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未来人が天才を迎えに来たけど自分じゃなかった  作者: summer_afternoon


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36/64

小学校では秋の遠足が終わった。

塾前の歩道には、イチョウ並木が黄色に染まって銀杏を実らせる。



事件が起こったのは、夜の風を肌寒いと感じ始めたころだった。


休憩を兼ねて、女子3人でコンビニに行く途中歩道を歩いていたら、突然バイオリン姫が走りだした。


「「九条さんっ」」


キキーッ!


大型トラックが急ブレーキを踏み、10メートルほど過ぎて止まった。


「大丈夫か?! 気をつけろ! 赤信号だったぞっ」


トラックの運転手は窓から大声で怒鳴り、トラックを発進させた。


急いで駆け寄ると、横断歩道脇の車道の隅に花園君とバイオリン姫がいた。赤信号に気づかず横断歩道を渡り始めた花園君の腰を、バイオリン姫が両手で抱か込んで、がっと歩道の方へ引き戻したのだった。

間一髪。

車道では、花園君のスマホが車のタイヤに踏みつぶされ、無残な姿で転がっている。


バイオリン姫は、勢い余って車道の隅、横断歩道の脇で尻もちを突いている。その膝の上には花園君が倒れ込んでいる。


「大丈夫!?」

「ケガは?」


読モと一緒に2人を抱き起そうとした。取りあえず歩道へ移動させたい。危なすぎ。


央治(おうじ)、どうした?!」


そこへ(たちばな)君が走って来た。


花園君は右足を押さえ、真っ青な顔でがくがくと震えている。歩道の縁石に打ち付けたらしい。バイオリン姫は体育座りの姿勢で花園君を膝に乗せたまま。花園君が立てないからバイオリン姫も立ち上がれない。


「私、右腕、ヤバい気がする」


バイオリン姫は左手を後ろにやって体を支え、右腕はだらんとなっている。


「先生に知らせてくる」


私は数メートル離れた塾に走って事務員に知らせた。

道路に戻ると、


「痛っ……」


花園君はバイオリン姫の膝から下りて、歩道の方でうずくまっていた。右足の(すね)の下の方を押さえている。


「右足? 立ち上がれない?」


橘君が花園君に話しかけている。

すぐ横で、バイオリン姫は歩道の縁石に座った状態で、右腕を左手で支えて何も言わずぽろぽろと涙を流している。


「痛いの?」


キッズモデルがバイオリン姫の顔を覗き込む。


「今、先生が来るからね」


私にはそんなことしか言えなかった。

利き腕なんて。音楽をやってるバイオリン姫には致命傷。嫌な予感しかしない。バイオリン姫の涙は、痛みのためだけじゃないかもしれない。


コンビニに行こうとしていた花園君は、歩きスマホをしながら赤信号の横断歩道を渡り始めた。そこにはトラックが来ていたのに。バイオリン姫が気づいて、走って花園を引き戻した。

私が呼びに行った間に拾ったのか、橘君は踏みつぶされた花園君のスマホを手にしていた。


仁科(にしな)、どこだ!」


神センともう1人の講師が現れた。神センが花園君の肩に手を置いた次の瞬間、私は未来に(いざな)われた。白い革製のソファ、白い大理石の床、宙に浮くライト。


「先生、何してるんですか! 急がないと」

「向こうの時代では1秒も時間は進んでいないよ」


焦る私は神センのスーツの腕の部分を(つか)んで引っ張った。

でも、いくら引っ張ったところで、自分の時代に戻ることなんて、私にはムリ。


「でも、こんなときにっ」


私の非難に微動だにせず、神センは言った。


「こんなときだからだ。

 仁科の意見を聞きたい。花園の足は折れているかもしれない。でなくても捻挫(ねんざ)くらいしているだろう。受験までには治りそうだ。このまま仁科の時代で治療してもいい。

 ただ、せっかく字が綺麗になって、気分も受験に向いてきているのに水を差される。手っ取り早くこっちに連れてきて治してしまおうと思う。どうだ?」


花園花園って、ムカツク! 被害者がもう1人いるのにっ。


「花園君は自業自得です。それより、九条さんも右腕が折れてるかもしれません!」


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