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「ニカぁ、これ、どーする?」
私は仲間内では「ニカ」って呼ばれてる。苗字が仁科だから。音読みで「ニカ」。
「あ、今日塾ある。私、塾行くときに森ちゃんちの近く通るから渡しとく」
「じゃ、ニカに頼んだ」
「うん」
帰宅してすぐ、森ちゃんに連絡しておいた。
今夜のメインメニューはスペアリブのマーマレード煮。柔らかい肉をするっと箸で骨から外して甘いソースを絡める。美味しっ。
食卓には、母と妹と私。父や兄は帰りが遅いから、夕食を一緒にとるのは1週間に1回くらい。
「お母さん、お兄ちゃんって中学のときチョコ貰ってた?」
私には3つ年上の兄がいる。中身はなかなか粘着質で性格に難ありだけど、外面と面がいい。
「お兄ちゃんは幼稚園のときからいっぱい。お返しが大変だったの」
聞くんじゃなかった。
「ふーん」
「あら、まあまあ、そんなことを聞くなんて、誰かにチョコをあげたの? それとも最近ブームの逆チョコをもらったの?」
「え、お姉ちゃんが?!」
母はにっこりと私の顔を覗き込んでくる。妹は興味津々。傷口に塩塗りこまないでよね。
「あ、もう塾行かないと。ごちそうさま。じゃ」
私は最後の一口でこれ以上ないってくらいご飯を頬張って、スペアリブの骨を片手にダイニングを退場。
廊下にいたコリー犬のバフェットに骨を投げた。バフェットは、待ち構えていたかのようにキャッチ。骨をかじる音をBGMに歯を磨き、私は家を飛び出した。
マフラーで口を覆って自転車にまたがる。これで唇はかさかさにならない。
和菓子屋の角まで行った。
森ちゃんの家は和菓子屋正面にあるマンション。
看板の前には街灯に照らされて、森ちゃんが待ってた。上着を萌え袖にして、手にはーっと息を吹きかけて温めてる。女の私から見たって可愛い。
モテるわけだよね。中身もとってもいい子だもん。
ちなみに、森ちゃんにはとびっきりのカレシがいる。
「これこれー」
「ニカ、ありがと」
自転車のサドルに引っかけてあった紙袋を渡すと、森ちゃんは交換のように私に包みをくれた。
「これ、ニカにって」
きゃー。私にも、渡したくても渡せなかった男の子、いたんじゃん。
「え、誰? 誰から?」
「ウチのお母さんから。いつも娘がお世話になってますって」
なーんだ。がっかり。チョコは嬉しいよ。もちろん。
「わーい。ありがとって言っといて」
「うん。届けてくれてありがとね、じゃね。ニカ、塾頑張ってね」
「じゃっねー」
街灯が点々と灯る夜道、私は駅近くの塾へ自転車を飛ばした。
小学生の女の子が暗くなってから、自転車で塾へ行っています。実際には、あり得ないと思います。
原作は、ニカが男の子でヒロインが天才という設定だったのです。




