*
一人エレベーターの中に取り残された私は、1階では降りず、そのまま上へ。
教室に戻ろ。
ぴちっ
両手で軽く頬を叩いて気分をしゃきっとさせる。
エレベーターを降りて教室に向かうと、廊下で橘君が花園君の足元にかしずいていた。
「橘君、何してんの?」
「靴ひも結んでんの」
ちょっとちょっとちょっとー。なんて花園君の靴ひもを橘君が結んであげてるわけ?
「橘君、赤ちゃんのお世話じゃーん」
笑いながら突っ込んでみる。
「央治、靴ひも結べねーの」
と橘君。
「うん。そー」
は? 「うん、そー」じゃないよ、花園君。小6でしょ? 幼稚園児じゃないから。
「なんで?」
聞かずにはいられない。
「細かくて、ひもがうじゃうじゃしてて、よく分かんねー」
花園君が恥ずかしそうにムッとする。
「じゃ、花園君、いつも靴履くとき、どーしてんの?」
素朴な疑問。
「結んだままにしてある。でも、今、それでもほどけたんだよっ」
相当恥ずかしいのか、花園君は言い捨てた。
「もう、ボンドで固定しとけば?」
冗談を言いながら、私は教室に入って行った。
理科の授業が始まった。
「あれ? 花園は? 休みですか?」
神センが首を傾げる。たった12名のクラス、いないとすぐに分かる。って、さっき廊下にいたよね? 一緒にいた橘君は席に着いている。
授業が始まって20分が過ぎたとき、花園君が現れた。
「すみません」
おずおずと席に着き、1番後から来たくせに、1番最初にプリントを終え、解説を聞いていた。なんかずるい。
授業が終わるや否や、嬉々とした声が近づいてきた。
「ニカさんきゅー! ボンド、いーよー」
目の前に来た花園君は満面の笑み。
「は?」
「ほら、靴ひもボンドでくっつけろってアドバイスくれたじゃん」
いや、アドバスじゃなくて冗談だったんだけど。
「ごめん」
謝っておこう。冗談キツかったかも。
「即行でボンド買ってきてくっつけてみたわけ。乾くまでに時間がかかったんだけど、イイ感じ」
「え? まさか、授業に遅刻したのって、花園君。ボンド買いに行ってたの?」
「うぃぃぃ」
アホみたいに嬉しそうに頷く花園君。
「おい、央治、いきなり走ってどっか行っくなって。びっくするだろー」
橘君が困った顔をしながら、花園君の靴紐に目をやった。
「悪ぃ悪ぃ。すぐ試したくなってさー」
花園君は悪びれない。
あー、いつか神センが言ってたっけ。興味があることを優先するって。
「おい、央治、靴下までボンドでくっついてっぞ」
「マジかー」
イケメン2人は笑いながら楽しそう。
天才、恐るべし。靴ひもが結べないなんて。授業をぶっちぎって気にしないなんて。靴下と靴を合体させちゃったなんて。
私、天才じゃなくてよかったかも。何かと日常生活不便そう。




