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この手をつかみたくて2  作者: えみっち
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陸&美鈴の第二弾です。

「魅力的な二人が書けるように」が目標でしょうか(笑

春も間近の頃、佐波裕助がいなくなった。


誰にも何も言わずに消えてしまった裕助。

事故なのか理由があるのか何も分からない。

何でも屋という仕事柄、数日から数週間いないことは稀にあったのだが出掛ける前にはひとこと声を掛けてくれていた。こんなことは初めてであった。



 裕助がいなくなってから半年。まだ残暑が厳しい日であった。

早瀬美鈴は外出の支度をしていた。突然にかかってきた高野陸からの電話で家に来てくれと言われたからだ。陸は、裕助の家に昨年末から居候していた。二人家族である兄とのすれ違いから家を出て裕助の家に転がり込んでいたのだ。


裕助の家は目黒駅から徒歩10分ほどの距離にあった。昔ながらつくりの門をくぐり抜け玄関までくると陸が迎えてくれた。


「ごめん、突然に呼び出して」

「ううん、大丈夫。 今日は仕事も休みだったし暇してたから。

 それより、陸のほうこそバイト休みなの?」


リビングへと先を歩く陸は、少し口をつぼめた。


「今日は、体調不良なんで休み」


美鈴は苦笑いしてしまった。


「ズル休みか」

「体調不良だよ。 それより、これ見て」


陸は、リビングのソファに腰を下ろすと机の上に置いてあったしわくちゃの紙を美鈴の方に差し出した。それはメモ用紙ぐらいの小さな紙で黒のペンで走り書きの文字が書かれてあった。


 奥多摩 陶芸家 50~60


美鈴は、紙から陸に視線を戻すと陸が話し出した。


「裕助さんの部屋の机の下に落ちてたんだ。

今まで気が付かなかったんだけど、何か関係ないかな?」


陸の言葉に美鈴は首を傾げる。


「分からない。仕事のメモかな」


美鈴は小さくため息をつくと紙を机の上に置いた。


「私、裕助がしている事を本当に何も知らないんだよ。立ち入って聞くことはないし、交友関係もほとんど知らない。知っているのは共通の友達くらいかな?」


陸は口をへの字にする。


「俊さんは、まだ仕事から戻ってきてないの?」

「うん」

「そっか…」


陸はため息をつくと黙ってしまった。美鈴も紙を見つめたままでいた。


美鈴が加納俊になれなくなってしまったのも丁度裕助がいなくなった半年前であった。

すでに所属していた組織を抜け特殊な力を使う事もなかったので問題ないといえば問題ないのだが、何か自分が無防備になってしまった気がして不安な気持ちがあった。

しかし一番の不安理由は、今までいつもいてくれた裕助がいなくなってしまったという事なのかもしれなかった。


「なあ美鈴。 これから、ここに書いていある場所に行ってみない?」


突然の言葉に、陸の顔を見る。


「奥多摩なら電車かバスが走ってたよな。今から行けば昼過ぎには着くんじゃない?

少しでも手がかりになりそうだと思う事ならやってみよ、つーか行ってみよ。

今日明日と仕事休みなんだろう。泊まりになっても大丈夫だから今から用意して出掛けよう!」


陸は、名案を思いついたと言わんばかりに目を輝かし興奮している。

陸の勢いに美鈴は目を丸くしたまま頷いた。



駅に降り立った時は、すでに2時を過ぎていた。

二人は電車の中で話し合って決めた通り、観光センターに入ると年配の人の良さそうな女性に裕助が残したメモの情報を尋ねた。


「この町の陶芸家の事を調べているの?

そうねぇ…、教室を開いている人やお店を出している人なら分かるんだけど」

「分かるだけ、できるだけ知りたいんです! お願いします!」


女性は、陸の熱心な言葉に快くパンフレットをくれたり住所を調べてくれたおかげで二人の陶芸家と話すことができた。一人は、自宅に店を出している50代の男性であったのだが無口でこれといった話しは聞けなかった。それと対照的にもう一人は、教室を開いているお話好きの60代の女性であった。二人から訳を聞くと好奇心も勝ってか親身になっていろいろと教えてくれた。その話しの中で一人、気になる人物がいた。

 遠野とうの さとる

年齢は52歳で娘と二人で山に籠って陶芸をしていた。

そこに数か月前から一人の男性が住み込みで手伝いを始めたとの話しだった。

娘が通っている病院へその男性が一緒に来た事からちょっとした噂話になったようであった。



「明日は、まずそこへ行ってみよう」


旅館の蒲団の上で寝そべりながら陸は言った。

地図と時刻表を部屋の端に寄せた机の上に広げていた美鈴は陸の方を見た。


「そうだね。でもバスの本数が少ないから、この遠野さんの所に行ったらもうあまり回れないかもしれないね」


陸は、体を起こすと美鈴が見ていた地図を手に取る。


「本当だよな。もう少し本数あれば、今日行って戻って来れたのに5時最終じゃ無理だって。

バス停からも家が離れているし、家にいるかどうかも分からないんだもんなぁ。

せめて連絡が取れればいいのに、電話がないって一体どういう生活してんだろ」

「さて、どうなんだろうね」


美鈴は笑うと立ち上がった。


「もう電気消すよ。眠くなったよ」

「えー、マジ? まだ11時じゃん」

「はい、消灯」


陸の言葉は無視され電気は消された。


 

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