45話
「ですから金貨一枚いただきます。」
え~~~~!?金要るのかよ。しかも金貨かよ!ゴルジイイイイイイ早速金貨に縁できちゃったぞおおおネガティブな意味で。
「金・・・金貨一枚も ない。」
金貨一枚は銀貨50枚に相当する。中々の大金である。
「そ、それは困りましたね。しかし、これはギルドの規約なので如何とも・・。」
「むむ。カトゥーどうする?」
ヴァンさんもこれは予想外だったようだ。加入金のことを失念していたのはちょっとオマヌケだが、ヴァンさんも人の子。余所のギルドの事を何でも知ってるワケも無いし、そういうこともあるだろう。
「それなら俺が代わりに・・・ん。」
俺は手を上げてヴァンさんを止めた。これ以上はいけない。これ以上金銭で世話になるわけにはいかない。今更だが、俺はヴァンさんとは出来るだけ対等な立場で居たいのだ。
「金は無い ・・・ので今は諦める。」
俺はおばちゃんに告げた。
「仕方ない 行こう。」
そして、ヴァンさんを促して帰ろうとした。
すると、肩を落とす俺に同情したのか、おばちゃんが何やら提案してきた
「それでしたら、正式なギルドメンバーではなく見習いから始めるのは如何でしょうか。」
どこぞで聞いたような話だが、ギルド所属の狩人にはそれぞれランクがある。一番下から一番上まで10段階だ。日本語に訳すと10級から1級てとこか。その更に上に特級と言うべき名誉職なんてものもある。上のランクに上がるには、依頼を数多くこなしたり、ギルドに何らかの貢献したり、推薦をもらったり様々な方法がある。但し、5級以上はいきなり審査が厳しくなり、筆記試験もあるため、ここが一つの巨大な壁となっている。
なので、一人前の狩人と見なされるのは5級より上であり、その待遇も稼ぎも奴隷から貴族くらいに変貌する。
ちなみに商人ギルドにはそのようなものは無い。実際の所はともかく、建前上の立場は横一線である。
俺は加入費用に驚愕してしまったが、実は狩人ギルドはそれでも数あるギルドの中では最も門戸が広いギルドの一つである。金貨1枚であれば庶民でも頑張ればどうにか払える額な為、加入希望者は後を絶たない。俺のような身元の怪しい不審者と違って、例えばこの町や周辺の村の出身者であれば審査は簡単に通る。金はしっかり取るが。
そのため、口減らしに放り出された3男以下の農家の息子や、似たような理由で家を追い出された貴族のドラ息子、どこぞで金を見繕った地元のチンピラ、無謀な夢を見て家や集落を飛び出した地元のガキなど多種多様な連中がギルドの門戸を叩く。
一応ギルドの門戸を叩く以外にも、兵士に志願する等の手もあるにはあるのだが、この国の場合は余程のコネが無ければ都市の衛兵などにはなれず、そのまま最前線へ直行なので人気は無い。いずれ兵士の確保のため徴兵でも始まるんじゃなかろうか。
そのように加入のハードルを低くしている理由は何故か。それは狩人ギルドは常に人手不足だからである。なぜなら、需要が多いこともさることながら、狩人は魔物と戦ったり、迷宮や遺跡を探索したりする職業柄死にまくるからである。特に新人は、加入者に脳筋で無謀な連中が多いせいかあっという間にガンガン死んでいく。
あまりにも死にまくるため、ギルドも頭を抱えて様々な対抗措置を取った。
俺が提案された見習い制度もその一つである。いきなり狩人になって危険な依頼を受ける前に、職業訓練を受けることで死亡率を下げることが出来ますよという大変有難い制度だ。また、ランク制度が出来たのは脳筋どもが無謀な探索や依頼を受けて死ぬのを少しでも減らすためのものである。
ヴァンさんがコソッと教えてくれたが、他に見習い制度が出来た理由として、職業訓練を受けさせる以外にも、俺のように金貨1枚も払えない貧乏人達が子供などの口減らし要員を気軽に放り込む為の配慮という暗黒の側面もあったりする。その場合は、どうにか自分で稼いで加入金を納めないと何時まで経っても正式なギルドメンバーには成れない。
因みに依頼を受けなければ勿論死ぬことは無いが、そうなると金を稼げない上、理由もなく長い期間依頼を受けなかったり指名依頼を拒否した場合は除名されることもある。そのような理由で除名された場合は、日本で言う所のブラックリスト入りして二度とギルドには加入できない。
ギルド職員の説明によると、見習い制度の職業訓練には二つの選択肢があり、一つは誰か現役の狩人の下について金を稼ぎつつ経験を積む。もう一つは依頼は自分でこなしつつ、ギルドで行われる教育実習を受ける。何れの選択肢にせよ金さえ納めればギルドメンバーになれるので、金が溜まれば見習い卒業である。但し、教育実習を選んだ場合は必ず一度は受けなければならない。
「見習い 卒業するのは どちらが多い?」
「・・・・現役の下に付く子には余り居ないわね。」
ですよね~。しつこく聞いた結果判明したが、面倒を見る狩人は一応ギルドが斡旋してくれるようなのだが、その後の見習いの扱いはその狩人に一任である。報酬の配分もだ。さらに、虐待を受けようがどこかで野垂れ死のうが全て自己責任で済まされる。見習いは所詮その程度の扱いである。例えば誰かの下に付いたとして、赤の他人が親切に一人前になるまで俺の面倒を見てくれるようなビジョンが浮かばない。良い様に使い倒されて搾取されるのが目に見えますもの。狩人ギルドって聞くからにちょっとヤバそうな連中多そうですし。
「教育実習の方で 見習い お願いしたい。」
俺はおばちゃんにお願いした。
というわけで、俺は晴れて狩人ギルドの、いや狩人見習いとなった。見習いなので厳しい制限はあるものの、一応狩人ギルドへの依頼を受注することだけは可能となった。ちなみに教育実習は当然のように有料である。教育実習の教官には引退した狩人や、身体の空いている現役狩人が指名されたり志願したりする。俺達が払う金以外にもギルドから補助金が出る為、彼らにとってもちょっとした小遣い稼ぎになるのだ。
なにはともあれ、俺はまず金を稼がにゃならん。見習いになった時点で教育実習を受けることは義務なので、正式な狩人になるためにはいずれは受けなくてはならんが、今は受注可能な依頼を調べてみよう。ちなみに、忙しいヴァンさんは、用事が済むと風のように去って行ってしまった。
見習いが受けることが出来る仕事は、基本常駐依頼だけである。常駐依頼はギルドの壁にある小さな掲示板に貼り出されている。見ると、粗末な出来だがこの世界には皮紙以外にも植物原料ぽい紙があるのが分かる。
通常の依頼は受付で現在要請が来ている分を照会して、職員と相談しながら決めるそうだ。なんだか想像していた掲示板に群がって依頼用紙を剥がして持っていくのとは全然違うな。まあ張り出しタイプだと守秘もクソも無いだろうしな。
今ある常駐依頼は、各種薬草の採取とオブ、もとい猪や山羊の肉と皮の採取か。あとはドブさらいやら資材の運搬やら街道の除草などのいわゆる雑用。この町では見習いが受けられる魔物の討伐依頼は無い。
職員に話を聞くと、薬草は薬師ギルドと提携しており、肉は宿屋や食堂と提携しておりそれぞれに卸される。皮は革工ギルドや防具鍛冶ギルドへ卸されるそうだ。
とはいえ、ここの周辺の薬草の群生地はすべて薬師ギルドに私有地として抑えられており、無断で採取したら重罪である。もし発覚した場合は即刻ギルド除名の上、悪質な場合、翌日には川に浮いてることもあるそうだ。こええよ。
肉や皮の方は、今では地元の契約猟師が殆どを賄っている。勿論そこの森や山は彼らの縄張りだ。まあどちらも需要が絶えないため、俺達にも仕事が回ってくるんだけどな。
どの依頼も問題なくこなせそうではあるが、実入りの良いのは薬草の方か。ただし近場の群生地は抑えられている。どうしたもんか。
俺は職員の人に入っちゃいけない薬草の群生地や他の薬草が生えているおおよその場所、町への出入りの手続き方法などを教えてもらい、翌日早速仕事に取り掛かることにした。




