わめきました
「今日はすごく気がいいね。一緒に散歩に行こうか。君と二人で歩く公園はきっと素晴らしいんね!あぁ僕が朝食を食べ終わるまで待っててくれるかい?うん、ありがとう。今日も君は愛らしいよ。」
天井に向かって話す男の顔はうっとりとしている。
私の名前を呼んでいたのできっと私に話しかけているつもりなんだろう。でも残念だが私は今病室の入口にいるのだ。
見えてない幽霊に対して話しかけている姿は実に滑稽だが、そうしていないと自分を保っていられないんだろうということは察することができる。
しかし天井に向かって話しかけている姿は生きている人から見ればヤバイヤツに見えているので、こいつは容態が安定したら精神科に転院する予定らしい。
そりゃそうだよね、はたから見れば頭おかしい人だよね。だって私から見ても頭おかしい人だもの。
まぁ先週の様に暴走するよりは今の方が害なく過ごせるのでいあとは思うんだけどね。
あの日、私が消えた後の男は本当にやばかった。
しばらく私がいた場所を惚けたように見つめていたが、突然ぽつりと私の名前を呟いたかと思ったら、繋がっていたチューブを全部ちぎり、私の名前を連呼しながら病院中を探し回ったのだ。そりゃあもう半狂乱で目なんてギラギラして、もしかしたら見つかるんじゃないかと心配になるくらいだった。
結局看護師5、6人がかりで抑えられ、なにやら興奮を抑える薬を飲まされ男は抵抗しながらも眠り、点滴も入れ直した。
その次の日からだった。
男が天井に向かって話しかけはじめたのは。
毎日気持ち悪いくらい愛を天井に向かって囁く男の姿は看護師の目にすぐ止まった。
そして暴走したときのこともあってか、すぐに精神科に転院することが決まったのである。
「馬鹿なんじゃないの」
「ああそんなに怒らないで!すぐ食べ終わるからね。あぁ今日のデザートは君の好きなリンゴのコンポートじゃないか!ふふふ、運命感じちゃうな。」
「早く死んでくれ」
「ふふ、僕も愛してるよ。」
別にこいつが独り言を言ってるだけなので答えてやる義理はないのだが、なんとなく、なんとなーく可哀想でなるべく横にいてやっている。
そしてわたしは今日も噛み合うはずのない会話をして1日を過ごすのだ。
なんで私が殺された男に「可哀想」という気持ちを持たねばならんのだ。納得いかない。なぜだ、顔か。やはり私の面食いな性格のせいなのか。
死んでもなおこの面食いな性格が邪魔をしているというのか。
ちくしょう。これも全部この男が死ねなかったのが悪いんだ!
わたしはお姉さんに愚痴を聞いてもらおうと思い、病室をすり抜けていった。
「ふふふ、あいしてる。あいしてる。君がどんな姿だとしても傍にいてくれるだけで幸せだ。幸せだ。」
後ろで男が言った言葉は聞こえないフリをして、逃げるように病室を出た。