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慣れないことをするって、精神的に疲れる。私なんてほぼ見ていただけなのに、ぐったり。
スーツケースに、出されていたものを片付ける。血が付いたものもそのまま返せばいいんだって。器具に付着した血液や脱脂綿が吸い取った血液も、過去の人間の調査や、医薬品、手術用器具の研究開発のデータ収集に使われるらしい。
「いつ目が覚めるんですか?」
「今から6時間後。治療台のベッドにセットした」
「ベッドに? 最初に打った麻酔じゃないんですか?」
「あの麻酔の効果はだいたい1時間。あのベッドは、体重や脈拍、脳波の状態から麻酔となる気体を患者に送り込む。仁科の時代での麻酔医の役目もするんだよ。きっかり6時間後に目が覚める」
「そのときは治ってるんですか?」
「たぶんね。5時間後に調べるよ。
問題は戻るときだな。連れてくるときよりも難しい。僕が浅はかだった。意識がある状態にしなければ倒れてしまう。なんかいい方法はないか」
「あの、前に友達から麻酔が切れるときのことを聞いたんです。病院だったからなのかはわかりませんけど、もやがかかったみたいに白っぽかったって。で、だんだんはっきり見えてきて頭もはっきりしてきたそうです。
その意識がぼやーっとしてるときに連れて行けばいいんじゃないですか?」
「へー。そうなんだ。僕は麻酔したことがないから分からなかった。調べてみよう」
調べるって、私はネットでAIに聞くのかと思ったの。なのに神センは、ソファから腰をあげてすたすたと歩いて行く。
「先生、どこ行くんですか?」
「寝室でデータを取ってくる。そのテーブルに僕の視覚のデータを送る」
何を言っているのかさっぱり分かんない。
首を傾げていると、テーブルに真っ暗な横長の楕円形が現れた。
10分後、その楕円形に白い横線が見えた。
そして楕円全体が白っぽくなった。
それからだんだん白い部分が薄くなって、白い本棚に並ぶ同じ大きさのものや、海をバックに砂のついた男女の手が繋がっている写真が見えた。
その風景がはっきりする前に画像が動いて変わっていく。半透明の扉が現れ、扉が開く。そして、
「どうだった?」
リビングに神センが姿を見せた。
神センの足元はふらつき、画像にはまだ白いもやみたいなものが残っている。画像データの下に表示されたタイムは17分40秒を通過した。
「大丈夫ですか? 自分で人体実験したんですね」
「てっとり早い」
「たぶん、先生が歩き始めたのは目が覚めてから7分後くらいです」
「そうか。連れて行くなら、その前だな。個人差があるとは思うけど、意識がはっきりする前で自分の体を支えられる程度のときがいい。4分から5分後か」
神センはテーブルに表示されている画像を停止してから早送りで再生していた。
「6時間は長いですね」
「そうだな、とりあえず4時間くらい仮眠させて欲しい。疲れた。たぶん、時間経過的には、仁科の時代にいたら真夜中だよ。起きたら食事でもしよう。それとも理科の授業でもする?」
「食事で」
「ははは」




