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最終話 君が残した宝モノ

7月最後の日。

夏真っ盛りだ。明日から、更に本格化する8月になると思うと、身体と気分が重くなる。


空を見上げた。


見事な快晴で、青い空が広がっていた。これを美しいと感じる人がいるかもしれないが、俺は違った。

憎たらしい。

この空を見て、沸いた感情。


普段は、クーラが聞いた快適な空間で仕事ーーーー普通に生活をする程度には売れているライトノベルライターとして原稿を打っているため、外に出歩く機会は少ない。

というか、出歩くというか、娘ーーーー奏絵が卒園してからめっきり外に出歩くことはなくなったな。

そんな快適空間で閉じこもり同等な生活を送る人間が、このどこまでつながっている感じがする空を見て、きれい。だなんて、思うはずない。


ただーーーー俺の性格がどんなにねじ曲がってしまっても、決して変わってないこと、忘れてないことがある。


それは、この夏の空は、あの時と同じ空。だということ。


どんなに年月日の時間が経って、あれから春夏秋冬の四季を何週繰り返したとしても、変わらない空。

そして、それを忘れないと決めたあのときから、忘れてない自分。


「周りは変わったかもしれないけど、空は変わらない」


周りは変わった。ように感じる。

例えば、駅の隣にできていた飲み屋。

坂の途中にあったコンビニ。

坂の終わりの交差点にあった銀行。とかーーー

この地域に住む人なら、それは小さな変化かもしれないが、ここに来るのが1ヶ月ぶりくらいの俺からしてみれば大きな変化。ように感じる。


「パパ、終わったよ」と、向こう側にいる彼女と話をしていた奏絵が言った。

「そうか。純礼……ママと話せたか?」と聴くと、奏絵は満面の笑みで「うん」と頷いた。


「今度は、パパの番だよ」

「そうだ」


今、俺たちの目の前にあるのは、仲波家之墓と文字が彫られている墓石。

そして、ここにーーーー彼女の母親と、彼女が眠っている。


今日は、彼女の月命日。


「今月も来たよ」と、片膝を付き、俺は向こう側に彼女に言う。

彼女からの答えはない。けど、俺の中に彼女の声が「偉いね」と答えてくれた。


「私、きっと、羽賀君のことを遙ちゃん以上に好きになってみせるから」


その声は、突然響いた。

彼女のでもなければ、奏絵のものでもない。

なら、どこからーーーーと、この墓の前の列に並んでるお墓の前にいる少年と少女が見えた。

たぶん、少女のだろう。

それにしても、ここでそんな告白をするとは。

びっくりだ。


俺は、奏絵の頭に手を置きーーーー


「俺は、君が残した宝モノとともに生きていく」


そう。

君とともにいた時、君がいた時間、君とともに作ってきたたくさんの思い出ーーーー


そして、何よりも君が残した宝モノ(僕と君との娘)と一緒に変わりゆく世界の中、変わっていく自分がいて、変わらない気持ちをもってーーーー


僕は生きていくよ。

見ている君に笑われないように。


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