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12 切り札の使い方


 俺はコルトをホルスターに戻す。地面には伊藤たちが蹲り、悶えていた。

 勝利したが、何の感慨も感情も湧かない。復讐は何も生まないと言うが、元々復讐する対象ですらなかった。

 

 どうでも良いんだ。こんな奴ら。

 生きようが死のうが。

 襲ってきたから払い除けた。


「ぢ、ぢぐじょう……ご、んなデブに俺がぁ」


 剣を掴もうと藻掻く伊藤。俺はその剣を更に遠くへ蹴り飛ばし、歩き去ろうとした。


「見違えましたね」


 馬車から二人の人影が降りてくる。

 一人は担任の小林、そしてエスコートされながら現れたもう一人は王女だった。


「……城を放ってここまで来るとは暇なことで」

「桜庭! 王女様になんだその口の利き方は!」


 小林が激高するが、王女は手で抑える。


「私は強い者が好きなのですよ。そのためならどこへでも行きます。そして――弱い者には制裁を」


 這い蹲る伊藤の手を、王女は容赦なくヒールで踏み抜いた。


「がぁああ!?」

「あれだけ手塩にかけて育ててやったのに、情けない。あなたもその他も、なんて体たらくでしょうか。これでは到底、帝国に進撃など出来ません」


 帝国……? ファクトリアスの事か?


「王女、アンタが俺たちを召喚したのは魔王を倒すためって……」

「フフフ、そんなの出鱈目ですわ。本当は帝国進撃の足掛かりとして呼び出したのですよ。異界の住人なら多少の訓練で熟練の騎士以上の戦力になり得る……それを利用しない手はありませんわ」


 こいつ……自分の戦争のために、他の世界の俺たちを利用しようとしたのか?

 ふざけやがって……!


「サクラバ・ヤマト。私の軍門に下りなさい。そうすればサルティナで一番の顔役にしてあげますわ。そこの情けない連中を好きなように出来ますのよ?」


 俺の気を知らず、好き勝手に話を進める王女。


「俺が城から出る時、散々馬鹿にしておいて今更戻ってこいだ? 手切れ金も渡しておいて良くほざけるな」

「桜庭!」


 また小林が怒鳴るが、王女は冷酷な笑みを崩さない。


「私は王女ですの。右と言えば右。言わなかったと言えば、言わなかった。過去の言動など、無意味ですわ。そんな私に逆らう意味、お分かり?」


 ニヤリ、と口角を歪めた。 


「我がサルティナ全存在をかけてあなたを潰しましょう。確かにあなたの腕前は素晴らしいものです。ですが、国そのものと戦えますか? 私の号令一つでサルティナの全てがあなたの敵になりますのよ」

「………」


 残念だが、どれだけポイントが合っても国家そのものと対決するのは……無理だ。向こうは数で、質で、あらゆる面で上回る。

 王女の言う通り、一人では勝てない……。


「全く聞き捨てなりませんねぇ」


 だが、俺の背後から一人の男性が現れた。先日迷子だった子供の父親だ。今日は豪奢な制服を身に纏っている。


「誰ですの? 平民風情が口を挟まないで下さいまし」


 突然の乱入者に王女は不快感を隠さず、吐き捨てた。しかしそんな失礼な態度にも親父さんは相好を崩さない。


「まさか、私をご存じでない? いやはや、流石は田舎者王族だ。こんなちっぽけな大陸を支配した程度で、世界に挑もうと夢見るサル山の大将よ」

「何ですって?」

「貴様ぁ……」


 王女と小林は湯気を上げそうな勢いで睨みつける。


「私の名前はヨハン。ヨハン・ライオネル・エアハートと申します」

「ヨ、ハン……? 嘘ですわ、まさか、そんな……!」

 

 目に見えて王女は動揺し始める。


「なんで、なんでファクトリアスの大貴族が、我がサルティナに!?」


 そうだ。俺が連れていた迷子は、ファクトリアスの中でも頂点に立つ貴族の子供だった。

 北村が宿を襲撃してきた後、俺は迷わず彼らに助けを求めに向かい、そこで初めて知らされたが……驚いたぜ。


「おや、いちゃいけませんか? 不可侵条約を結んでいる国に。ああ、でも破るおつもりなんですよね。我が国に攻め込むようで」

「い、いえ、あの……それは……」


 王女は先ほどまでの威勢は消え失せ、視線を足元に落としてしどろもどろだった。傍目でも分かるくらいの滝汗を流している。


「大変困りますねぇ。猊下も御身とは友好を望んでおられるのですが」

「は、はい。私も皇帝陛下を裏切るなど……」

「それにヤマト君を連れていきたいようですが、やめて欲しいですね。彼は私たちの恩人ですから。もし手を出すなら、私は彼を守るために行動するでしょう」

「わ、わ、分かりました。ど、どうかご無礼をお許しください……もうサクラバ・ヤマト殿には手出し、致しません!」


 最早、青から白くなった顔色で首を垂れる王女。


「はい。ヤマト君の件はそれで良いでしょう。それで? しますか? 戦争。申し上げにくいのですが、我らとあなた方では勝負にならないと思いますけどね。異界の住人とやらも、ヤマト君以外は程度が知れましたね」

「め、めめめめ滅相もございません! どうか、これからも我が国と……なにとぞ……!」

「まあ、その話は今後猊下となさってください。私はただの軍人ですので」

「お待ちください! どうか、どうかご内密に!」


 王女は踵を返したヨハンさんの足に縋ろうとする。威厳もクソもない。こんなのに統治される人たちが可哀想だ。


「しつこいですよ。王女様」


 その背中から滲み出る殺気。俺も思わず背筋が震えるほどだった。


「ひ……」

「今すぐ、そこに転がっている情けない連中を連れて、帰りなさい」

「は、はい!! コバヤシ、何を突っ立ってるのですか! 回収しなさい!!」

「は、はは!」


 ギャグマンガみたいな素早さで二人は伊藤や残った連中を馬車に放り込み、御者が馬の尻を引っ叩いて物凄いスピードで走り去っていった。


「……ケガはありませんか?」

「はい。助かりました」

「それは良かった。あなたに何かあっては、うちの息子に泣かれてしまいますから」

「……ありがとうございます。そして、すみません。ごたごたに巻き込んでしまって」


 俺は頭を下げる。クラスメイトも担任も、顔見知り全てが敵なったこの世界で、リアやヨハンさんの存在に救われた。


「まあまあ。そう堅苦しくしないでください。そうだ。せっかくだから私たちが泊ってる宿に来ませんか? 息子が先日見た機械をもう一度、出して欲しいみたいで」

「ああ、ドローンですか? それはもちろん」


 こうしてようやく、俺はクラスメイト達と完全に袂を分かつことが出来た。


次回、最終話

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