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「女生徒は困るんだよ。例えばこんな風に自習室に二人きりで入ってドアを閉める訳にいかない。そういったモラルの問題もある。
僕に惚れられても困る。
それに、他の女生徒が嫉妬する。若いイケメン講師は、全ての女生徒の向学心のために存在するものなんだ」
神セン、自分で「イケメンでモテる」って言ってるよね。はあ?
てか、その前に。
「私も女生徒なんですけど」
「あー。仁科は大丈夫だから」
やや被せ気味に答えが返って来た。「大丈夫」ってなに。美少女だったら自習室のドアを閉めることすら周りの目を気にする必要があるって? で、私だったら神センの近くにいても他の女生徒に勘違いされないって?
もう1つ。
誰が神センなんかを好きになるって? 私はその心配がないってのはその通りだからいいんだけどさ。なんか、その認定が不名誉に聞こえるのはなぜ?
あ。私に「惚れられても」どーでもいい、気にすらならないって意味だったわけね。
ちょっとムカツク。
「そーですか。でも、もっと成績のいい人がいいんじゃないですか?」
自慢じゃないけど、花園君と私とでは目指す学校のランクが違うと思う。
それに、こんな失礼な自意識過剰人間と関わりたくないかも。逃げよ。
私の心の中を見透かしたかのよに、神センが逃がすまいと身を乗り出してきた。
「仁科が適任なんだよ。男子とも気軽に話せる。頑張れば花園が行くべき中学をなんとか受験できるかもしれない」
くっ。「なんとか受験できるかもしれない」ね。「合格」って言葉はナシなんだ。
「まあ、気に掛けるってくらいなら友達としてできますけど」
熱意に負けたかも。
「ただでとは言わない。できることなら力を尽くす」
ふーん。未来人が力を尽くしてくれるなんて、なんでもかなえてくれそう。
……。
私って、望みってあったっけ?
例えば志望校合格って希望があったとする。でも、その望みが叶うなら私はここに呼ばれていない。花園君を合格させればいいだけだから。
テニスでもっと結果を出したいって思っても、叶うって嫌。あれは頑張って勝ち取りたい。
モテてみたいとは思うけど、そこまで切実じゃない。まだ小学生。今は特別かわいくなくても伸びしろ充分。
「特に頼みたい望みってないです」
「ははは。そっか。若い時ってそんなもんだよな。じゃ、仁科が生きている間お金に困らないよう、株の値動きの情報でも脳にダウンロードしてあげよう。ちなみに、この塾の株はテンバガーだよ」
「脳にダウンロード? 蕪? 天バーガー?」
「入試の知識を脳にダウンロードさせるって手もあるけど、仁科はそれをしたら罪悪感にさいなまれるタイプだろうから、勉強はちゃんとしていこう」
「あの、それって、花園君と同じレベルになれってことですか?」
まさかと思い、軽く質問。
「当然。でないと受験会場に一緒に行けない」
マジで? 保護者かよ。
「偏差値で9くらい違いますが」
「なに言ってるんだ。それはペーパーテストの偏差値だろ? 頭脳の偏差値だったら、30くらい違うよ」
神センは優しく微笑みながら非情に告げた。
「分かりました。全力を尽くします」
ええーい、女は度胸! やってやろうじゃん。成績アップ。




