第23話「スーパー」
いつも『宇宙人、乗っ取られました。』を読んでいただき、本当にありがとうございます。
前回は、玲奈とレオスが二人きりで歩き、お互いの本音が少しずつ見え始めました。
今回は少し空気を変えて、四人でスーパーへ。
「普通に買い物をする」という何気ない時間の中で、玲奈が失っていた二十年を少しずつ取り戻していきます。
特別な事件はありません。
でも、こういう何気ない一日が、きっと一番大切なのかもしれません。
それでは、第23話「スーパー」をお楽しみください。
「スーパー、行ったことない」
玲奈が、言った。
「よろずやは、毎日、行ってるじゃないの」
「働いてるだけで、買い物として、行ったことない。ちゃんと、カゴ持って、色々、選んで、っていうの」
「そんなに、違う?」
「全然、違う。買う側と、売る側は、全然、違う」
「じゃあ、行ってみよう」
四人で、近くの、スーパーへ、行った。
自動ドアが、開いた。
「うわ」
玲奈が、止まった。
「何」
「広い」
「スーパーだから」
「でも、広い。なんか、全部、ある気がする」
「大体、ある」
「コンビニと、全然、違うな」
「スーパーだから」
「同じこと、二回、言うた」
「事実だから」
玲奈が、カゴを、手に取った。
「これ、持って、回っていいの?」
「そういうもんだよ」
「ええな。カゴ、持ちながら、歩くの」
「ええかな」
「ええよ。なんか、生活してる感じがして」
「そうかな」
「生活、してるんやけどな」
「してるけど、感じるの、ね」
「そういうこと」
野菜コーナーへ、入った。
玲奈が、一個一個、手に取った。
「なんか、野菜、全部、きれいやな」
「洗ってあるから」
「そうか。土、ついてないもんな」
「袋に、入ってるから」
「袋に、入った、にんじん」
「普通だけど」
「普通が、ええねん。普通が、きれい」
レオスが、値段を、見た。
「……このにんじん、三本で、百九十八円」
「そうやな」
「一本、六十六円。スーパーと、コンビニで、同じにんじんを、売るなら、価格差が、出るはずで」
「どうでもいい」
「どうでもよくない。消費者は、価格の、違いを、知るべきで——」
「どうでもええって」
「……まあ、いいんだけど」
「にんじん、買う?」
「買う? 君が、料理するの?」
「したい。二十年、できなかったから」
「……じゃあ、買おう」
お菓子コーナーへ、入った。
玲奈が、棚を、見て、目を、丸くした。
「なんか、増えてる、お菓子」
「二十年、経ってるから」
「知ってるけど、なんか、知らないの、多くて。これ、何?」
「最近の、お菓子じゃないの」
「食べてみたい」
「全部、食べたいの?」
「全部は、無理やけど。知らないやつ、試したい」
健太が、横から、言った。
「玲奈さん、試食コーナー、ありますよ」
「試食?」
「タダで、食べられる」
「タダで」
「うん」
玲奈が、試食コーナーへ、突進した。
「全部、食べていいの?」
「まあ、一個ずつ、ね」
「なんでも、一個は、食べていいの?」
「そういうルール」
「スーパー、天国やん」
「天国は、言い過ぎだよ」
「天国やって」
玲奈が、試食を、次々、食べた。
「おいしい」
「おいしい?」
「全部、おいしい」
「全部が、おいしいわけじゃ——」
「全部、おいしいねん」
「……それは、試食の、効果だよ。少量だから、おいしく、感じる。心理的効果で——」
「黙って、一緒に、食べ」
「……まあ」
レオスも、試食を、食べた。
「……おいしいな」
「やろ」
「少量だから、そう感じて——」
「黙って、おいしいと、思っとき」
「……おいしい」
「それでええ」
レジで、会計した。
野菜、お菓子、にんじん、卵、牛乳、試食で気に入った、クッキー。
「今日の、晩ご飯、作れる?」
健太が、聞いた。
「作れると思う。なんか、作ったことが、ある気がする。記憶は、あいまいやけど」
「何、作るんですか」
「肉じゃが、かな」
「肉じゃが」
「昔、よく、作ってた、気がして。お母さんに、教えてもらって」
「……お母さん」
「うん。記憶、あいまいやけど、肉じゃがは、なんか、覚えてる。手が、覚えてる感じ」
「……作ってみてください」
「うん」
家に、帰った。
玲奈が、台所に、立った。
「なんか、緊張する」
「料理に、緊張するの?」
「二十年ぶりやから」
「二十年ぶりに、料理する人間が、いることが、不思議だよ、地球には」
「あたしだけやろな」
「そうだね。記録として、おそらく、君だけだ」
「記録に、なってしもうた」
「光栄じゃないの」
「どっちでも、ええわ。やってみる」
玲奈が、包丁を、持った。
「……包丁、覚えてる。手が、覚えてる」
「そう?」
「うん。なんか、切り方、わかる。体が、知ってる感じ」
「身体記憶だね。脳ではなく、筋肉が、覚えてる」
「そんな、難しい話じゃなくて」
「でも、そういうことだよ」
「まあ、ええか。やってみる」
玲奈が、にんじんを、切り始めた。
包丁の、音が、した。
レオスは、その音を、聞いていた。
何かを、していた。確かに、何かを、知っている。身体が、知っている。
玲奈は、死んでいる。でも、包丁の、使い方を、知っている。記憶は、あいまいでも、身体が、覚えている。
「玲奈」
「ん?」
「お母さんのこと、思い出した?」
「少し。この、にんじんの、切り方」
「どんな、お母さんだったの」
「わからん。でも、この包丁の使い方は、一緒に、やった気がする。隣で、教えてもらった、気がする」
「……そっか」
「あいまいやけど、温かい記憶や」
「温かい記憶か」
「うん。それで、十分や」
玲奈が、また、包丁を、動かした。
夕方の、台所。包丁の音。野菜の匂い。
レオスは、その時間を、記録した。
玲奈の、生きていた時間の、断片が、今日も、一つ、見えた気がした。
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(第24話へ続く)
肉コーナーへ、入った。
「牛肉と、豚肉、どっちが、高い?」
「牛の方が、一般的に高い。ブランド、品種によって、差があるけど」
「そっか。玲奈が、生きてた時も、そうやったけど。なんか、牛肉って、特別感あったな」
「特別感?」
「うん。焼肉行くの、特別な日やったから。誕生日とか、ちょっとええことあった日とか」
「今日は、特別な日なの?」
「今日は、スーパー初日やから、特別や」
「スーパー初日が、特別なの」
「特別やって。あたしには」
「……じゃあ、牛肉にしよう」
「ええの?」
「今日は、特別な日らしいから」
「あんた、気ぃ遣えるようになったな」
「気遣いじゃない。合理的な判断だ」
「同じやって」
「違うよ」
「どう違うの」
「気遣いは感情で、合理的判断は——」
「同じやって」
「……まあ、いいんだけど」
玲奈が、牛肉を、カゴに、入れた。
「なあ、健太」
「はい」
「スーパーって、楽しいな」
「楽しいですか」
「楽しいよ。こんなに、色々、あって。全部、買えるわけじゃないけど、選ぶのが、楽しい」
「わかります。うち、スーパー好きですよ」
「健太も、好きなん?」
「好きですよ。なんか、色々、想像できるから。これで、何、作ろうかとか」
「同じや。あたしも、それ」
「同じですね」
「ええやん、それ。スーパー友達やな」
「スーパー友達、っていう概念、初めて聞きました」
「今、作った」
「……そうですか」
レオスが、言った。
「玲奈」
「ん?」
「スーパーで、友達ができるの?」
「できるよ。共通の好みで、人は繋がるから」
「スーパーが好き、というだけで?」
「それで十分やって。人間って、小さいことで繋がるもんやから」
「……そういうものなんだ」
「そういうもんやで」
「データにない、繋がり方だな」
「データで、友達は作れへんで」
「……そうかもね」
スーパーを、出た。
手に、袋を持って、四人で歩いた。
「なんか、充実したな」
玲奈が、言った。
「スーパーで、充実するんですか」
「充実するって。こんなに、色々、買えて、選べて。贅沢やで」
「まあ、普通のスーパーなんですけど」
「普通が、贅沢やって。あたし、言ったやろ」
「言いましたね」
「覚えてた?」
「覚えてますよ」
「ええ子やな、健太」
「ありがとうございます。でも、たまたまです」
「たまたまでも、ええねん。覚えてくれてたから」
「玲奈さんのこと、けっこう覚えてますよ、俺」
「何を」
「色々。最初に会った日とか。山で、宇宙船が落ちてきて、コンビニで、おにぎり買って、千二百円、払ったとか」
「覚えてるんや」
「覚えてますよ。なんか、忘れられない日でしたから」
「そっか。あたしも、覚えてるで。健太が、お金出してくれて、それで、なんか、ここから始まった感じがして」
「そうですね。縁って、不思議ですね」
「不思議やろ。山に宇宙船が落ちてきたことから、始まって、今、スーパーで、買い物して、帰ってる」
「不思議すぎますよね」
「でも、ええやろ」
「ええです。最高です」
「最高って言い切ったな」
「言い切りました」
「それでええ。そういうことで、ええねん」
第23話「スーパー」を読んでいただき、ありがとうございました。
今回は戦いも、大きな事件もありません。
ただ、スーパーで買い物をして、料理をして、みんなで帰る。
それだけの一日です。
でも玲奈にとっては、その「普通」が二十年間できなかった特別な時間でした。
そしてレオスも、人間にとって当たり前の「選ぶ楽しさ」や「思い出の味」を少しずつ理解し始めています。
少しずつ変わっていく二人の距離と、積み重なっていく日常。
次回も、そんな穏やかな時間の中で物語は少しずつ進んでいきます。
次回、第24話もよろしくお願いいたします。




