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ヘスペリデスの黄金の林檎  作者: ful-fil


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幸運の女神が微笑んだのは

 ここはヘスペリデスの園。

 門前にはピンクの髪をしたアステロペーが気の抜けた様子で佇んでいる。

 ひらひらと飛ぶ蝶をぼんやりと目で追うアステロペー。


 そこへ数名の集団がやってきた。


「聖書についてお話させてくださいませんか?」

「ヘラ様の果樹園で聖書の布教活動するとはいい度胸なんだよね~」

「あなたの血液が綺麗になるように祈らせてください」

「初対面の相手の血液が汚れていると言外に決めつけておいて、失礼だと思わないあたりがすでに人として終わってるんだよね~」

「つい最近、東京が壊滅的被害を受けたのをご存じですか? 復興のために一口千円で寄付を募っています。寄付してくださった方にはハンカチを一枚プレゼント。こちらは清めて祈りを込めたもので」

「しないし、いらないんだよね~」

「東京壊滅で多くの人が行方不明になりました。我々信者は神の導きにより東京から遥か遠い異世界に運ばれ、難を免れたのです。すべては神のお力で……」

「テュポーンのお力なんだよね~。その辺の裏事情は私の方がよく知ってるんだよね~」


 集団は互いにヒソヒソと相談し合った。

 やがて相談がまとまり、愛想のよい笑顔でアステロペーに語り掛ける。


「なんと幸運な出会いでしょう。あなたのように詳しくご存じの方がいらっしゃると大変心強いです。どうか私どもと一緒に来てお話をして下さいませんか? 東京を襲った災害についてお話を聞かせていただきたいのです」

「持ち場を離れるわけにはいかないんだよね~」

「お仕事が終わるまでお待ちしてもよろしいでしょうか?」

「……この奥には黄金の林檎があるんだけどね~。オークションにかければ十億はくだらない、正真正銘のお宝なんだよね~。ぶっちゃけ盗みに来るやつは大体ニオイでわかるんだよね~」

「……」

「新興宗教の教祖が不老不死の秘薬を手に入れたがるとか、ありがちなテンプレだよね~」

「……さようですか」


 集団は表面上の愛想を脱ぎ捨てて、一斉に武器を取り出した。


「制圧するぞ!」

「相手は一人だ!」

「これでもくらえ!」


 催涙ガスらしきものが放たれる。

 銃弾が立て続けに撃ち込まれる。

 ガスに巻かれたアステロペーは俯いている。

 銃弾が撃ち込まれる度に、彼女の体がビクン、ビクンと痙攣するように震える。

 やがてガスが薄れ、顔を上げた彼女の、その顔には……。


「……ペストマスク? いつの間に。いや、そんなもので防げるわけが」

「今日の私は機嫌が悪いんだよね~」


 一歩、二歩と前に出てくるアステロペー。

 ぶん、と槍を一振るいすると、全身からパラパラと銃弾が地面に落ちた。


「さようなら~なんだね~」


 一瞬にして距離を詰める。

 襲撃者が最後に目撃したのは、風になびくピンクの髪。


 最後の一人を狩り終え、アステロペーは槍の汚れを振り払う。

 ペストマスクを脱いで出てきた顔は不機嫌そのものだ。

 クシュンと小さくクシャミをして、鼻をこするアステロペー。


「ついてない私に、神様のお導きとか幸運とかって嫌味としか思えないんだよね~」






「クシュン!」

「ロペりん、風邪か?」

「ん~ん、さっきガス攻撃されてさ~。マスクしたんだけど、ちょっと鼻に入っちゃったみたいでさ~。ムズムズするんだよね~」

「それは災難だったな」

「ラードーンのごはん、ここに置いとくね~」

「ああ、わかった。お疲れ様」


 ヒュギエイアはラードーンの首を撫でていた。


「なあ、ラードーン。私は本当に運が悪い。前回も留守番だったのに、今回もだなんて」


 ラードーンが五十本の首で慰めるような咆哮を上げる。

 残りの五十本は食事に忙しい。


「ああ、おまえと過ごすのが嫌なわけではないぞ。ただ、今度ばかりは恨めしいのだ。パラっちは前回もお出かけしたのに、今回も当たりくじを引いたのだぞ。幸運なやつはどこまでも幸運なのだな」


 ラードーンはさっきとは逆の五十本で餌にかぶりつき、さっきまで食事をしていた五十本が今度は咆哮を上げた。

 交代でヒュギエイアを慰めているらしい。


「ありがとう。おまえはいい子だな。だけど残念だ。パパに会いたかった……」


 ラードーンの首に腕を回して顔を伏せるヒュギエイア。

 ラードーンの口からは唾液が滴っている。


「今頃どうしているかな、パパ……」





「エリリン、無事に着いたか? こっちは異常なしだ。テミちゃんからの連絡もまだないな。うん、何かあったらすぐ連絡する。妹たちのこと頼むぜ。エリリンも怪我すんなよ」


 通話を切ったアイグレーは、さて、とイカロスに向き直った。


「じゃ、尋問すっか」

「お手柔らかにお願いします」





「ホーホッホッホ♪」

「声がうるさいぞ、パラっち」

「ウフフ、だって嬉しさが爆発しちゃうんですもの。止まらないのよ。テミちゃんだってさっきから顔が笑っているわよ」

「何を言う。私は笑ってなどいない」

「口元が緩んでいるのよ~。隠しても隠しきれない嬉しさが、ほら、この辺に滲み出ているわよ~」

「よさないか」


 つんつんと口元をつついてくるリパラーの指を払いのけるクリューソテミス。

 冷たい声を出そうと努力はしているが、確かにその口元はうっすらほころんでいた。


「あ~、ワクワクが止まらない。私たち最高についてるわ。幸運の女神が私たちに微笑んでいるのね」

「いい加減なことを言うな。幸運の女神など……」

「ギリシアではテュケー、ローマではフォルトゥーナよねー。特別仲良くした覚えはないけど、今の私には見える、フォルトゥーナが運命の輪をぎゅんぎゅん回している姿が! 今なら無敵!」

「また適当なことを。勝手に女神の名を借用するものではない。フォルトゥーナが聞いたら怒るぞ」

「大丈夫よ~。来るわけないじゃない、宇宙基地に」

「まあそうだな」


 リパラーとクリューソテミスの眼前にはティターンサイズの超巨大建造物、宇宙基地『アトランティス』がそびえたっていた。





「どうせ私は不遇な女……」

「リカっち、人形はバッグに仕舞っときなよ」


 アイリカーはラビュリントスの玄関口で雑な入国審査を受けながら、藁人形を握りしめ、くじ引きで負けた不運を嘆いていた……。



アステロペーが装着したペストマスクはファッションアイテムです。ガスから身を守る効果は期待できませんので、ほぼ自力(吸い込まないように息止めて薬物耐性で抵抗)で無効化したと思われます。銃弾が通らなかったのは防具の性能+戦闘系ニンフの体質です。ちなみにヘスペリデス姉妹の物理戦闘ランキングはヘスペリエーがぶっちぎりの最強、二位が長姉の貫録でアイグレー、三位はヒュギエイアとクリューソテミスが同じくらい、残りの三人は最下位争いで団子状態です。つまりアステロペーは最弱の一角。いつもなら奇策・奇襲を使うアステロペーですが、機嫌が悪かったので珍しく真正面から殴りに行きました。

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