八話目
少々短いですがよろしくお願いします。
大分間が空いてしまい、申し訳有りません。
紅、黄、朱……色鮮やかな落ち葉が街中を彩る季節。“とある行事”とはかけ離れた時期の今日この頃。
「……今日までなっ、長らく大変お世話になった北薗さんはこれ、これから本社勤務となる。向こうでもぜ、ぜひ頑張ってもらいたいと思う。あ、と、それではさ、最後に北薗さんから挨拶を」
額から汗を垂らしながら必死の様子で私の隣に並ぶ部長がそう言ってチラリと私を見、スススと横にスライドした。……私の隣に並ぶのが相当に嫌だったことが窺える動きに何とも言えない気持ちになる。
そして部長の姿を横目に見ながら私もこれで最後なのだからと口を開く。私の一挙手一投足に注目していた同僚たちがたったそれだけの動作にヒッと小さく声を洩らす。
「……大変お世話になりました」
それだけ言い、小さく頭を下げた私は顔を上げると口を引き結んだ。
「(………それだけ?)」
「(……え、短くね?)」
私の挨拶に戸惑いの表情を浮かべた同僚たちはしかし一人として突っ込む勇気が無いのか沈黙を保つ。部長もハンカチで額の汗を拭ってはハンカチを握り、拭っては握り、を繰り返すが何も進行をしようとしない。それから嫌に沈黙が続く中、その静寂を破ったのは痺れを切らした私————ではなく。
ジリリリリリリリッ!
けたたましく鳴り響く黒電話の音。
誰もがビクリと肩を竦ませ驚きを露わにする中、ただ一人だけ平然とポケットに手を伸ばした者が音の主を手に取ると、それをまた平然と耳に近づけた。
「はい、何でしょう」
「(……っ、ビックリしたぁ)」
「(………いや着信音……)」
「(…………黒電話)」
「(…………黒電話)」
「(……今時黒電話て…)」
周りの者たちは困惑の表情を浮かべ淡々と電話をする、本日付で転勤となる女に目を向ける。
しかし周りの目を気にもしない女は電話の相手の話を聞き流すと一つ頷いた。
「今から伺います、社長」
そう言って電話を切った女は誰ともなく「では、これで」そう言うと唯一手元に残っていた鞄とロングコートを手に取ると一礼し、振り返る事もせず部屋を出て行った。
そして、その場に残された者たちは。
「(………社長?)」
「(………社長って言ったよな、お局様今)」
「(………え、本社の?)」
「(…………嵯峨山社長?)」
「「「(……え、どう言う繋がり?)」」」
その後しばらくの間、誰一人喋る事も動くこともせず、静かに固まっていた。
〜〜〜〜
所変わって建物から外に出た私の目の前にはこの辺り一体では滅多にお目にかかれない、黒の外車。
私がそれに近づくと一人でに開いた窓から男の顔が露わになる。
「早く乗れ」
「……了解致しました」
そう答えるが早いか窓は再び閉められ、私は後ろから回り込みもう片方のドアに手を掛け乗り込んだ。
「いけ」
男の言葉に静かに動き出した車は、やはりここらでは浮いた存在であることに変わりなかった。
そんな、場違いなほどに高級感溢れる外車に乗る男は、恐ろしいほどこの車が似合っていて。
「そろそろ返事は決まったか?」
そう言って、私に選択の権利を与えているようで一つとして与えていない男は嫌味なほどに整った顔を私に向けた。
「………それで、一つ目は?」
選択肢なんてあってないような物じゃないと、呆れの目線を送る私に、隣の男はひどく悪い笑みを浮かべた。
それは、約一月前の社長室で見たあの顔と全く同じ顔に違いなかった。




