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「心?」
「ああ。
例えば、天才を未来へ連れて行きたい。花園をここへ呼べば、それで終わる。でも、こんなに回りくどいことをしている。
頭脳のことだけを考えれば、彼を未来で教育すればいい。この時代よりも遥かに多くのことが解明され、技術は進歩している。知識を脳にダウンロードすることも簡単だ。
でも、それでは、きっと、革新的な開発や研究に繋がらないんだよ。花園の心が豊かな状態で、強い探求心を持つ必要があるんだ」
そうか。もとはといえば、天才の遺伝子を排除してしまったことに端を発しているんだから。本来必要なのは遺伝子だけなはず。
「天才の遺伝子が欲しいだけなら、花園君の髪の毛一本でもいいんですよね?」
「髪の毛では、ちょっとムリかな」
「そういえば、どうして遺伝子だけじゃなく、花園君自身を連れて行こうとしてるんですか?」
「排除してしまったからね。どの情報が天才の遺伝情報なのか、判別が難しい。
それに、花園のコピーを作ったとしても、あそこまでまともに育つ保障がない。恐らく、彼のご両親、特に母親は相当苦労して育ててきたと思うよ。幼少期は自閉症と知的障害を疑われていたらしい。面談で聞いた」
「え、あんなに頭いいのに?」
「良過ぎるんだよ。だから浮いてしまう。年齢に不釣合いの知的好奇心。ものごとを深く追求しようとする姿勢。
花園があそこまで社会性を身につけたのは、母親という存在がなければ成し得なかった。
多くの場合、幼少のときに極端な社会性の欠如を伴って、運が悪ければ、間違った判断で一般的な教育を受けられない。エジソンが問題児だったのは有名だ」
つまり、花園君の頭脳は偉人レベルってこと?!
「花園君ってすごいんですね」
「同時に環境もね。
多くの場合、そういった人間は社会に適合できず、自治体や企業に溶け込めない。社会構築から外れるんだよ。
知識を有効活用されるどころか、大人になったら税金を滞納するような社会システムのアウトローになってしまう。だから排除されてきた。
まあ、彼が母親の手を離れたら、税金はおろか、公共料金の支払いも忘れるタイプだろうけど」
天才って振れ幅大きすぎ。
「心を育てる環境が大事ってことですね」
「そう。だから特別コースから外れてしまった人間に、一時だけの感情で勉強をさせるってわけにはいかない」
「はい」
「アンダースタンド?」
「イエス」
「仁科はよくやってる。長時間の勉強が苦痛じゃないんだな」
「なんとなく、やった分だけ結果が出るから、楽しくて」
「よしよし」
神センは頭をぽんぽんとしてくれた。ちょっと嬉しい。
ぱちっ
神センは指を鳴らした。すると白い革製のソファがあった神センの部屋は、エレベータに早変わり。
エレベーターが開くと、神センは「じゃ」と、1階のロビーの景色に溶け込んでいった。




