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神センは、部屋に戻って来た時に一緒だったスーツケースの中から取り出したものを、手術台の脇に設けられた台の上にてきぱきと並べていく。
モニター、はさみ、メス、ピンセット、脱脂綿。そして、小瓶を出した。注射器サイズ。
その様子を立ったまま見守る私。
すると神センは、スーツケースのどこかに手をかざした後、小さなビニール袋を破って2本の注射針を出し、1本ずつ小瓶に取り付けた。
「吹矢。はい、仁科」
なにそれ。「はい」じゃないし。
「どうやって使うんですか」
焦る。
「適当に。首にでも先が触れればOK。皮膚を感知すれば、後は勝手にやってくれる。自然に皮膚から抜けて来たら終わり」
「便利な注射ですね」
「仁科の時代だと、注射を打つ人によって痛かったり、場合によっては静脈探したりするだろ? それがない。誰でも上手にできる。血をお腹いっぱい吸ったら体から離れるマダニからヒントを得たアイデア商品だよ。仁科もスーツケースのキットで殺菌して」
「なるほど。え? 殺菌?」
さっき神センが手をかざしていた部分に同じようにすると、手がぽわっと青紫色の光に包まれた。おおー、殺菌。
「こっちに連れてきた瞬間に打つんだ。合図する」
「はい」
「行くぞ」
神センがパチンと指を鳴らすと、私はみんなと横断歩道前の歩道にいた。
そして即座に、周りの景色が白い神センの部屋に変わった。
「打て!」
プツッ
バイオリン姫は驚きに目を見開いてから、くてっと体の力が抜けた。花園君の方は、神センが支えている。
「気絶する前にこの部屋を一瞬見ましたよ」
「一瞬だろ? 花園は見てない。視界を隠したから」
犯罪に慣れてるんですね。
神センは花園君をお姫様抱っこで治療台に載せた。えーっと、長身のバイオリン姫は私には到底抱き上げられないわけで。私の膝を枕にバイオリン姫が寝転んでいる状態のまま。
「先生、お願いします」
バイオリン姫はもう1つの治療台の上に載せられた。
何だか不思議。これから治療をするってのに、バイオリン姫も花園君も上着を着て靴を履いたまま横たわってる。
神センと私は半透明の割烹着のようなもの、帽子、マスク、手袋を着用。この辺は私の時代と変わってないんだね。
神センは五百円玉よりやや大きめのレンズのようなものを、花園君の右足のすねの部分に近づけた。すると、骨とそのまわりの組織が空中に半透明の立体映像となって現れた。
骨には小さなヒビが。「なるほど」と神センが独り言。
そして手術台で、コピー機のスキャン機能のように光が移動していった。
「右足の骨以外は他の組織に異常なし。次、九条さん」
今の手術台の光が調べたってわけ?! 早っ。




