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遥か異界の地より  作者: 富士傘
臥薪嘗胆暗黒就労編
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46話

狩人ギルドの職員から情報を得た俺は、少々道に迷いつつもどうにか宿屋に戻ってきた。戻る途中でいきなり衛兵に職質されてかなり焦った。ヴァンさんの忠告を思い出す。俺が慌ててギルドで貰った木の板で出来た粗末な見習い証を見せると、ゴミを見るような目で俺を睨めつけて去って行った。見習い狩人なんて下っ端オブ下っ端なんだろうけどなんつー態度だよ。腹立つ。

その後、観光したい気持ちを抑え、俺はそそくさと宿屋に戻ると、早速薬草採取の準備をすることにした。


明日の採取は情報収集が主目的のお試しである。武装をするかどうかは正直かなり迷った。出来れば身軽な姿で行きたいところなのだが、弓は持って行かないとかなり不安だ。いや、戦闘云々ではなくこの宿屋がな。日本のホテルのようなセキュリティは望むべくもない。ゼネスさんたちに貰ったこの弓を盗まれたら俺はたぶん泣く。迷った挙句、結局持っていくことにした。そして荷物をまとめて準備を終えた俺は、回復魔法の鍛錬をした後で寝ることにした。因みに未だに頭や尻から回復魔法を発動することはできていない。焦らずじっくりやるつもりだ。


翌日の早朝。宿屋の親父に外出することを告げた俺は、町の北門に向かった。俺達は街道の西の方からこの町へやって来て南門から入たのだが、町の南側は川と農地が広がっている。逆に北の方は、小高い山を越えて暫く歩くと広大な森林にぶち当たる。薬草の類はその奥で採取できる。正確には奥じゃなくても自生はしているのだが、主な群生地は薬師ギルドの管轄下で採取厳禁である。


北門で衛兵に外出を告げた俺は、どうにか手続きを終えて町の外へ出てきた。見慣れない顔立ちで弓を背負った俺は衛兵どもに胡散臭い目で見られ、予想通りかなり手続きに時間を要した。早めに宿を出て来て正解だったぜ。


常設依頼の採取薬草にはいくらかの種類がある

一つはスクラ草。煎じて塗ると外傷に効く。集落でもお馴染みだったものだ。俺は使ったこと無いけど。俺は覚えやすいから勝手に傷草Aと呼んでる。

二つはトラムラ草。こいつも外傷に効く草だ。集落では他にもいくつか外傷に効く野草があったが、この町での採取依頼はこの二つだ。こちらは傷草Bと呼称する。

三つは毒などに効くデトフシ草。一般的な恐らく神経毒や出血毒に効果があると思われる。勿論すべての毒に有効なワケではないだろう。解毒草Dと呼称する。

四 五はそれ単体では何の効果も無いが、傷薬の材料になる薬草だ。なんと、この世界にも薬効が凄まじいポーション的な傷薬があるそうだ。効果に応じて色々種類があるが、薬師ギルドの独占販売で総じてかなりのお値段がする。どれ程の薬効か一度見てみたいものだ。ポーション草A ポーション草Bと呼称する。

俺が採取しようと考えているのはこの5種類。他にもいくつか依頼はあるが、正直覚えきれない。狙いは絞ったほうが良いだろう。


尤も、今は採取より優先すべきことがある。

今の俺が必要としているモノ。それは薬草ではなく情報である。いや、報酬の金も欲しいけどな。まあ今はソレは二の次だ。

此れから入る森は俺にとっては未知の領域だ。何の情報も無い森の中をを当てもなく薬草を求めて徘徊するなど正直気が滅入る。

死と隣り合わせで食い物を探し回ったあの時とは決定的に違う。今は町に戻れば食堂や宿屋で飯を食い、水を飲むことが出来るのだ。しっかりとセーフティーネットが確保されておる。金子を持たせてくれたオルグには感謝しかない。


てなわけで。俺がこれからすべき仕事は薬草探しではなく、此れから入る森の情報を調べ尽くして俺の縄張りとすることだ。さすれば薬草など、無暗に探し回るまでもなくおおよその位置を把握できるだろう。たぶん。


暫く歩いていると、遠目に鬱蒼とした森が見えてきた。人の手が入った道も、森のかなり手前で途切れている。俺は周りに物音や息遣いなどの気配が無いことを確かめながら慎重に森の中へと足を踏み入れた。


森の中は、下草が生い茂り、一見人の手が入らない自然の姿に見える。だが、俺の目は誤魔化されない。良く観察すると、僅かに茎の折れた草や踏み荒らされた痕跡、地面にはわずかに凹んだ足跡、露出した木の根に付いた傷、そして・・ぐうっなんか臭え。これは動物のモノじゃねえ。誰か催して糞しやがったな。

・・・このように人の出入りしている痕跡が至る所に見受けられる。町に程近い森の入口ならこんなものだろう。周りを見渡しても食えそうなものは見当たらない。粗方町の人間に採取されてしまっているんだろう。当然、薬草なんて根こそぎ取り尽くされていそうだ。


ギルドの職員によれば、この森の奥深くには魔物が出没するそうだ。だが、出没する魔物の情報はすでに仕入れてある。出会い頭の遭遇に気を付けていれば無暗に恐れる必要は無い。俺は地形と目印となる岩や大木の位置を頭に叩き込み、要所で目印を付けながら慎重に森の奥へと踏み込んでいった。




___安宿に戻った俺は回復魔法で脚の疲れを癒している。今日一日随分無理をして歩き回った。町の検問は日没前には閉まってしまうため、それまでには戻ってこなくてはならないからだ。その分、成果は悪くない。森の浅い領域はかなり把握できたと思う。


但し、最初の印象の通り森の浅層は人の手が入りすぎて森の恵みも採り尽くされている。途中、視界の端に同業者らしき集団を視認もした。それなりの成果を出すにはもっと時間をかけて森の奥まで行く必要があるだろう。


今日は傷草Aと解毒草Dをいくらか採取できた。実はとある実験の為のお目当ての薬草ではなかったのだが、明日狩人ギルドに持ち込みに行こう。

その後はゴルジに場所を教えてもらった薬師ギルドを訪ねて情報収集をするつもりだ。なぜなら、薬草の正しい採取方法を聞くのを忘れていたからだ。狩人ギルドで聞いても良いが、どうせならその道のプロに聞いておきたい。


尤も、突然訪ねてきた狩人ギルドの下っ端中の下っ端に、薬師ギルドの連中が快く情報提供をしてくれるのかと問われれば甚だ心許ない。情報提供を渋られるかもしれんし門前払いされそうな気もするが、質の良い薬草を卸すことが出来れば連中にとっても悪い話じゃないはずだ。期待はできる。いつだったか地球で見た飛び込み営業のサラリーマンの心持で頑張ってみよう。


俺は何時ものように鍛錬の締めくくりに体内で回復魔法をぶっ放すと、スッキリした気分で粗末なベッドに潜り込んだ。


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