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遥か異界の地より  作者: 富士傘
一丘之貉傑雛聚合編
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第231話

地下遺跡に突如現れた、全身鎧で身を固めたエリスタルの騎士団を名乗る怪しい集団。俺はソイツ等を率いる巨大なメスゴリラと、名誉と尊厳を汚された全宇宙の童貞諸兄を代表して拳を交える運びと相成った。




うむっ自分でも何言ってるのか良く分かんねぇ。まあ何れにせよ、問答無用で俺にあらぬ疑いを掛けた上、マイハートの初めて皮を剥いた愚息並みにデリケートな部分にキャロライナ・リーパーの粉末をぶちまけた代償はキッチリとくれてやるぜ。




「おい、ドチビ。此の通路では貴様に制裁を与えるには少々狭い。場所を変えるぞ」




メスゴリラに偉そうに促されて、俺達は此の場を離れる事にした。気を失ったままのガキはナヨ雄が背負い、臨戦態勢を解いて移動する鎧集団の後を追う。此奴等


が一緒に居れば、万が一ゴロツキ共の残党に襲われても物の数では無いだろう。




そして俺達は、未だ戦闘の痕跡が生々しいゴロツキ共の根城の入口が在る空間へと舞い戻った。其処でメスゴリラが指示を飛ばすと、何名かの鎧が二人一組で周囲に転がるゴロツキの惨殺死体を運び始めた。あざっす。後片付けご苦労様っす。




「良し。直ぐに始めるぞ。おい、拳で是非を決めるんだろう。貴様もさっさと邪魔な武装を解かんか。今更怖気付いたとは言わせんぞ」




「ああ」




俺に指図しながらメスゴリラが傍に在る岩に腰掛けると、二名の鎧が背後から手際良くゴリラの甲冑を脱がしに掛かる。




「何だか妙な事に成ったな。本当に大丈夫なのかい」




すると其れ迄押し黙っていた金パツ坊やが、非難がましい表情で口を開いた。




「うむ」




「無茶はするなよ。本当に危険だと思ったら、直ぐに降参したって良いんだ」




「問題無い。あと、此奴を頼む」




お前は俺のオカンか。人が良いと言うか、随分と心配性な奴だな。俺は軽い口調で問い掛けに応じると、外套とベストを脱いで坊やに向けて差し出した。同様にヘッドガード、ネックウォーマー、盾とアームガード、グローブを手早く外して坊やに預ける。そして最後は。




「ぬんっ」




装着した鎧を力任せに一気に脱ぐ。魔物領域の魔物由来である超特殊素材に希少金属板を張り付けた俺の甲冑は、伸縮自在であり何と独りで着脱が可能だ。しかも充分に習熟した今では、脱鎧に掛かる所要時間は僅か3秒。其れだけで破格の使い勝手と断言出来る。超一流の鍛冶師であるトト親方と俺の着想に加え、親方の情熱と技術を余す事無く注ぎ込んだ最新鋭の武装である。いや、最新鋭と言うよりは、恐らくは俺以外誰も身に付けては居まい。其の性能たるや地球の現代人たる俺から見ても申し分無いどころかほぼオーパーツなのだが、難点もある。伸縮すると言っても相当に硬く、常人のパワーでは着脱が困難なのだ。尤も、製造の段階で親方と何度も検証したので、今の俺の身体能力ならば何の問題も無いが。




俺が鎧を一気脱ぎする様子を物珍しそうに眺めていた金パツ坊やは、差し出された特異な形状の鎧を両手で受け取った。オイ、間違ってもパクるんじゃねえぞ。




此れで俺の上半身は、鎧下の長袖シャツ1枚きりだ。実は此のシャツも、見た目に反して恐ろしく頑丈な高級素材で造られているのだが。まあ其処まで馬鹿正直に脱ぐ事もあるまい。上半身だけ裸ってのは何だか落ち着かないし、だからと言って衆目の面前でフル・キャストオフする訳にもいかんからな。厳粛なる戦いの前に皆から変態扱いされてはかなわん。




見ればメスゴリラは、未だガチャガチャと甲冑の取り外しを続けて居る。しかし補佐の鎧達の手際を見る限り、決して鈍臭い訳では無い。俺が脱ぐのが早過ぎたのだ。




「ねえ平民」




すると、背後から珍しくションベンが声を掛けて来た。振り返ると、顔を顰めて俺を見上げるションベンと目が合った。




「例え死んだとしても、あの筋肉女は絶対に叩きのめしなさいよ」




「・・・ああ」




う~ん此奴に発破を掛けられると、逆に戦意が少し萎えるな。てか以前も思ったがお前一応貴族の癖に、己の欲望を前面に出し過ぎだろ。少しは自重しろや。




まあ何れにせよ、俺は勿論死ぬ気何ぞサラサラ無いし、勝算も充分に有る。でなけりゃ売られた喧嘩なんぞハナから買わないし。では何故勝算アリと言い切れるのか。




其れはあのメスゴリラが普通だからだ。




此の言い方だと色々と誤解を招きそうだが、他に適当な表現が思い浮かばない。確かにあのゴリラは見るからにデカく、ブ厚く、良く鍛えられている。恐らくは見たままに、当たり前に強いのだろう。外見だけで無く他の鎧男達を率いてる事からも、その実力の程は容易に察しが付く。で、あるからこそだ。俺の目には却ってあのメスゴリラが普通の女であり、組し易しと見えるのだ。




俺の故郷には男勝りなんて言葉が有る。実際言葉通りにゴリゴリに鍛え上げた女性が、其の辺の男なんぞ軽く蹴散らす事例はザラに有る。だが、其れは飽く迄素人のモヤシ男を相手取った場合である。余程の体格差、或いは技術差が無い限り、同様にゴリゴリに鍛え抜いた野郎から見れば、どれ程鍛えようが女は弱い。雑魚と言い切っても差し支え無いだろう。




とは言え古今東西、女の武芸者が男の武芸者に打ち勝った逸話は数多く存在するし、何でも有りの実戦ともなれば、例えば奇襲を仕掛ける、飛び道具を用いる、毒を仕込む、人数を揃える等、非力な女でも野郎を出し抜く手管は幾らでも考え付く。しかし同じ土俵で対等に競い合うとなれば、世界トップクラスの女競技者が、男子中高生にすらまるで歯が立たない。それ程に男女間では身体能力に差が有るのが、紛う事無き現実である。




尤も、現代の地球じゃ幼児が指一本で鍛え上げた大の男を容易に撃ち殺せるし、一般社会で最も重要なのは脳味噌の出来である。なので一部の職種を除けば、腕力の優劣だの喧嘩の強さなんぞ最早大した意味も無いのだが。




では、此の異界に生きる女の力はどれ程の代物なのか。基本何も変わらない。性差による能力差は厳然として存在する。しかし、故郷のホモ・サピエンスとは一つ決定的に異なる例外が存在する。




其処に至る方法は諸々在るが、限界を越えて人外の領域に足を踏み入れた連中だ。




勿論其の場合でも、性差に拠る能力差自体は変わらず存在する。だがしかし。恐るべき苦難を乗り越え、更に研鑽を積み重ねて人ならざる領域に到った先は。




実は其処まで突き抜けてしまうと、個の資質の差が性差を遥かにぶっちぎるらしい。なので人外の戦士が備える単純な身体能力差に、性別はほぼ関係無くなるそうだ。しかも巨大なハンデを乗り越え、其の領域へと至った女達の恐るべき精神力たるや。想像するだに警戒と恐怖に値するぜ。実際此の異界の伝説や逸話の数々に武名を遺した女達の腕前は、ほぼ例外無く化け物じみた代物だったと伝え聞くからな。加えて大昔から伝説的な功績が伝わる、一人の偉大な女傑の存在が・・・まあソイツは今は置いておこう。




俺は今迄ストイケの野郎を始め、幾人もの人外を此の目で見て来た。お陰様で本当にヤバい奴は、所作の端々や身に纏う雰囲気で何となく判る・・様な気がする。其の事を踏まえた上で、あのメスゴリラを改めて目付した限りでは。確かにあの体格と鍛えは相当な代物。取り巻きの鎧が従うのも納得ではある。しかし人外を感じさせる異常性は何処にも見当たらず、其の強さは外見通りの常識的な範疇に収まってると見た。




其れに俺とて数え切れぬ実戦を潜り抜け、弛まぬ研鑽を積み重ねて人外の沼に腰まで突っ込んだ身である。如何に体格に差が有るとは言え、只の女如きには負ける気がしない。仮に一万回戦えば、一万回勝つ自信がある。




但し、メスゴリラのあの普通っぽい雰囲気が偽装である可能性は否定出来ない。例えば以前ストイケから言われたのだが、傍から見て俺からは強者特有の気配みたいなモノが全く感じられ無いらしい。自分では特に意識して無いが、隠形の技術を磨き過ぎた故か、或いは単純に小柄な体格の所為かも知れん。




まあもしゴリラが力量を偽装してたとして、最悪負けても俺は大して困らんし。なら何故に戦うのか。勿論全宇宙の童貞諸兄の名誉と尊厳を守るのと、ついでにムカ付くゴリラをシバいて俺がスカッと気持ち良くなる為だ。




所詮貴様はデカい図体だけの癇癪持ちで愚鈍なメスゴリラ。偉大なシルバーバックには決して成れぬと思い知るがいいぜウホホホーーッ!




むうっしまった。ついテンションがブチ上がって派手にドラミングをカマしてしまったぜ。て、おいコラ其処の鎧。今俺を見て笑っただろ。兜被ってても俺の目は誤魔化せんぞ。貴様ぁ俺をアホを見る様な目で見るんじゃないっ。メスゴリラと一緒にすんな。てか目ぇ逸らすな。手が止まってんぞ。さっさとゴリラの鎧を脱がさんかいっ。





・・・・些か取り乱してしまったが、漸くメスゴリラの準備が整った様だ。ゴリラの癖に取り巻き共にかいがいしく世話されやがって。どうやら生まれ持った野性味すら何処ぞへ置き忘れたらしいな。全く以て嘆かわしいぜ。




そして俺とメスゴリラは、互いの仲間が背後から見守る中、前に進み出て対峙した。




鎧を脱いだメスゴリラは俺と同じく、上半身は鎧下と思しき長袖姿である。そして・・・うわあでっかい(テンション↑)。そして滅茶糞固そう(テンション↓↓↓)。今迄、これ程揉み応えの無さそうな乳が有っただろうか、いや断じて無い。過負荷で哀れなクーパー靭帯が泣いてるぞ。




「フンッ、怖気付いて逃げなかったのだけは褒めてやる。泣き喚いて動かなくなるまで叩き潰してやるから覚悟しな」




メスゴリラは俺を見下ろし、嗜虐的な笑みを浮かべながら言い放った。




ううむ、覚悟は良いけど、お前の其の自信は一体何処から来るんだよ。体格で大きく劣る俺がビビリ倒したり逃げない事に少しは疑問を持てよ。異世界人の俺ですら、相手が人外の可能性を考慮して警戒してると言うのに。




まぁ此奴かなりアホっぽいし、人外レベルの腕前の奴が其の辺をウロウロしてる事なんぞ、此の世界の常識では滅多に無いとは聞いたが。しかし以前ストイケにも話した通り、俺は其の滅多に無いと立て続けに遭遇しちまったので、嫌でも警戒せざる得ないのだ。




「何方が勝っても、遺恨は無しだ。其れで良いか?」




因みにルールは無い。双方暗黙の了解で何方かが戦闘不能になるか、或いは降参するか。其れのみだ。




「ハハッ、認めてやる。おいっ合図を寄越せ」




「承知しました・・・・始めぃ!」





鎧男の合図と共に、とあるドゥーピルの名誉と尊厳を賭けた戦いが始まった。

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