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『よいか? 愚民ども、聞かずともよい。
我も愚民なり。些末な夢は心の彩』
訳:別にさ、ただの独り言だとでも思って。カレシ欲しい。
カラオケ店を出れば、空には星が瞬いていた。
一応母達には帰るってことを伝えたの。でももう、皆さん踊っちゃってて。盛り上がっちゃってて。怖いもん見ちゃったなーって感じ。
私達の中学受験は、母達にも相当なストレスだったんだね。
「くーじょーさん」
カラオケ店の前で声をかけてみた。大丈夫、かな?
「ん? ニカ。大丈夫だから」
私が何を気にしてるかなんて、繊細なバイオリン姫にはばっちり分かってると思う。合格祝賀会の後ってのに、今夜、バイオリン姫は泣くのかも。すっごく好きみたいだもんね。
レディキッズモデルは、さりげなく花園君の隣に立った。
「花園君、送ってよ。カレシとして」
勝利宣言。
でもね、奇想天外な花園君はバイオリン姫のところへ行く。
「九条、一緒に帰ろ」
「「「「は?」」」」
「母がさ、九条にエレクトリックバイオリンをもらって欲しいって。アンプもあるからオレ運ぶ」
「あ、ああ。いーの?」
「おう。もう使わねーみたい」
そーじゃないよ。バイオリン姫は「カノジョがいるのにいいのか」って意味で聞いたんだよ。
「は、はなぞのくんっ」
モデルが大きな目をパチクリさせて 動揺してっじゃん。
「あ、三上、家の方向ちげーじゃん。大丈夫、ニカにでも送ってもらえよ。じゃーな」
あのさー「ニカにでも」って、私だって女の子なんだけど。送ってもらう側だよね?
ひらひらとモデルに手を振る花園君を見ながら、生徒会長が私に耳打ちした。
「花園って天然だよな?」
「だねー」
悪意が全くない、質の悪い天然悪魔。三上さん、ご愁傷様。
「オレ、三上の骨拾っとく」
人間のできた生徒会長はモデルに「方向一緒。帰るぞー」と声をかけていた。
生徒会長、なんていい人。
あ、「いい人」評価しちゃった。ダメだよね。




