に籠城した。


寺にピクニックって?

ギャルが?


ブルブル震えるナオにゆきなは励ます。


「大丈夫だよ。風魔の疾風がすぐに来るから」


「ホント?」


ゆきなの励ましが少しは効果があったのか。ナオは笑顔を取り戻す。


ホントに来るのか。

風魔の疾風⋯⋯。

ピクニックの行き先を伝えてないのに。


一方、その頃オレはもう一方の伊賀衆の籠城先の比自山城に潜伏していた。


いかんせん、人が多い。

ゆきなとナオの気配を探すがまったくヒットしない。

平楽寺か比自山城の二択っていうならここが違えば平楽寺ということになるが、ゆきなはピクニックに行くと言っていた。しかも、一緒に行っているのはギャルのナオだ。


ギャルが寺にピクニックに行くって誰が想像できる?


オレは伊賀の国全体の動きを止めてゆきなを見つけるために精一杯の力を込めて白光眼を開く。


今、ピキッっていう音が聞こえたような……。


やばい!

なんか両目に痛みが走る。

痛い。

痛い!


オレの両目から大量の血が溢れ出る。


仕方ない。

背に腹は代えられない。


オレは忍び刀を己の胸に突き刺す。オレの胸から血が噴き出し辺りに血の匂いが充満していく。


痛い。

痛い!


何やってんだ。

オレは!


やがて、オレは絶命して暗闇の世界に仰向けになって倒れていた。


 オレの身体の近くにヤツの気配を感じる。しかし、なぜだろう。今回はヤツは何も言ってこない。いつもなら咎人と罵ってくるのに。ただ、オレの身体の近くで佇むだけだ。しかし、やがてオレの顔をまじまじと見て呟く。


「咎人よ。自らの行いを大いに悔め」


雪舟がそう言うとオレの意識は消えていった。


また、夢を見た。


ここはどこだろう?


耳に聞こえるのは小川のせせらぎ。オレは静かに目を開ける。知らない天井。やがて、聞こえてくる足音。


足を引きずっている?


「小次郎、やっと起きたか」


誰かの言葉にオレは苦笑いをする。どうやらリセットはできなかったようだ。その男の姿というと、顔の至るところに刀傷や火傷の跡があり右目も失明しているようだ。身体はというと右脚の神経がイカれているようだ。衣に隠れてわからないが見えないところもボロボロなのだろう。


 天正九年十月十二日、オレは比自山城近くの林の中で目覚めた。オレは木と人の焼ける匂いに呆然としていた。そう、伊賀の大虐殺は終わってしまったのだ。オレは周囲を彷徨う。探すというよりは彷徨ったのだ。そして、平楽寺付近の遺体の山で見つけてしまった。ナオの遺体と重なるようにして放置されたゆきなの遺体を。オレはゆきなの遺体を持ち上げた死んだ後も何十回も刺されただろう身体の刀傷とおそらく最後まで放ち続けたであろう自らの火炎で火傷だらけになった顔。オレはゆきなを抱きしめその火傷だらけになった唇にキスをした。


 しばらくして、オレはゆきなとナオの遺体を荼毘に付した。ナオの遺骨は平楽寺付近の眺めのいい丘に埋葬し、オレは伊賀の国を立った。目的地はゆきなの故郷と聞いている伊勢亀山。場所の詳細はわからないがゆかりのない土地に埋葬するよりはいいだろうという考えだ。伊勢亀山に着くとオレはは見晴らしのいい丘を探した。程なく見つかり、ゆきなの遺骨を埋葬した。


しかし、雪舟の言うように大いに悔いることはなかった。オレには切り札がある。リセットという大いなる切り札が!

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