第103話 生命の舞と、流転する鉄扇 ~血潮は巡り、刃と化す~
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ゴルドが「紅蓮の機神」として圧倒的な進化を遂げ、星海が瞬くマスター・ルームが歓喜と熱気に包まれる中。
次に俺が視線を向けたのは、俺の腕に柔らかい胸を押し付け、上目遣いで期待に頬を染めている紫紺の美女だった。
「というわけで、女の子たちの強化合宿トップバッターはアミィ、お前だ。前に出ろ」
俺が指名すると、アミィはパァッと顔を輝かせた。
そして、サフィやルビィたちに向けて「お姉ちゃんの特権ですわ」とばかりに優雅で余裕たっぷりの笑みを浮かべてから、俺の正面へと進み出た。
「光栄ですわ、ご主人様。……さあ、わたくしの身体、隅々までご自由になさってくださいませ♡」
「変な声出しそうになるから、あまり密着するな。精密な魔力操作の邪魔になるだろ」
俺は苦笑しながら、彼女が恭しく差し出してきた一対の『鉄扇』を受け取った。
第一の隠しラボの埃を被った部屋で彼女を目覚めさせた時から、ずっと彼女の武器であり、俺を護る盾であった愛機だ。
幾多の死線を潜り抜け、硬度を誇るミスリル合金の刀身には、彼女の献身を物語るように微細な傷が無数に刻まれていた。
「アミィ。お前の最大の武器は、その身軽で変幻自在な舞いから放たれる『超高圧のウォーター・カッター』だ。だが、これまでの水属性魔法には、どうしても越えられない物理的な壁があった」
「……はい。周囲の空間から水分をかき集めるか、わたくしの体内タンクからその都度『出力』するしかありませんでした。発動までに、どうしてもコンマ数秒のラグが生じてしまいますの」
アミィは悔しそうに伏し目がちになる。
第四層での一万の軍勢との防衛戦。あるいは、神代の守護天使との超高速戦闘。極限の戦いになればなるほど、その「コンマ数秒のラグ」が命取りになることを、彼女自身が一番痛感していたのだ。
「気にするな。それはお前の技量の問題じゃない。無機物であるオートマタの、構造上の限界だ」
俺は傍らで見守るシルヴェリアとプリムローズを振り返った。
「だが、シルヴィの『生命錬金術』と、プリムローズの『調和』があれば話は別だ。……水は、命の源だ。アミィの体内に張り巡らされた無機的な魔力回路を、人間の『血管』と同じように機能させ、水属性の魔力を含んだ疑似血液を常時循環させる。これで、お前の魔法は『詠唱』や『出力』すら不要になる」
「ご名答ですわ、マスター」
シルヴェリアが星のような群青の瞳を細め、慈愛に満ちた笑みを浮かべる。
「『心臓』が脈打つだけで、彼女の意志は即座に指先から水へと伝播します。息をするように、鼓動を鳴らすように……世界と自己の境界をなくし、魔法そのものと一体化するのです」
「そして、その命の循環を、この武器にも適応させる」
俺は手元の使い込まれた鉄扇と、ゴルドの改修で余った『オリハルコン』と『星核鉄』の破片、そして神代の魔力触媒『エーテル・フルード』を錬金釜へと一気に放り込んだ。
「いくぞアミィ。まずは、お前のコアを『生きた心臓』へと書き換える。少し熱いぞ」
「はい……っ。ご主人様の手で、わたくしを新しく、生まれ変わらせて……っ!」
俺がアミィの胸元――紫紺のドレスの深く開いた谷間の奥、なめらかな肌に刻まれた起動紋へと直接手のひらを触れ、莫大な錬金魔力を注ぎ込んだ。
同時に、シルヴェリアの白銀の生命錬金術と、プリムローズの緑色の調和の魔力が、アミィの身体を幾重にも包み込む。
「ああっ……! ご、主人様……っ。熱い……ご主人様の魔力が、わたくしの奥深くまで……脈打って……溶け込んで……っ♡」
アミィの透き通るような白い肌が、みるみるうちに血の通った桜色へと染まっていく。
金属と魔石で構成されていた彼女の身体に、これまで存在しなかった「体温」が生まれ、俺の触れている胸の奥から、トクン、トクンという確かな「脈拍」が鳴り始めた。
その肌は、人工物特有の吸い付くような冷たい感触から、人間らしい柔らかな張りを持つ、極上の肌へと劇的な変化を遂げていた。
彼女の全身を巡る回路が、本物の「血管」となり、紫色の魔力水が『血液』として力強く循環を開始したのだ。
「アミィ、そのまま釜の中へ! お前の『血(魔力)』を一滴、注ぎ込め!」
「は、はいっ! わたくしの命のすべてを……『紫流・生命の滴』!!」
アミィの指先から滴り落ちた、極限まで濃縮された紫色の魔力水。
それが錬金釜の中でドロドロに融解していたオリハルコンと星核鉄に触れた瞬間、凄まじい水蒸気爆発が起きた。
絶対的な硬度を誇る金属と、流動する水。本来なら絶対に交わらない二つの概念を、俺の錬金術が強制的に結びつける。
「混ざれ……! 『錬金再構築』!!」
釜の中から眩い光と共に飛び出したのは、二つの不可思議な「水球」だった。
それはただの水ではない。オリハルコンの硬度と星核鉄の熱伝導率を保ったまま、分子レベルでアミィの水属性魔力と完全に融合した『流体金属』だ。
宙を舞った二つの水球は、アミィの差し出した両手へと吸い込まれるように収まり、瞬時に彼女の意志と心拍に呼応して、かつての『鉄扇』の形へとシャキンッ! と音を立てて凝固した。
「完成だ。名付けて、流体生命扇『水天一碧』。……それはもう、ただ手に持つ武器じゃない。お前の『血液』であり、『身体の一部』だ」
アミィが驚きと共に、新しい鉄扇をパチンと開く。
見た目は美しい紫紺の扇だが、その質感は金属でありながら、静かな水面のように微かに波打ち、揺らいでいた。
「……信じられませんわ。扇を持っているという感覚がありませんの。まるで、自分の指先がそのまま数メートル先まで伸びているようです……!」
アミィが扇を軽く、本当にただ手首を返すように振るう。
――ヒュンッ!
音もなく、扇の先端が水のようなリボン状にほどけ、十数メートル先の空間を鋭く切り裂き、瞬時に手元の扇の形へと戻ってきた。
斬撃、鞭、そして盾。彼女の思考と心拍に完全にリンクし、質量と形状を無限に変化させる、物理法則を無視した絶対の武器。
「試し斬りだ。ゴルド、さっきのミスリルの端材を全力で投げてやれ」
「御意!!」
ゴルドが、分厚いミスリルの装甲板を空高く放り投げる。
アミィは深く息を吸い、その『心音』を高鳴らせた。
トクンッ……! と彼女の胸が鳴った瞬間。
「ふふっ。……『紫流奥義・水禍の舞』」
アミィが優雅なステップを踏んだ。ただそれだけだった。
だが、彼女の両手の扇から、無数の『超高圧の流体刃』が全方位に向かって爆発的に展開された。
詠唱のラグはゼロ。魔力を練る予備動作もゼロ。ただ「斬る」と思った瞬間に、すでに斬撃が空間を満たしている。
空中にあった最強硬度のミスリル装甲板は、地面に落ちる前に一瞬でサイコロ状の細切れへと解体され、パラパラと砂利のような音を立てて降り注いだ。
「すごーい! お姉ちゃんの扇、お水みたいにビュンビュン動いてる! キラキラして綺麗!」
「分析。……攻撃の発生速度、従来比400%向上。魔力の伝導ロスは皆無。さらに流体金属の特性により、軌道の予測は100%不可能です。……恐るべき制圧力です」
ルビィが拍手喝采し、サフィが眼鏡を光らせて計算結果を弾き出す。
これなら、どんな不意打ちにも対応できるし、一万の軍勢を相手にした広域の殲滅戦でも、一切の隙を生むことはない。
「……ご主人様」
アミィは扇を元の形に戻すと、ふわりと駆け寄り、そのまま俺の胸に勢いよく飛び込んできた。
「わたくし、今、生きています。……ご主人様と同じように胸が鳴って、血が巡って……体が、こんなにも温かいですわ……っ」
「ああ。最高に綺麗で、強くなったぞ、アミィ」
俺が背中に手を回して強く抱きしめると、アミィの人間らしくなった柔らかな身体から、心地よい体温と、彼女特有の紫蓮の香りが色濃く伝わってくる。
彼女の紫紺の瞳からは、機械的なオイルではない、温かな感動の涙がポロポロと溢れていた。
「コホン。……マスター、長女の感動的なアップデートの最中に申し訳ありませんが」
抱き合う俺たちの背後で、サフィが静かに、しかし明らかに『待ちきれない』といった様子で、ずれた銀縁眼鏡のブリッジを中指でクイッと押し上げた。
彼女の透き通るような白い肌は、内部プロセッサの処理限界によって異常な高熱を発し、ほんのりと赤みを帯びている。
「私の冷却ファンの音が、先ほどから限界値を訴えています。……次女への生体量子脳の移植手術、早く開始していただけますか?」
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