第55話 想定外の超質量と、引き上げの苦労 ~捕まえるのと運ぶのは別の話~
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クラーケンが自ら特大タコ壺へと入り込み、見事に蓋が閉まった。
「かかったぞ! Sランクのバケモノも、タコはタコだ!」
俺は海中でガッツポーズを決め、通信用の魔力波で陸上のビークルと、海中にいるゴルドに指示を飛ばした。
「よし! そのまま陸まで一気に引き上げるぞ! ゴルド、ワイヤーを引け! ビークルのウインチも最大出力だ!」
「御意ィィィッ!! 我ガ剛腕ニ、カカレェェェッ!!」
ゴルドが海底の岩場に足を踏ん張り、極太のミスリルワイヤーを力任せに引っ張る。
同時に、陸上に停めてあるビークルの巻き上げ機が、けたたましい駆動音を立てて回転を始めた。
――ギギギギギギッ……!!
ワイヤーが限界まで張り詰め、ピンッと高い音を立てる。
さあ、浮き上がれ! 今夜の特大タコ焼きの具材よ!
…………。
……あれ?
「……お兄ちゃん。壺、全然動いてないよ?」
「……おかしいな」
ルビィが首を傾げる通り、黒光りするタコ壺は海底の窪みに鎮座したまま、ミリ単位たりとも動いていなかった。
それどころか。
『警告。ウインチの負荷が限界を突破。……ビークル本体が、海へ向かって引きずられています』
陸上のサフィから、焦りの混じった通信が入る。
見上げれば、岸壁からビークルの前輪がズルズルと海側へ滑り落ちそうになっていた。
「バカな!? 俺のビークルの馬力とゴルドの怪力だぞ!? どんだけ重いんだよ!」
「分析結果を報告します、マスター」
サフィの声が、いつも以上に冷ややかだった。
「対象は全長50メートル級の超巨大水棲生物です。その質量を、無理やり3メートルの『星核鉄と黒曜石の合金(それ自体が超重量)』の壺に圧縮して詰め込んだのです。総重量は控えめに計算しても『数百トン』を下りません」
さらにサフィは容赦なく事実を突きつける。
「加えて、壺の底面が海底の泥に密着し、強烈な『吸盤効果(真空状態)』を生み出しています。これを真っ直ぐ引き上げるには、重力の数倍の力が必要です」
「あ……」
俺は海中で、ポカンと口を開けた。
罠の材質。匂い。タコの習性。
そこまでは完璧に計算していた。しかし……。
「……引き上げること(運搬)、すっかり忘れてた」
「……マスター。お腹空いたのにぃ、食べられないんですかぁ……?」
コーラルが恨めしそうに俺を見る。
壺の中では、閉じ込められたクラーケンが激しく暴れており、そのたびに数百トンの壺がゴトン、ゴトンと揺れて、海底の泥にさらに深く沈み込んでいく。
「くそっ、このままじゃ泥に埋まって引き上げ不可能になる! みんな、手伝ってくれ!」
俺は慌てて仲間たちに指示を飛ばした。
「ダイヤ、熱で周囲の泥を乾燥させられないか!?」
「海の中ですのよ!? いくらわたくしでも、この水圧と水量ではお湯を沸かすのが精一杯ですわ!」
「プリムローズ、蔦で引き上げを!」
「やってはいるが、海底の砂地では根が張れん! 踏ん張りが効かないのだ!」
引っ張ってもダメ。泥の吸着も剥がせない。
八方塞がりの中、俺の錬金術師としての脳細胞がフル回転を始める。
(重すぎるなら、どうする? 軽くする? いや、質量は変えられない。なら……!)
「……『浮力』だ! 海水より軽いものを括り付けて、上に引っ張る力を足すんだ!」
俺はアイテムボックスから、以前討伐した『飛竜の胃袋』を大量に取り出した。非常に伸縮性が高く、空気を入れても破れない極上の風船素材だ。
それをゴルドとルビィに指示し、タコ壺の周囲に何十個も括り付けさせる。
「よし! 次は空気だ! パール、コーラル!」
「……はぁい……」
「お前たちの振動で、海水を『水素』と『酸素』に分解して、この袋の中に充填しろ! ガスで浮き袋を作るんだ!」
「……えぇー……疲れちゃいますぅ……」
「今夜のタコ焼きのタコが無しになってもいいのか!?」
「……やりますぅ!!」
食い意地が勝った双子が、壺の周りで激しく歌い、ブルブルと震え始めた。
超音波による電気分解。無数の気泡が発生し、飛竜の胃袋がパンパンに膨れ上がっていく。
何十個もの巨大な浮き袋が、タコ壺を上へ上へと引っ張り始める。
だが、まだ足りない。海底の泥の「吸着力」がしぶとく壺を掴んで離さない。
「ええい、泥の吸盤さえ引っぺがせれば……! アミィ、ルビィ!」
「はいっ!」「なになにー!?」
「壺の底と泥の隙間に向かって、ルビィはハンマーで衝撃波を、アミィは鉄扇で水流の刃を叩き込め! 泥の密着を剥がすんだ!」
ルビィのハンマーと、アミィの斬撃が海底の泥を抉る。
ズパァァァンッ!!
泥の層に一瞬の隙間ができ、真空状態が破られた。
その瞬間。
浮き袋の猛烈な浮力と、ゴルド&ウインチの張力が完全に噛み合った。
――ボッコンォォォォォンッ!!
海底から凄まじい泥を巻き上げながら、数百トンの特大タコ壺が、ついに引力と水圧を振り切って上昇を始めた。
「上がったぞ!! ゴルド、そのまま浮上だ!」
俺たちは巨大な壺の周りを泳ぎながら、歓声を上げた。
海面を割り、ザバーンッ! と巨大な黒い壺が夕日に照らされた港の沖合に姿を現す。
「ぜぇ、はぁ……。重すぎるだろ、バカヤロウ……」
海面に顔を出した俺は、疲労困憊で壺の縁にへばりついた。
双子も魔力切れで白目を剥いており、ゴルドの装甲からはオーバーヒートの蒸気が噴き出している。
「……マスター。お疲れ様です。陸への牽引準備、完了しています」
岸壁から、サフィが(一人だけ涼しい顔で)ビークルのウインチを操作している。
捕まえる賢さはあっても、運ぶ算段を忘れる。
俺の詰めの甘さが招いた大苦戦だったが、なんとか最大の獲物は確保した。
「……よし。これでようやく、準備完了だ。港に帰って、バカでかいタコ焼きを焼くぞ!」
疲労を上回る圧倒的な食欲を原動力に、俺たちはクラーケン入りの壺を牽引し、住人たちが待つ港へと凱旋するのだった。
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