見えざる手
「先輩ビンゴっす。ここ――元校長室にショートカットが設置されてるっすよ」
湊のセーフハウスに移動して、三人はすぐに校内を調べた。成果はほとんど期待しておらず、ほとんど当てずっぽうに等しい行動だった。しかし、結果は予想を裏切るものだった。
校長室は校舎がボロボロになっているにも関わらず、小奇麗だった。木目の調度品は未だに艶を失っておらず、まだまだ使えそうだ。
そんな中に不自然に置かれたブラウン管――二〇八〇年台という時代にそぐわない骨董品だ。かえって美術的価値があるのだろうか、などと湊は想像する。
このブラウン管にショートカットが組み込まれていた。
「……まさか、な」
「本当にまさかよ。どうして気付かなかったの?」
「…………俺だって失敗することは、ある」
額を押さえ、自分の間抜けさを呪った。
「いや、これは気がつかなくても無理ないっすよ。このブラウン管、国家組織級のプログラムで偽装されてるっす。ショートカットが存在するという前提かつハッカーか技術屋が動かないと見つけられないっすよ、これ。どうすればショートカットが動くんすかね……多々良じゃショートカットの解析はむずかしいっすよ。先輩、やってみるっすか?」
いや、と首を振る。
「お前に解けないものが俺に解けるわけないだろ」
「私も無理そう。力でこじ開けるのは得意なのだけどね」
そう言って逢佳は画面に触れる。すると、画面にノイズが走った。「ひゃっ」と驚いて、すぐに手を離す。
「今のは?」
気になって湊も画面に触れた。するとやはりノイズが走る。試しに多々良も画面に触れたが、ノイズが発生しなかった。
「多々良には反応しない、でも先輩たちには反応する……にへえ」
「その笑い方やめろ」
「先輩、ちょっとブラウン管の前に立ってほしいっす」
「何故?」
「いいから」
湊は疑問符を浮かべながらも、指示されてた通りにブラウン管の前に立つ。
「ちぇいさー!」
「うおおおお!?」
多々良渾身の飛び蹴りだった。たまらず湊は体勢を崩し、ブラウン管のほうへ突き飛ばされる。その硬い画面に直撃する、ことはなく。湊はテレビの中に吸い込まれていった。体の半分が吸い込まれそうになる中、画面の淵を辛うじて掴み、ブラウン管への侵入を止めた。
「おい多々良お前」
体を引き抜き、悪態をつく。
その様子を見た逢佳は多々良に解説を求めた。
「……何をしたの?」
「顔怖いっす。まあ何となく、先輩ならショートカットが動く気がしたんすよ。多分愛染先輩もショートカット動かせるっすよ。ショートカット開放のキーは恐らく、六骸情報の有無っす。まあ、どうして六骸情報に反応するのか分からない以上、仮説に過ぎないっすけどね。そうなると多々良は入れないっすから、ショートカットがどこに繋がってるかの調査は二人に任せるっす」
それを聞いた逢佳は目をぱちくりさせて、
「聞いてなかったけど、あなたもしかして六骸情報を使えないの?」
「六骸情報の開放方法を知ってるっすよね? 多々良はあんな痛い目にあいたくないっすよ」
「全く正しい意見だわ」
「それでも、先輩達は力が欲しかったんすよね。ああ、それ以上は結構っす。余計な詮索をして嫌われたくないっすからね」
異変が起きたのは、その時だった。黒板の自動筆記機能が動き、侵入者を伝える。
「こんな時に!」
逢佳が六骸情報を起動しようとする。しかし、湊はそれを制した。
「俺が相手をする。お前は先に行ってくれ」
「でも」
「いいから行け、俺も後から行く。……早く!」
急かされて、逢佳はブラウン管の中に飛び込んだ。それを見届けると、湊は黒板に記された地図を見た。
青いバツ印だ。通常、侵入者は赤いバツで侵入地点が表示されるのに対し、今回はわざわざ別の色を使って表示していた。
「二人で戦ったほうが早くないっすか?」
「あいつを犯罪者にしたく無いからな。まあここに残ったとして、奴らに顔を見られるようなヘマはしないだろうが、念のためだ」
「多々良はいいんすか?」
「お前は六骸情報とか無いんだから、速やかに有罪にはならないだろ」
「ひどいっす」
湊は六骸情報を起動し、闇色の衣を纏った。
「お前はテレビのほうに集中、彼女の援護を頼んだ」
「へーへーっすよ。先輩は?」
「あいつらを叩き出す」
青いバツ印は、湊が特別警戒する相手だ。電脳世界で唯一逮捕権を持ち、秩序を守る役目を与えられた者。
電脳警察だ。
◇ ◇ ◇
逢佳がみた世界は、文字通り単純な構造の世界だった。
そこは、天上と地上しか存在しない空間だった。地平線遠くまでの黒、天上と地上には緑色の格子模様。規則正しい格子のおかげで辛うじて距離感覚を保ってられるような、人が訪れるべきでない場所。
逢佳が立っているのは天上と地上の中間だ。空中に浮いた緑色のタイルが組み合わさって足場を作っていた。広さにして、学校の体育館と同程度。
逢佳はこの空間を図鑑の中で見たことがあった。人の手によって整形されていない電脳空間の土台、原初の電脳風景だ。
「何だ、祭葉はいないのか」
「私一人で十分よ」
逢佳が六骸情報を装備した。それを見たメルカは「ううむ」と一度唸る。
「一応、君達の用事を聞こう。私は教育監査委員であると同時に、教師だからな。生徒の話はちゃんと聞くのさ……」
「転生者とどういう関係があるの?」
「――そんなことか」
メルカはポケットのタバコを咥え、火をつけた。
「今、あなたそんなことって言ったの?」
「そんなこと、だ。その質問に対しては明確な答えが存在する。――転生者を生み出しているのは、私だ。私が君達の探している黒幕だよ」
「――そう」
無意識下の反応だった。逢佳の髪が青く発光する――臨戦態勢だ。逢佳は既に、火のついた爆弾だった。いつでも目の前の神様気取りを攻撃する準備が出来ていた。
「最近騒ぎを起こしたのは、藤代と一之瀬か。面倒を掛けて悪かったな」
「ええ、全く」
「何、転生システムは日々改良している。次から生まれる転生者は上手くやるさ」
「転生システム?」
「ああ。電脳移住者となる直前の人物に干渉し、その電脳体に特殊な力を付与するシステムだ」
「私が破壊すべきものは、それ?」
「やれやれ、暴力的な生徒だ」
露骨に呆れた態度をしながらそう言った。
「ここがどんな空間かしってるか?」
「興味無いわ」
「ここは聖域だよ」
「はあ?」
「自然に発生した空間だ。……信じられない、といった表情をしてる。私とて信じられないさ。だが、ここは突如として発生し、ここを中心として全ての学校を結んでいる」
逢佳はメルカがどうやってセーフハウスに侵入してきたのか、ようやく納得した。
「昨晩のアレは有蘭学園に接続し、この空間を経由して彼のセーフハウスに侵入してきた。それはわかったわ。――それはそれとして、自然に発生したなんて、一体何?」
「だから、聖域だ。ここは全ての学校を結び、ここにはヒトに新たな能力を書き加える機能が備わっていた。――すなわち、転生システムだ。この空間は一体何のために生まれたのか? さあ、わからない。ただ、何かの意図は感じられないかね?」
「新しい宗教でも始めるわけ?」
「さあな? ただ、拠り所にはなるかもな」
ふ、と静かに笑う。タバコの煙は電脳空間をり、一瞬空気を汚すと、やがて虚空に消えて行った。
「タバコは許してくれ。これが無いと私は苦しくて死んでしまいそうなのでな」
「末期ね」
「末期だよ。私に末期でないものは存在しない。夢は潰え、子供の頃を懐かしみ、達観したフリで大人ぶる……タバコの煙を漂わせて、消え行く煙に自分を見る。それが私だ。六骸情報を解いてくれ、戦う意味は無い。あの廃校舎で君達と戦って、察したよ。君を相手したとして、私は勝てん」
「なら、今すぐ叩きのめしてもいいけど」
「私はいつでも逃げられるぞ」
「……」
何も言わずに六骸情報を解除した。
「君は優秀だ。では、私の最後の話を聞いてくれないか?」
「話って?」
「決まってる。敗北者たる私にできることなんてたった一つ。交渉だ。お互いにとっての妥協点を探るべくな」
メルカがぱちん、と指を鳴らした。
緑色のタイルが変形した。逢佳とメルカ、二人が立てる分だけのタイルが残った。タイルがエレベーターの様に下降し始めた。
天上と地上の格子模様は変形し、空間は四角い角筒となって空間を包む。湊たちがどんどん下へと下がって行くと、格子模様が上方向へと上って行く。妙な浮遊感に襲われた。
「私を見逃してくれないか?」
逢佳は答えない、メルカの次の言葉を待った。
「私はもうこの茨城緯電脳では転生者を生み出さない。転生システムを持って、他の都道府県が管理する緯電脳へと移動する」
「今この緯電脳にいる転生者は?」
「まとめて転校手続きを取らせる。私は彼らの能力を取り上げる権限があるから、言う事はいかせる。もちろん、君達の身分の保証はする。転生者達が君達に意趣返しさせない様に対策するし、なんなら君達がこれから先ハッカーとしての活動をする際、協力者として転生者を何人か派遣してもいい」
「転生システムは残るって事?」
訝しげに逢佳が言った。その反応は予想できたものだった。
「残さなくてはならないんだ。アレは、必要なモノなんだ」
タイルは未だ下降し続けている。目的地は遠く、まだ辿りつく気配は無い。
メルカの脳裏に記憶が焼きついている。
死んだ子供。首を吊った子供。トラックに轢かれた子供。刺された子供。溺れ死んだ子供。餓死した子供。無意味に死なされた子供。
「転生システムは救済だ。あれは、死んだ子供達の最後の救いなんだ」
止めろ、と説得した。笑いながら死んだ。泣きながら死んだ。驚き死んだ。怒りて死んだ。
そんな記憶をタバコの煙で隠して、言葉を続けた。
「私はな。子供達の拠り所でありたかったんだ。子供達の味方でありたかったんだ。生きる事は苦しい。抗い難い運命が何度も何度も立ちふさがり、運命の女神は賽の目で人生を変えてしまう。だから、私は教育監査委員になった。学校――子供達が大人になるまで、多くの時間を過ごすそこで、子供達が苦しんだときに頼ってもらえるように、苦しまないような環境を作りたくて。無条件な味方として。それが私が在ろうとした姿だった――だが、見るがいい。ここはどこだ?」
メルカは周囲をタバコで指しながら言った。黒い大気、緑色の格子模様。
「電脳世界だ。何も無い黒色に、緑色の線で座標を定義したこの場所が開拓されてしまった。祭葉だ、彼のおじい様はこのつまらん空間に街を作る技術を生み出した。その結果、どうなったと思う? 誰もが怯え、誰もが忌諱する死後の世界がカタチになってしまった」
またメルカの脳裏で記憶がリフレインした。
「私達がいくら止めようとしても、子供は死ぬ。私達がどう努力したって、子供達の苦悩は最低限に近づくだけで、ゼロにはならない。苦しみの末に死ぬ、自らを殺す。その後に待ってるモノは? 電脳世界だ、生きることが苦しくて死んだのに、技術によって無理矢理生かされる。
だから、私は『転生システム』を維持しなくてはならない。子供達に、自らの力で苦しみを取り除く『力』を与えなければならない。それが教育監査委員東上メルカの責任だ。現実世界で苦しみを取り除けなかった私は、死後の世界で彼らを救済しなければならない」
緑色のタイルのスピードがゆっくりになり、やがて停止する。
そこは、小さな神域だった。
地平線まで広がる格子模様、そして目の前には巨大な額と、納められた絵。それだけしかない。
女性の絵だ。柔和なその表情は、女神を思わせる。
「この先に、私が守るべき転生システムがある」
「どうして私をここへ案内したの?」
疑問だった。転生システム、メルカにとっては守るべきもの。逢佳にとっては破壊すべきもの。敵を自分の陣地に招くメルカの行動は、理解し難いものだった。
「試したくなったのさ」
「試す?」
「この世に運命の女神がいるとして、彼女はどちらを選ぶのだろうか、なんてな」
そういうとメルカは六骸情報を纏った。白衣から二挺の拳銃を取り出し、構える。
「私か、君か」
「さっき勝てないって言ってなかった?」
「言ったな。私に勝機は全く無い。愛染、お前は天敵だ。私がいくら体術を磨いたところで、お前の身体能力に追いつく術は無い。はっきり言って、詰みだな」
「そう」
「だから女神のサイコロに全部任せることにした。運がよければ勝てるかもな」
「……そう」
「やらなければ全てが終わる」
そう言ってメルカは駆け出す。その動きは、逢佳に対してはあまりに遅かった。
「私は運命の女神を見捨てたから、体を切り刻んでこの能力に手を出したのよ」
逢佳が六骸情報を纏い、メルカに突進した。逢佳の力は圧倒的だ。受け流そうとしても、防御しようとしても、その破壊力の前には無意味。メルカの反応速度よりも速く、その懐に潜り込む。
「――さようなら」
逢佳の拳がメルカの腹部を捉えた。
「かっ――!」
殴られた腹部が、丸く消し飛ぶ。メルカは耐え切れず、肺から空気を無理矢理押し出されたような衝撃を受ける。直撃を受け、体験したことも無い速度で遠く吹き飛ばされた。地面を一度大きくバウンドし、女神の肖像に叩きつけられる。
「っはー……っはー……。はは、は。やはり私ではどうにもならんな……」
よろよろと立ち上がり、逢佳を見据えた。
「だが、だが……それでも私は、この転生システムを守らなければならない。……たとえどんなに歪んだ形だっていいんだ、私は苦しんで死んだ子達に、楽に生きて欲しいんだ……」
「東上先生、見苦しいです。もう、終わりにしましょう」
「……終わり?」
ゆらり、とメルカは立ち上がる。その姿を不気味だ、と逢佳は思った。なぜ腹部の一部を吹き飛ばされたにも関わらず立てるのか、と。
執念という言葉を思い出した。メルカを動かしているのはもはや神経伝達の作用とか、電脳体のプログラムとかそう言ったものではなく、歪んだ救済を望む、鋼の執念だ。
ボロボロの体、圧倒的な劣勢。半分はは解決可能な問題だ。
メルカは現実からの接続者、現実世界に帰れば電脳体は元に戻る。では、圧倒的な劣勢は? これを解決する策は一つだった。
「……まだ私には切り札がある。知ってるか……? 私は都内のタワーマンションに住んでるんだ。ふふふ、中々良いところにすんでるだろ……? そこは部屋の窓がガラス張りで、外の景色がよく見えるんだ……」
自慢げにメルカがそう話す。逢佳は花市野の意図がつかめずに戸惑うばかりだった。
「そこから飛べば……私は確実に死ぬ」
「……まさか!」
メルカの体に格子が走ると、一瞬で消えてしまった。現実への帰還処理だ。
簡単な発想だった。
死ぬという選択が何をもたらすのか? わざわざメルカはこの場所で何を説明したのか? それを照らし合わせれば、答えはおのずと見えてきた。
「……!」
瞬間。どろり、と。女神の絵から赤い液体が染み出してきた。それを見た逢佳は警戒を強める
それはまるで血液で、だんだん粘性を帯びて赤いジェルとなった。赤いジェルはやがて二メートル程の楕円になった。赤い卵の中は透けて見え、中には胎児のようなものがあった。が、一瞬でそれは成長し、立派な成年女性となる。
そして赤い卵は、水風船の様に割れた。周辺に赤い液体が飛び散る。その中心にいたのは、東上メルカだった。しなやかな赤く濡れる裸体は産まれたばかりの胎児のようで、そうであって完成した大人の姿をしている。どことなく、不気味なギャップだった。
「……これが、私の新しい体か」
こきり、と首を鳴らす。
「慣れんな、まだ他人の体のようだ。上手く動かん」
「転生、したの……?」
「した。さっき現実世界で自殺して、転生した」
ざあ、と赤い液体がうねりだした。メルカの足元から全身を這い伝う。やがてそれは赤い衣装として、メルカの一部となった。
「うそよ。そんなことできるわけ無いじゃない。死ぬ、ほんとうに死んだの」
「死んだ。死んださ。完膚なきまでに、完全に。東上メルカという女は死んだ」
「――信じられない、どうしてそんなことが出来るの」
「そうしなくて、お前を打ち倒せるか? それだけだよ」
何てことなさそうにメルカが言った。
「君達は、なぜ転生システムを奪おうとする。君達は抵抗したくても出来なかった子供達を否定するのか? 君達の様に、たまたま強力な力を持てなかった子供達を否定するのか? だとしたら、残酷なことだ。私にはそんなこと出来ない。だから彼らを生まれ変わらせる。新たな力を与えて」
ふざけるな、と逢佳は思った。
この未来世紀において、死に大した意味は無い。意識の継続は保証され、肉体がなくなるだけ。
だから問題は、苦しんで死んだかそうでないか。誰かに死なされたか、そうでないか。
たった今、逢佳はメルカという人物を追い詰めて死を誘発させた。それはとっくに覚悟していたことだった。力と力がぶつかる限り、どちらかは必ず破滅するのだから。
「力を振るうモノは、いつだって力ある物に狙われる。力の方向性がはヒトによって違う。必ずどこかで交差して、力と力はぶつかり合う。そして、どちらかは必ず打ち滅ぼされる。――だから、力は自分で身につけなければならない。その力に責任を負い、衝突の責任を問われなければならない。
東上先生、あなたは無条件に与えた力でそれができると思うの? できないなら、転生システムなんて無責任な道化よ。苦しむヒトを力で誘惑して、勝手に希望を与えて、責任の負い方を教えないなんて!」
逢佳は怒り狂おうとしていた。アルマイトの髪の毛がグラテーションに輝き、ゆらゆらとその感情を爆発させようとした。
「――それでも、私には救いたい人がいた」
逢佳が動いた。全力を込めた拳で、メルカを叩く。
「――、っ」
酷い違和感を感じた。拳に衝撃を全く感じなかった。もう一回拳を放つ、次に回し蹴りを――しかし、メルカにダメージが入っている様子は無い。
「やめておけ、意味が無い」
メルカを投げ飛ばそうとして掴もうとするが、ぬるりと滑って掴めない。
逢佳は気がついた。メルカの肌は僅かに赤みを帯びている。赤い液体が体を包んでいるのだ。その赤い液体が、攻撃を全て吸収しているのだ。
「私の勝利条件は、転生システムの防衛。君達の勝利条件は、転生システムの破壊。そのために君達は私を倒さなくてはならないが、別に私は君達を倒す必要は無い。受け止める能力だよ、これは。衝撃を吸収して、ゼロにする能力。分かりやすく言えば攻撃無効。君の攻撃は通らないし、祭葉の能力もこの赤い液体がバリアとなって防いで通さない」
「私は……!」
逢佳は攻撃を続けた。無駄だ、とは理性が回答している。諦めろ、と本能が忠告している。
だが、そういうわけにはいかなかった。もしかしたら、攻撃を加え続ければ緩衝材が壊れるかもしれない。バリアーには、実は耐久値が設定されてるかもしれない。活路を切り開く為、逢佳は攻撃を続けた。
メルカはそれを微動だにせず受け止めた。逢佳の髪の毛を掴み、一回転して投げ飛ばした。
「つ、う……!」
「君を倒さなくてもいいしとは言ったがね、倒したほうが良いに決まってる。戦うのは疲れるんだ。だから、君は現実世界に送り返す。そして、自分の無力さを噛み締めるといい」
つう、と逢佳の額に緊張の汗が流れた。こんな時、湊ならどうした? どう対応した? そう無意識に考えていた。その思考が、自分ではどうしようもないということに気がつかせた。
「まだよ」
それでも、逢佳は立ち上がった。
「あなたを倒さなければいけない。私は、転生者なんて認めない。彼らをもう生み出させはしない。彼らの暴走に巻き込まれるのは、もう御免なのよ……!」
「――それは俺も同意だ」




