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急行が停まる最寄り駅は塾銀座。群雄割拠のしのぎを削る塾業界が火花を散らしている。
塾は好き。学校みたいに「ぜんぜん勉強してないよ」なんてポーズを取る必要がない。素のまんまでOK。
知識を身につけることも思考を巡らすことも、私にとっては楽しい。結果が偏差値や順位になるのは、がんばりが数字になって分かり易いって思ってる。
どさっ ころん
席に着いてリュックからテキストを取り出すとき、うっかり森ちゃんのお母さんからのチョコが出てしまった。恥っ。
ささっとチョコを片付け、テキストと筆箱をセッティング。
私が通っているのは、中学受験用の塾。
兄が中学受験をするのを見ていて、自分も自然に塾へ通うようになった。いいとか悪いとか、自分の意志はどうかなんて分かんない。ただ、楽しそうって入り口で、実際に勉強は楽しくて。
今では、後付けで「硬式テニス部に入りたい」って理由まである。
私の住む学区の公立中学にはソフトテニス部しかないから。
1限目の国語が終わって廊下に出ると、開け放たれたドアから自習室の中が垣間見えた。生徒は誰もいない。つい最近までは熱気が廊下まで漏れ出てたっけ。自習室という名であっても、受験生以外立ち入り禁止じゃないかと感じるほどの結界が、あのドアにはあった。
自習室が閑散としているのは、もう受験が終わったから。
来年は私が受験生かぁ。
上級生がいないせいか、やや大きな顔をして廊下で友達とふざけ合う。
「ニカ、さっき、チョコ落としてなかった?」
目ざといのはやっぱり女の子。塾で仲のいい九条さんが小首を傾げる。今日も左のアゴにバイオリンを抑えるときの赤い痕がある。クォーターってこともあって、スタイル抜群の美少女。
「「おおーっ」」
「「ニカ、やるじゃん」」
一緒にいる友達が騒ぐ。
「ニーカー、誰かにあげんの?」
からかってきたのは橘君。隣の小学校に通う背が高くて手の大きな男の子。ミニバスケットをやっているからかスポーツ刈りなんだけど、それがおしゃれにしか見えない整った顔。
「友達のお母さんに貰ったやつだよ」
「「「「「ははははは」」」」」
笑われた。
どーせ。別にいいし。もう屈辱的な一日も終わるから。それに、今笑ったみんなだって、大した成果なんてないでしょ? んーっと。あるかも。
橘君の横では、さらさらヘアの、花園央治がくすくすと肩を揺らす。花園央治は芸術品レベルの癒し系イケメン。
塾のクラスでなんとなく席が近かったメンバーと休憩時間を過ごすことが多くなった。小学校は違う。
男4人、女3人のメンバー。テスト結果はメンバー内ではオープン。花園央治はダントツ1位。
廊下でふざけ合っていると、突然呼ばれた。
「おーい、仁科、ちょっと来い」




