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遥か異界の地より  作者: 富士傘
一丘之貉傑雛聚合編
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第250話

俺達が参戦する魔物及び猛獣討伐の仕事が始まる迄には、未だ三日間の猶予が有る。いや、正確に言えばもう様々な段取りが絶賛進行中らしいのだが、標的と交戦する実働部隊が本格稼働するのが三日後からなのだそうだ。


では其れ迄の間、どう過ごそうかという話になったのだが。先ずは金パツ坊やの提案で、広場を離れてウィッシの町を適当に散策してみた。が、直ぐに飽きた。散策の前に提案を受けた荷物持ちのおばちゃんズから、此の町で観光とか正気か?などと鼻で笑われたので軽くシバきたくなったが、成る程彼女達の言った通りだった。


確かに目抜き通りを中心に多くの人々で賑わってはいるものの、街の景観には取り立てて見どころは無い。山間部のド田舎なので無理も無いが、王都やギリンガムと比べると、そもそも観光地化されてる場所が皆無なのだ。


そのせいか町の中心部から少し離れた辺りまで足を延ばすと、周囲は途端に貧相で閑散とした街並みとなる。そして原住民と思しき連中から、下半身を露出した小太りでハッピー頭な中年男性並みに不審な目でガン見されるので、大層居心地が悪い。尤も、怪しい不審者扱いされたのは俺独りの時だけだが。全く世の中不条理過ぎるぜ。いっそ道の真ん中でフルキャストオフして、反応の違いを確かめたいくらいだ。


しかも町の其処かしこには出入り禁止な場所が存在しており、不用意に近付くと武装した見張りに邪険に追い払われる。其の事については、おばちゃんズが訊ねてもいないのに勝手に教えてくれた。どうやらウィッシやギリンガムの街中で立ち昇っていた黒煙は、鉱山で採掘した鉱石を製錬したり精錬する際の煙らしい。そして俺達が締め出された道の先には精錬所が在り、定められた関係者以外の立ち入りは鉱山と同様に硬く禁じられているそうな。


また、通りに立ち並ぶ露店で売られている食い物や雑貨の類は、基本余所者達の足元を見たボッタクリ価格である。しかも事前にきっちり談合してるのであろう。何処の露店の価格も一律で横並びだ。先刻にはボッタ値を提示された金パツ坊やが渋い顔で考え込むのを見かねたのか、頼まれもしないのにおばちゃんズの一人が威勢良く値引き交渉を買って出た。すると露店の店主と猛烈な剣幕で言い争いを始め、遂には目当ての果物の乾物を、見事半値未満まで値切って見せた。


いや、しかし。確かに凄い手並み、いや口並みだけどさあ。値引き額と値引きに必要な労力とが甚だ釣り合ってねえよ。あと二人の熾烈な言い争いの最中、周りの人々にアホ程ガン見されるので滅茶糞恥ずかしい。


しかし幸いにもギリンガムに滞在していた際に、俺達は此の町の物価が高い事は予め聞き及んでいた。なので充分な量の食料の備蓄を持参して来たので、当面の間は町の食堂や露店を頼る必要は無さそうだ。また、飲料水は水番から許可を貰えば、町で管理されてる井戸から無料で汲み上げる事が出来る。


まあ食料が無いなら、俺が周囲の山で狩りする事も出来なくは無い。しかし恐らく此の辺りの山林は近隣住民の縄張りだろうから、不用意に手を出さない方が良さそうだ。それに土地勘が無いので、もし誤って何処ぞの鉱山に迷い込んでしまって露見した場合、お尋ね者か最悪首チョンパされちまうしな。


てな感じでウィッシの町は今だけは討伐特需でやたら賑わっているものの、普段はこんな山奥にワザワザ訊ねて来る余所者なんぞ滅多に居ないし、名所も行楽地も名物も何も無い。あ、あのゲロマズソーセージは名物とは絶対認めねえから。


そんな退屈で辺鄙で無味乾燥な此の町は、比較的新しく築かれた町なのだそうな。


俗悪なゴシップから政治迄、近隣の風聞や逸話にやたら詳しいおばちゃんズから町を散策する間に色々と聞いた(と言うか勝手に語り出した)のだが。


此の辺りの山では、銀が採れる事がかなり古くから知られていたそうな。しかし近年に至る迄、大規模な開発や開掘は行われていなかった。何故なら元々は人里離れた山奥な上、近隣には数多くの魔物や猛獣が跋扈していたからだ。その上超危険な魔物領域にほど近い事もあり、仮に鉱山を開いて銀を採掘出来たとしても、到底採算に合わないと見做されていたらしい。


しかし今から100年程ほど昔。今は無き探索者ギルドの大反乱が勃発し、エリスタルの統治が著しく乱れた直後。由緒は有るが代々貧乏貴族であった此の辺りの土地を治める当時の領主は、乾坤一擲の賭けに出た。詳しい内容は不明だが、王都に出向いてエリスタル王と鉱山開発に関する約定を取り付けると、私財を投げ打って更には借財までして、これまでに無い大規模な鉱山開発に乗り出したそうな。


殆ど一か八かの賭けに近い投資だったが、結果として巨大な銀鉱床が発見され、領主は見事賭けに勝利を収めたそうな。また鉱山では銀以外に金や鉛、更には後に開鉱した近隣の山では銅や鉄鉱石なんかも採れるらしい。加えて故郷ではついぞ聞いた事の無い、謎金属の元になる鉱石もだ。


そしてウィッシの町は、其れ等の鉱山資源の恵みと労働需要の恩恵を受けて、新たに築かれた町の一つなのだそうだ。ま、以前ギリンガムで聞き込みをした際に、ある程度の情報を聞いてはいたが。



結局日没前まで町を歩き回った末に元の広場に舞い戻った俺達は、一旦此の場所で腰を据える事にした。一応駄目元で町の数少ない宿泊所を訊ねてみたが、結局何処も満室だったからな。


そこで金パツ坊やが、その辺で屯してる中では出来る限り身形が良さそうな男に声を掛けて訊ねてみたところ、どうやら広場の中では狩人達と傭兵達、その他外部の協力者といった各々のグループが、大雑把に場所を区切って寝泊まりしてるらしい。何故なら纏めて同じ場所で寝泊まりしてると、直ぐに喧嘩になるからだそうだ。


てかその割には耳障りな怒号や煽り声、更には生々しい打撃音やら弱々しい呻き声が広場のそこかしこから聞こえて来るんだが。


・・・まあいっか。


傭兵ギルドと狩人ギルドの関係の良し悪しは、まぁ地域に拠って様々だ。


移動手段や連絡手段に乏しい此の世界では、遠く離れた各地域に拠点を置くギルドの運営は、殆ど自治に近いからだ。例えばエリスタルの王都の場合だと、傭兵ギルドは構成員の行儀が程々に良い上、キッチリ統制が取れてるお陰で諍いの仲裁や仕事の住み分けが上手く出来ているので、狩人ギルドとはソコソコ良好な関係だと聞いた事がある。逆に北方諸国とバチバチ殺りあってるエリスタルの北西域や、東の大国とバチバチ殺りあってる東端域の荒んだ都市となると、双方の構成員同士で度々殺し合いが起きる程に両者の関係は険悪らしい。


では俺達の居る此の辺りはどうなのか。男の話では、喧嘩が殴り合いの範疇に収まる程度には悪く無いのだそうだ。いやいや、其の説明じゃ良いのか悪いのか全然分かんねぇよ。


まぁもしおかしな奴に絡まれたら、対処は金パツ坊とナヨ雄に押し付けてしまおう。イキの良いスパーリング相手が来てくれるなら寧ろ好都合だし、万一二人がボコられても、俺が出張れば余程ヤバい奴じゃない限り問題無く返り討ちに出来るだろ。うむ、我ながら後輩想いの素敵な差配だぜっ。丁度人間相手のシバき加減を調整する為に、俺も喧嘩したいと思ってたトコロだしな。


俺達は広場を歩き回って具合の良さそうな場所に目を付けると、各々背負った旅荷を地面に降ろした。荷物持ちとして働いて貰ったおばちゃんズとは、此処でお別れだ。


「フェル坊や。ロディ坊や。アタシの身体が欲しけりゃ、また何時でも声を掛けな」


「決して油断するんじゃないよ。北の魔物は怖いからね」


「おいカトゥーや。この先も女から見向きもされないなら、ウチが慰めてやるよ。ウヒヒッ」


坊やから労いの言葉と幾らかの心付けを受け取ったおばちゃんズは、実に良い笑顔で好き勝手な事をホザきながら俺達の前から離れていった。


おばちゃんズの面々は、普段はギリンガムで農婦をやってるそうだ。が、今夜と明日は此の町で知己が営む酒場に乗り込んで、ギルドからの前払い分の報酬と坊やから貰った心付けで浴びる程飲みまくってからギリンガムへ帰るそうだ。お前等幾ら何でもフリーダム過ぎるだろと呆れてしまったが、彼女等の主張を信じるならば、農地の土造りと種撒きは既に終わっているので、今は少しばかり家を空けても何ら問題は無いらしい。


おばちゃんズと別れた俺達は、手早く天幕を立てて夕餉を済ませると、交代で見張りを立てながら今日はそのまま就寝する事に相成った。見張り役は勿論、野郎三人である。但し、俺は後でコッソリ夜の鍛錬に励むつもりだが。


とは言え、現状一つ困った事が有る。夜間ションベン達がシモを放出しに行く度に、一々護衛を付けなきゃならん事だ。何せ俺達の周囲には、如何にもガラの悪そうな連中がごまんと居るからな。


しかし俺は勿論、護衛役をノータイムで拒否られた。尤も、俺も嫌なので寧ろ願ったりだがな。次いで金パツ坊やについても、ションベンと乳白色は相手側の護衛に坊やが付く事に難色を示した。なので結局、二人がシモブッパする度に、都度ナヨ雄が駆り出される羽目になった。例え就寝中でも即座に叩き起こされて、だ。済まんなナヨ雄。お前には何時も貧乏くじ引かせちまって。


そして翌日。


今日は朝から広場に滞在した俺達だったのだが。黙ってても無暗に目を引く身形をした坊や達は、まるで葱と鍋を背負った鴨の如く、見るからに素行の悪そうな連中からそれはもう絡まれまくった。


「お~う、そこのガキ。ちょっと待てや。オイ!お前だお前。逃げんなオイッ!」


「・・・・俺に何か用でも?」


「おうおうおうお前、随分と金持ちズラしてんじゃねぇかよ」


「いや、俺は別に「ウルサイぞ阿呆ズラの貧乏人が。体から糞みたいな悪臭を撒き散らしおって。貴様は毎晩便所のチーチクとでも乳くりあってるのか」


早くも何度目かになるチンピラ風味な野郎からの熱烈なお誘いを受けて、流石にウンザリした様子で応じかけた金パツ坊やを見て。俺はすかさず横から口を挟んでみた。此処は腕を磨きたい坊やの為に、俺が一肌脱いでやろう。坊や。いっちょ楽しく喧嘩しようぜ。


「・・・ドチビがぁ。ブチ殺すっ!」


あ、馬鹿。こっち来んな。


チンピラ風男に一言浴びせた俺は、実に小物っぽいムーヴでさり気なく坊やの背中に身を隠した。が、俺達の側面に素早く回り込んだチンピラ男は、坊やをシカトして俺に掴み掛かって来た。


チッ、ならば致し方無し。


俺は隙だらけな男のふくらはぎにカーフキックを叩き込むと、バランスを崩して前のめりになった男の顎を、フック寄りなスマッシュで撫でるように軽く打ち抜いた。


そして瞬時に意識を刈り取られたチンピラ男は、力無く地面に崩れ落ちた。


「フェルよ。今の打撃の軌道を参考にすると良いだろう。次からおかしな理由で絡まれたら、お前が仕留めてみろ」


「・・・・」


あれ?うひょ~い加藤君凄っげえ!とか大層な盛り上がりと拍手喝采を期待したのに、何だか坊やの反応がイマイチだな・・・まあいっか。次だ次っ。


その勢いと流れに乗って、次に絡んで来た傭兵と思しきチンピラを、今度は思惑通り金パツ坊やにシバかせた。うむ、坊やの奴中々悪くない動きだ。騎士学院では組打ちの稽古もみっちりやるそうだからな。そこいらの傭兵程度なら容易く仕留めよるか。


何だか今一つ乗り気じゃなかった坊やだが、更におかわりで一人シバかせると、漸く気分が盛り上がって来た様子。よ~しこの調子でどんどん行くぜ・・・と、次の獲物への期待に胸を膨らませたのだが。


「オアアアッ!」


「くあっ!?」


今度は絡まれるどころか、背後からいきなり襲われた。不意を打たれた坊やは、ブン殴られて派手に地面に倒れ伏す。う~む、俺の耳にはヤる気満々な背後からの足音が丸聞こえだったのだが。坊やは気配の察知に課題アリだな。


そして不埒な襲撃者に目を向けた俺は、些か驚いた。お前、さっき俺がシバいた奴じゃねぇか。弱い癖に回復力は中々のモンだな。しかし何でソッチを狙うかね。坊やの方が与し易いとでも思ったんだろうか。


俺は坊やへの危険な追撃を避ける為、間髪入れずに間に割って入った。そしてタフなチンピラを、更に念入りにシバこうとしたのだが。


「おいっ其処の若いの。大丈夫か!?」


「手前っガキ相手に何してやがる!」


「おいお前等、坊主の仇だ。此奴をブチのめすぞ!」


次の瞬間、周囲から猛烈な怒りの声が沸き上がった。どうやら他の狩人連中に、坊やが背後から襲われる一部始終を目撃されてたらしい。


そして飛び交う怒号や罵声と共に、俺達の周りにはあれよあれよという間に次々と人が集まり。気付けば俺達そっちのけで、盛大な喧嘩祭りが始まった。


しかし何となく興を削がれた俺は、立ち上がった坊やと顔を見合わせると。混沌とした乱闘騒ぎに背を向けて、静かに其の場を立ち去った。

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