守護霊(トーテム)について
天平のファンタジアは、登場人物がトーテムと呼ばれる守護霊を操ってバトルすることをテーマの一つとしています。
キャラクターとは別の存在が戦闘を繰り広げるものとしては、「ジョジョの奇妙な冒険」のスタンドが著名でしょうか。スタンドは、生命エネルギーが作り出すパワーある像と説明されているようです。つまり、術者自身の能力です。本作のトーテムは、術者自身の能力というより、術者に取り憑いた霊体の能力です。スタンドとトーテムは似たような挙動をしますが、その源泉はまったく違うものなので、まずはこの点を釈明させてください。
我が国の古典では、キャラクターとは独立しながらこれに従属する存在として「識神」または「式神」というのがあります。今昔物語集で安倍晴明が使役したりしています。トーテムは、このような式神でもありません。
その正体は、守護霊としか言い様がありません。祖霊です。仮に、天皇がトーテムを操ることができるのであれば、そのトーテムの正体は天照大神となります。折口信夫は「大嘗祭の本義」の中で「日本紀の敏達天皇の条を見ると、天皇霊といふ語が見えて居る。此は、天子様としての威力の根元の魂といふ事で、此魂を附けると、天子様としての威力が生ずる。」と述べています。また「天子様の御身体は、魂の容れ物である、と考へられて居た。天子様の御身体の事を、すめみまのみことと申し上げて居た。……此すめみまの命に、天皇霊が這入つて、そこで、天子様はえらい御方となられるのである」とも述べています。こういう天皇霊のようなものを実体化させ、バトルをさせたら面白いのではないかというのがトーテムの最初の発想です。
思えば、古事記でも日本書紀でも、そこで登場する神々のいくつかは、後の貴族の祖霊として位置づけられました。祖先の「霊」を、その「容れ物」である「身体」に取り込んで、族長としての「威力」を持つ、こういう「威力の根元の魂」という考え方は、何も天皇家だけの専売特許ではなく、古代日本の豪族たちが育んでいたひとつの宗教観であったと推測します。こうした祖霊は「威力」を持っています。そこで祖霊同士にこの「威力」を使ってバトルさせ、古代日本の宗教観に切り込んでいきたいというのが、私の野心であります。
こうした威力もつ祖霊にどのような名前を与えるか、苦労しました。Wikipedia日本語版(最終更新2022年4月4日01:32UTC)によれば、トーテムとは「特定の集団や人物、『部族』や『血縁(血統)』に宗教的に結び付けられた野生の動物や植物などの象徴」とのことです。フランス国立科学研究センターが提供する語彙集では「祖霊が生まれ変わり、家族、部族、民族の標章として機能する具象物であって、動物や植物、場合によっては、その他の物」という定義を与えているらしいです。そうだとすれば、術者の代わりに戦闘する存在としての祖霊は、「トーテム」という名前を与えるのが相応しいと思いました。
トーテムは、一族の崇拝によって祖霊の威力|(霊力)が高められます。そういう設定にしております。
ところで作中では、アスカが仏具を用いてトーテムを操っています。トーテムが一族の崇拝によって祖霊の威力を高めているのであれば、巨大宗教の神々もまた威力を持つのではないかという私独自の発想です。言うならば、神道的なトーテムは、一族が長い時間をかけて作り上げたものであり、仏教的なトーテムは、その時代の信者の数によって作り上げたものという違いがあります。ただし、その挙動に大きな違いが生じるとは考えておりません。