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EP.02 救世主の休日

「あー飽きた飽きた、二度とやらねーこんなクソゲー」


 殺風景なマンションの一室でコントローラーが放り投げられた。映し出されたモニターにはLOSE(敗北)の文字が浮かんでいる。


 救世主ヨブノスケは暇を持て余していた、仕事がないときはこうして大して上手くもないゲームで時間を潰している。


「ねぇねぇ、ヨブちゃん元気ー?」


 何もない空から一人の少年が出現した。

 透明感のある金色の髪をした中性的な美少年だ、外見相当の若者的な服装で首にヘッドホンをかけている。しかし特筆すべきは背中に生えた純白の翼だろう。


「出やがったなクソ天使、仕事か?」

「いいや、遊びに来ただけ

「帰れ」

 酷いなぁ! ていうか僕には『サタン』って素敵な名前があるんだぞ」


 彼はヨブノスケの救世のサポートをしている守護天使であり、仕事に応じて給料を支払う、いわば雇用者である。

 ノリの軽い天使にヨブノスケは対応する、ウザそうに。


「あーはいはい、つーかお前本当に天使なのか? 『サタン』って悪魔の名前だろ」

「鈴木って人が人殺したら全国の鈴木さんは殺人鬼になるのかい? 風評被害だよ!」


 軽口をたたきながら冷蔵庫を開く、冷えたスポーツドリンクを二つ取り出すと片方をサタンへ投げつける、サタンは難無くそれをキャッチした。

 二人とも同時にペットボトルの栓を開ける。


「だけど良いところに来たな、テメーに相談がある」

「何?」

「給料増やしてくれねぇか」

「えーまたその話かい」


 早速スマホを弄り始めるサタンに怒鳴るヨブノスケ。


「またって何だよ、そもそも世界一つ救済ごとに5000円っておかしいだろ……! 俺は救世主なんだぜ!? 大半が家賃で消えるワープア生活とかふざけてるだろ??? 5000兆円欲しい!!!!」


 貧困から来る魂の叫び、サタンは小さく溜息をつく。


「煩いな、世界を救うことしか能がない社会不適合者のクセにごちゃごちゃ言うなよ(ごめんねー、こっちの方でも色々あるからさ、給料上がるよう検討してみるよ)」

「逆ゥー!」






「あっ、やっべぇ……」


 スマホの画面を再び覗いたサタンが突然、口から焦りの言葉を漏らす。

 訝しがりながらヨブノスケ意味を聞き出す。


「……その『やっべぇ』はガチでヤバイ時の『やっべぇ』だな? なんだ? ガチャで爆死でもしたか」

「A国とB国の間で大陸間弾道ミサイル(ICBM)が飛ばされた。計算によるとこのまま核の冬を迎え、この世界の人類文明は大打撃を受ける」

「大量爆死じゃねーか!!!!」


 深刻な事態にドリンクを吹き出す。

 聞くや否や立ち上がり、地上4階、ベランダから飛び出す。


「フザケんなよ、巫山戯んなよ、この世界は休日オフとして楽しんでんだから! 俺の目の黒いうちはWW3は起こさせねぇからな!」

「これ見てよ、A国の大統領がテンパって核ボタン16連射してるwww」

「笑ってる場合かーッ!!」


 ポリティカルおもしろ動画を共有したい天使を無視して救世主はアスファルトの地面をトランポリン代わりに弾丸のように飛び上がった。


 雲の緞帳を抜け、それより高い青空と宇宙の境目。救世主特有の超視力で見渡すと、襲来する数十個の点がある……ICBMだ。

 光の槍を生み出し撃墜を試みるがサタンに止められた。


「駄目だよヨブちゃん、電磁パルスで地上が滅茶苦茶になっちゃう」

「めんどくせー、じゃあこの前どっかの世界で拾った丈夫な紐あっただろ? あれを出してくれ」

「あいよ」


 『アリアドネの糸』とスマホに入力される。すると別次元に存在する巨大倉庫に収められていた金色の糸がこちらに顕現した。

 それを受け取ると結び目を作り大きな輪っかを作る、カウボーイの使う投げ縄だ。


「せぇえい!!」


 数百キロメートル向こうのICBMへ投げつけると、ミサイルの首根っこを縛り付けた。

 力尽くで引っ張るとそれをヨブノスケは足場代わりにする。


「さあ、救済かたづけるぞ」


 直前と同じように再び投げ縄を投げ、ミサイルを捕まえる。

 引っ張る、超常の耐久を持つ糸で足場のミサイルに纏めて縛る。

 また投げ縄を投げる、

  捕まえる、

   引っ張る、

    縛る。


(※以下繰り返し)



 そうすると、やがてミサイルの団子が出来上がった。回りを見ると、あらかた片付けたようだ。

 最後の一つがヨブノスケのところへ迫り来る。正面から手を伸ばして待ち受けた。


「あー疲労しんどい、これで終わり――」

「ねぇねぇヨブちゃん」


 スマホを耳に当てながらサタンがヨブノスケに話しかける。

 怪訝な顔をする救世主。


「……何だよ」

「急に悪いんだけどさ、新しい仕事が入った」

「あーもう! サタンてめぇ救世主遣いが荒いな! これからこの粗大ゴミの処理考えなきゃならんのによォ、休む暇もねえのか? 

    ――――それじゃあ、まとめて送りやがれ」



 難なくミサイルをキャッチすると、集めたそれごと異世界に転送された。




 ◇  ◆  ◇




 体中に鱗を纏った蜥蜴人レプティリアン達が空を見上げている、宇宙そらから巨大な隕石が地上へ落ちようとしていた。

 今現在の彼らの文明レベルでは対処しようもないし、隕石の破壊と、その後の環境変化に耐えられず皆滅びてしまうのだろう。


 世界は終わろうとしていた。


 人々は祖先である始祖竜に祈りを捧げる。なぜならそれが彼らの宗教だからだ。

 もっとも始祖竜は遠く昔に滅びており、都合よく彼らを助けることなど出来ないのだが。



 絶望の中、突然隕石の真下に救世主が現れた!


「喰らえ核の平和利用!!!!!!!!!」


 そう叫びながら、尻尾も鱗もない不思議な生き物が巨大な円柱形の物体を纏めたものを隕石を投げつける。

 この世のものとは思えない爆発が起こり、隕石は粉々に砕かれた。蜥蜴人レプティリアン達はその光景に暫く唖然としていたが、助かったことを悟り歓声を上げた。


 ところで、核爆発の衝撃をモロにくらい吹き飛ばされ地面にめり込んだヨブノスケに連絡が届く。もちろん雇い主のサタンからだ。


「流石救世主、救済完了だよ~」

「単純破壊で解決できる事案でよかったぜ、地球の方は大丈夫だろうか」

「とりあえず核戦争の危機は脱したけど情報操作して混乱を収めなきゃ……」

「天使も色々大変なんだな」


「あ、そうそう、今回は世界同時救済ボーナスということで給与20%増しで12000円振り込んでおくから」

「や っ た ぜ」

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