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神センは自分の寝室で、私はソファで眠ることになった。
宙に浮かんだライトによって、ソファの部分だけが暗くなった。光じゃなくて暗闇を提供するライトって、なんだか不思議。貸してもらった布団はふわふわで体が溶けていくみたいに眠りに落ちた。
目覚めて暗闇を作っているライトに触れると、暗闇はなくなった。眩しいほどの光に目を細める。光が降り注ぐ大きな窓。窓の外には青い空と光輝く海。
ここはいったい西暦何年で今は何時なんだろう。
少し離れた、リビングのベッドの上ではバイオリン姫と花園君が眠っている。
バイオリン姫のベッドの脇に立って、ブランケットに隠れている右腕の部分を見つめた。
痛かったよね。辛かったよね。
花園君を助けた後、ぽろぽろ泣いていた姿を思い出す。
大丈夫だよ。きっとバイオリンを弾けるよ。コンクールにだって出られるよ。大丈夫だから。
自分のことを考える間もないくらい、とっさに体が動いたなんて、バイオリン姫はきっと、花園君のこと、大好きなんだね。そーゆー気持ち、羨ましいかも。私には、なんだかよく分かんない。
眠っている状態のバイオリン姫は、実写版眠り姫。白い肌に天然の長いまつ毛、形のいい唇。こんなに美少女だったら、どんなに素敵な男の子だってイチコロだと思う。
なのに、なんで花園君がいいんだろ?
確かに外見はいいけど。いろいろと欠けてるじゃん。抜けてるじゃん。抜けすぎじゃん。謎。
そんなことを思っていると、リビングに神センが現れた。
「モーニン」
「おはようございます」
「疲れは取れた? 食事にしよう」
食事って言われても、ダイニングテーブルもないじゃん。キッチンらしきものはあるけど、使ってる雰囲気がまるでなし。
「先生って、どこで食べてるんですか?」
「あそこ」
神センはキッチンの調理台を指差した。なんて寂しい独身生活。はっきり言って、楽しい食事をする場所じゃない。これは料理も期待できそうにないな。
「あそこで2人じゃ狭いですよ」
「今日はそっちで食べるか」
神センが何やら英語で指示すると、光が降り注ぐ窓辺からビームが出て来てガラスのような板が宙に浮かんだ。どうやらダイニングテーブルらしい。同時に、床の一部が開いてイスが上がってきた。
「置いておけばいいじゃないですか。広いんだから。でもかっこいいかも。あははは」
笑いながら宙に浮かぶダイニングテーブルにペタペタ触る私。
「いやいや。女の子を連れてくるとね、2人掛けのダイニングセットがあるとかペアの食器があるとか、つまんないこと気にするんだよ。その点これなら、ホームパーティの大きさにもなる。ちゃぶ台にも」
へーへー、そーですか。なに気にモテ自慢はさんでくるよね。
「で、何を作るんですか? 手伝います」
「焼肉でどう?」
「はーい」
私は元気に挙手。
準備を手伝おうとキッチンをきょろきょろと見渡す。でも、すっきりとした壁しかなく、食器棚が見あたらない。卓上コンロのありかも鉄板のありかも不明。
一方、神センは冷蔵庫から肉を取り出している。見ただけで分かる高級感漂う赤に白い点々のある牛肉。美味しそう。
あれ? 同じく冷蔵庫からごはんも出てきた。こっちは湯気が出てる。
「先生、ここじゃ冷蔵庫の中に温かい物も冷たい物もあるんですね」
「冷蔵庫じゃなくてミールボックス。食材に合わせて適温保存してくれる。水分も匂いも閉じ込める」
壁に見えたところは実は収納棚で、そこからお皿やフォークが出された。
それらを宙に浮くダイニングテーブルにセッティング。




