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幕間 伊藤家の食卓


「姉ちゃ……不良って小蒔さん以外に友達いるの?」


「は?」


 ある日の夕食時、すみれがひょんなことを聞いてきた。食卓にはご飯とみそ汁と冷しゃぶが人数分並んでいる。食事の時間はテレビはつけない。母が言うには「テレビに気を取られず私の作った料理を味わえ」とのことだった。私がご飯を作る側になったら同じことを思うのだろうか。

 作る側になるとは、家庭を築くということになるわけで。目下そういう相手はいないし、そもそも交友関係はとても狭い。赤羽以外に友達と呼べる人はいない。しかし、素直に認めるのは姉の威厳に関わる。


「私レベルになると釣り合う人間なんかそうそういないのよ」


「うわ、だっさ」


「あ?……そう言うアンタはどうなのよ」


 すると待ってましたと言わんばかりに菫の目がきらりと光る。


「今日エリちゃんと公園で遊んだんだけど、その時に一緒にいたエリちゃんのいとこと仲良くなって、ヨウカちゃんって言うんだけど、その子がもうお人形さんみたいに可愛くてぇ」


 菫は友達自慢をしたかっただけらしい。私の友達は今は赤羽ぐらいしか思い当たらないけど、昔は、というか中学ではサッカー部の仲間でワイワイしていた。だけど私の方がサッカーが上手いからという阿呆な理由で、彼女たちのことを甘く見ていて、結局は誰とも心を通わせることはできなかった。そしてその報いとして、それなりに嫌な思いをした。

 菫はあれこれと、今日出会ったばかりのヨウカちゃんを語っている。


「別に友達は数じゃないし」


「うちレベルになると、人気者すぎて辛いわー」


 菫も美空も学校では明るく誰とでも仲良くなれる子ですよと、この前の懇談会でそれぞれの担任が母に伝えたらしい。私と違って菫は同級生を見下したりなんかしていなければいいけど。


「ケイも昔は友達多かったのに、いつの間にこんな不良少女になったんでしょうね」


 母も菫に便乗してトホホとわざと悲しい顔を作る。父は困った顔をして、美空は母の顔芸にケラケラと笑っている。高校では気分を変えようと軽い気持ちで髪を染めたけど、我ながらけっこう気に入っている。だけど周りからは不評で、特に菫と母はずっと私を不良扱いする。


「別に赤羽がいるし。それに私は陸上部で真面目に走ってるんですけど!」


「……ねえケイ、陸上部は楽しい?」


 母の表情が、私をからかう物から、私を気遣う物へと柔らかく変化する。そして父も私を心配そうな目で見つめる。


「楽しいよ」


「それはなにより」


 両親の気遣いがこそばゆい。照れくさくて、自然とご飯を口に運ぶスピードが速くなった。



―――



 ベッドに寝転がり、さっきの母の言葉を思い出す。

 確かに陸上は楽しい。だけどそれはきっと赤羽ありきだ。赤羽が私を誘ってくれて、褒めてくれて、頼りにしてくれる。それがたまらなく心地いい。



『陸上部に!……来な、い?』

『呼び捨てでいーよ!見ててね!伊藤!』



 赤羽が私を必要としてくれたから、全くやったことのなかった陸上を始めた。



『脚の回転が速いし、腕の振りも真っすぐで全身をうまく使えてて素敵だよ』



 赤羽が褒めてくれるからリレーも頑張れた。リレーをすると、赤羽と対等になれた気がする。私の大す……にバトンを渡すことができて、とにかく、いい。



『………………ケイが悪いんだからね』



 赤羽も過去に何かあったことは、赤羽の姉への反応やノエルの態度で何となくわかる。多分赤羽の陸上生活の根幹に関わることだ。だけど私にはまだ向き合う勇気がなくて、ただ赤羽がキスで私を求めてくれることに甘えている。別に女同士だからという嫌悪感はなくて、むしろ気持ちいいなと感じる所もある。


「暑い、クーラーつけよ」


 最後の力を振り絞ってリモコンのスイッチを入れ、窓を閉める。

 明日は何の授業だっけかは忘れた。そんなことは置いておいて、明日の練習で自分が走るイメージを浮かべながら眠りにつく。


 陸上は楽しいよ、お母さん、お父さん、……赤羽。


第5章終了です。

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これからもこの作品と、そして2人を見守っていただけると嬉しいです。

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