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星空の下、ポツンとカラオケ店前に残されたのは、橘君と私。
「帰っか。ニカ、家どっち?」
「幼稚園がある方」
てくてくと2人で歩き始める。
4月からもよろしくとか、部活はバスケだよねとか、塾仲間でまた集まろうとか。そんな話してたの。結構笑いっぱなしで。塾で過ごした時間ってすっごく長かったから話題は尽きなくって。
「オレさ、ホントは今日、自転車」
突然、橘君が話題を変えた。
「え? 今から取りに行く?」
「ははは、ニカと一緒に帰れるって分かったから、置いてきた」
「え?」
「ニカと2人で歩きたかったから」
「……」
ごくっ
唾をのみこんじゃった。まさか、これって。
春をフライングした優しい夜風が私の頬をくすぐった。
「ニカは央治のこと好きかもしんない。でも、オレ、ニカのこと」
「ストップ!」
私は立ち止まって橘君の言葉を制した。
「ひでぇ。せめて言わせろよ」
見上げた橘君は、下唇を噛んで鼻の頭が赤くなってヒクヒク動く。真剣な双眸は今にもくしゃりと崩れそうで、夏のミニバスを引退したときの顔と重なった。
「私、花園君のこと、なんとも思ってないよ。それ、言っときたくて。えーっと、続きをどーぞ」
「なにそれ。ははははっはは」
橘君が笑い出す。あれ? 終わり?
「もう、なんで笑うわけ?」
「ははは。そーゆーとこも好きかも」
「え」
不意に止んだ笑い声。
まっすぐに私を見つめる橘君がいた。
そして言われた。
「オレ、ニカのこと好き」
っ。
きゃーきゃーきゃー。好きって言葉、破壊力すごいね。嬉しくて固まっちゃった。
そんな私の隣で再び笑いだす橘君。
「また笑ってる」
「はは。恥ずいの。それに、やっと言えて嬉しーし」
街灯に照らされた橘君は照れくさそう。
「あの、橘君。私、その、好きとか、そーゆーの、正直なんかよく分かんない。それって、ミニバスのチームのメンバーを好きとか、花園君や綿貫君を好きってのと違うの?」
「ぜんぜんちげーし」
「ふーん」
「じゃさ、ニカ。分かったら教えて? 例えば相手がオレじゃなくも」
「んー。でも、橘君は特別だよ。
だって今、すっごく……
……嬉しいもん」
嬉しいって伝えたいだけなのに、喉の奥がぎゅうってなって、耳が熱くなった。
おわり




