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小学6年生の4月。新しい学年になったところで、私の周りに変化はなかった。
しいて言うなら、田部ちゃんがときどきカレシと一緒に下校するから、帰路の最後を、一人でとぼとぼと歩く日ができたってことくらい。
小学校のころから、家が近かったせいか森ちゃんと田部ちゃんとは親友。
3人でテニススクールに通って、行き帰りにジュースを飲んで。子供だけのスタバデビューも3人。遠くまで高校生のテニスの試合を見に行ったのも3人。夏祭りの夜に森ちゃんがカレシから告白されたときも3人でいたっけ。
友達にカレシができるって、なんか、1番ってポジションを取られたみたいで、正直寂しい。自分もカレシ作れって話だよね。
6月、特別コースから、1人脱落した。5月にあった模試の結果が悪かったのだ。その1人はいつもつるんでいた内の1人、鈴P。
悲しかったのは、鈴Pがよそよそしくなったこと。別のクラスに移ったら、そこですぐに友達を作って私達とは挨拶だけになったちゃって。
「鈴P,戻ってきてよー。待ってるから。たった1回のテスト結果だけじゃん」
私は言ったけど、鈴Pは笑顔を貼り付けて、
「いいって。オレは楽になったから。キツかったんだ。
授業も分かんなくって。問題も解けなくって。
早めに落ちて良かったかも。
ニカは、がんばってるよな。これからもがんばれ。
でも、がんばり続けられなくなったら、オレと一緒のクラス来いよ」
と軽く手を振った。小5の最後の時点では、仲間内で私の成績が1番悪かったから。
ぽん
廊下でいきなり肩を叩かれて振り向けば、神セン。
「仁科、ちょっと来い」
自習室は満員御礼。どこに連れて行かれるのかと思いきや、エレベーターだった。
エレベーターが閉まった途端、私は白い革製のソファセットがある、神センの部屋にいた。テーブルの下にはキリン模様のラグ。
「どこからでも来れて、便利ですね」
「まあな。仁科、泣きそうな顔してるぞ」
神センは一人掛けのソファに座った。
促されて、私も長い方のソファに腰を下ろす。
ふかぁ
「友達がクラス変わっちゃったから」
「ああ」
神センには誰のことだかすぐに察しがついたみたいだった。
「鈴Pがここに来て、いっぱい勉強すれば、元の一緒のクラスに戻れるんじゃないですか?」
「いや」
神センは能面みたいな顔で首を横に振った。
「先生言いましたよね。勉強はやったらやった分だけ力が付くって」
「長時間勉強することに耐えられない場合がある。精神的に。人それぞれなんだよ。理解力も」
「2月には私より頭よかったんです。だから、やればできるんです」
私が入塾したのは小5のとき。鈴Pは小4からいた。ずっと一緒だったのに。これからも一緒に頑張りたいのに。
「ああ。よく遣う言葉だ。『やればできる』。その真実があるのに多くの人がその言葉を遣われる状態に陥ってしまう。
なぜだと思う? 『やることが難しい』からだよ。やり続けることは更に困難だ。
人には心ってものがある。その状態を考えることが大事なんだよ」




