一
永禄十三年四月、織田・徳川連合軍は三万の軍を率いて京を出陣して越前遠征に向かった。越前に侵攻した織田・徳川連合軍は天筒山城を皮切りに朝倉の城に攻撃をかけ金ヶ崎城を落城させる。これが姉川の戦いの前哨戦となるエピソードである。
永禄十三年四月、元号が改元され元亀元年四月、風魔の里で療養していたオレは親方に呼び出される。
「療養中すまぬ。小次郎」
「なぁに、ずっと眠っていたらしいから別に療養しなくてもよいのだが、ゆきながね……」
「すっかり尻に敷かれているじゃないか。ガハハハ」
「兄者、くノ一だけは勘弁してくだされ」
「まあそう言うな。ゆきなもお主を慕っておるしな。火炎使いとしてはなかなかだぞ」
潜入任務はからっきしだけどね⋯⋯。
「それでどんな任務ですか?」
「京から伝令が今しがた来たんだが織田が動いたらしい」
「越前攻めですね」
「なんだ知っておったのか。そういうことは先に言え」
いや、今しがたまですっかり忘れてた。
「結果だけ言うと浅井と朝倉が滅亡するだけのつまらん歴史ですけど……」
オレがそう言うと親方が驚きを隠せない。
「浅井って。お主、織田信長の姉が嫁いでいる先ではないか」
「戦国乱世のならいでしょ」
オレが笑ってそう言うと親方が真顔で言う。
「いや、さすがにそれはないだろ」
ないと言われても、そうなったんだから仕方ない。
「それで任務というのは?」
オレは再度訊く。
「将軍より信長追討令が密かに出たらしいのだがな。追討令が出た以上、北条家としても何かせんといかんのだが、いかんせんここからでは遠い故、風魔衆に後方撹乱をと主家北条家から依頼がきているんだよ」
「オレが行ったら後方撹乱で済むわけがないでしょう」
親方の言葉にオレは不敵に笑った。
「そのことよ⋯⋯。今回もやりたい放題やっていい。とにかく北条家も動いているということを示せればそれでいい」
「そういうものですかね」
「不満か?」
「不満というよりも、オレがどう動こうがオレの知っている歴史とは変わらないんですよ。桶狭間以来のオレの感想ですね。やっても無駄!」
「そう言うな。北条家としては動いているところを示せればいいのだからな」
「やりますよ。でも、今回はオレだけでいいですよ」
オレがそう言うと親方は不思議そうに言う。
「大掛かりな合戦なんだろ。大部隊を率いたほうがよいのではないか?」
オレは少し考えてから答えた。
「いや、今回はオレだけのほうが都合がいいんですよ。ゆきなもお留守番させておいて……」
オレの言葉を遮り、親方が笑って言った。
「それは無理だぞ。先ほどまでお主の後ろでこの話を聞いていたからな」
はあぁ。
あいつ、潜入任務ダメなんだけど。
オレは準備をしながら考える。
このターンで信長を襲撃できるポイントは三つ。金ヶ崎撤退戦で近江朽木で襲撃する。信長が京から岐阜に戻る途中で襲撃する。姉川の戦いでどさくさに紛れて襲撃する。どれでもオレなら余裕で暗殺できる。できるんだが、暗殺した途端リセットされるのは目に見えている。歴史を変えられないのに転生者を自由に動けるようにしている……。わからん。
ゆきなは準備万端で今か今かと待っている。
「なんだ。遠足前の小学生みたいだな」
「はあ? 新婚旅行前の新婦ですけど。失礼しちゃう!」
だからね。
くノ一だけは勘弁してくれ。
オレとゆきなは東海道を上って歩いていく。こいつ何がそんなに嬉しいのか。スキップしてやがる。
スキップ?
もし、これがゲームでオレが本能寺の変までスキップし続けたら、どうなるんだ?
織田・徳川軍は北近江の盟友浅井家の裏切りにより越前と北近江からの挟撃を受ける危機にみまわれたてしまい、金ヶ崎より撤退を始め、越前敦賀から近江朽木を越えて京へと撤退していく。確かこんな感じのストーリーだったような⋯⋯。
そう、オレとゆきなは朽木に潜み信長を待つ。オレの不安はただ一点。このくノ一がポンコツだということだ。幸いここには天井がないため安心してたが、先ほどからキャンプキャンプと言ってはしゃいでいる。
キャンプインでもする気なのか⋯⋯。
京に撤退する信長を待ち伏せするには朽木に限る。ここで待っていれば信長の方からやってくる。エビデンスあるのかよって? もちろんある。ウィキペディアにそう書いてあった気がする。
そろそろだなと身構えるオレ。
後方でゆきながはしゃいでいる。
まあいい。
騎馬で撤退するんだ。
多少、はしゃいでいても……。
なんか焦げ臭い?
ゆきなの方を見ると燃えている。
何がって?
山だよ。
いくら大うつけでも山火事に向かって撤退しねえだろ!
キャンプってキャンプファイヤーのこと?
山燃やしてどうすんだ。
ポンコツくノ一が!
オレは仕方なく撤退する騎馬隊に向かって走っていく。
信長だ!
オレは信長が騎乗している騎馬を撫で斬り落馬させる。信長はオレを見て何かを感じ取ったらしい。
「小次郎か?」
「みりゃわかるだろ」
信長は首を横に振る。
ん?
どうゆうこと。
「おいおい、宿敵の顔を忘れたって言うのか?」
「小次郎くん、織田殿は君が歳をとっていないことに驚いているんだよ」
「お前、ヴィルか? ヴィルなのか」
突然のオレとヴィルの登場に戸惑う信長。オレは周囲を見渡す。一緒に撤退してきた織田軍がいない。
「おい、一緒に来た騎馬隊はどうした?」
オレが訊くとヴィルが答えた。
「雪舟様に消してもらったよ。邪魔だからね」
「消したってクソ坊主がか?」
「小次郎くんは雪舟様を馬鹿にしすぎだ。そんなことしていると……」
ヴィルの様子がおかしい。
ヴィルは失神してその場に倒れた。
ん?
どうゆうこと。
オレは信長を見るが首を横に振ってオレを指差す。
「小次郎、お主その眼はどうした?」
眼?
「おいおい、お前何言ってんだ。眼ってどういうことだ? もっと具体的に言えよ」
「では、某が答えよう」
声をする方向を見ると見知らぬ男がいた。




