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「あの、卓上コンロは?」
焼肉の必需品を聞いてみた。
「ああ、はい」
神センはテーブルの中央を人差指ですーっとなぞった。すると、その部分が赤く光った。
「うわーっ。どーなってんですか?」
「はは、気分的に3Dにするか」
そう言って、赤く光った脇をトントントンと指先でタップするように操作すると、赤い部分に平面の炎の画像が現れ、次に立体映像になった。
「おおー」
ぱちぱちぱち
思わず拍手。
「これはね、企業秘密らしい。僕も知らない。いいだろ?」
生のカルビを炎の上に持って行くと、鉄板も金網もないのにその場に留まる。宙に浮いたまま焼けていく。なにこれー。
牛肉は絶品。タレも最高。
「先生、九条さんを治してくれてありがとうございます」
「いや、仁科がお礼をいうことじゃない。もともと、九条さんも候補だった」
「候補って? なんのですか? 天才?」
「今、仁科がしている役目」
へー。そーだったんだ。
「九条さんの方がぜんぜん頭いいですもんね。普通に花園君と一緒の中学行けますよ。なんで九条さんじゃなかったんですか? 空き教室に一緒に入ると問題とか、そーゆー理由ですか?」
「それは大きい。他にも。九条さんは外見が良過ぎて男の子が寄ってこない。だから必要以上に花園に近づかせるのは、5年生の時点ではムリだと判断したんだ」
むっ。
「どーせ私は、男子から意識されてませんよー」
じゃ、キッズモデルは? 外見のレベルならバイオリン姫と張るし男の子が寄ってこないってとこはある。でも、モデルの三上さんだったら、花園君に近づいても不自然じゃない。
私の考えを察した神センは続けた。
「ははは。三上さんは花園とつかず離れずの距離を保てなさそうだ。三上さんは花園のことを好きなんだろうな。
前にも言ったけど。綿貫君は賢くて倫理的なことを言いだしそうだからやめた。
橘は自分のことで時間的にも精神的にも余裕がなかった。
仁科がいてくれてよかったよ」
褒められてるんだか、けなされてるんだか。
「あの、目的は花園君を未来へ連れて行くことで、私がすることは、花園君に中学受験を成功させることですよね? つまり、私は花園君が受ける中学は記念受験でもいいわけですよね」
頑張って私の成績はめきめき上がった。それでも、元が元。受験が日一日と迫るのに、私の成績は、神センに指示された学校に及ばない。
「なんだよ。そんな挑み方で試合に勝てるわけないだろ」
神センは吐き捨てるように言った。
「試合?」
「ブルーグリーンカップ」
「負けましたよ。はいはい負けました。言い訳はしません」
なんで知ってるわけ。私、言ってないよね。
「僕が見ているのに不合格なんてさせない。全力を尽くさないなんてもっと許さない。『今となってはいい思い出』なんかにするな。どんなにみっともなく足掻いたっていい。勝ち取るんだよ。アンダースタンド?」
箸を止めた神センが射るような目で私を見る。
「……はい」
返事をするしかなかった。




