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その5


 全部で5組あるうちの3組目でスタートした赤羽は、8人中5位でフィニッシュした。タイムで拾われるラインよりも0.4秒遅いだけだった。だけど、その0コンマ何秒かを縮めるには、一体どれぐらいかかるのだろう。


 地区予選では予選・準決・決勝のどれもいい順位だった赤羽が、あっけなく予選で敗退する。地区レベルでは、赤羽は身長が高い方だったし、素人目から見ても筋肉のハリが良くて、同じ種目に出る100人近い選手を「蹴散らす」オーラがあった。だけど、県大会に出る選手はみんな赤羽と同じように鍛え抜かれて、体が分厚い。あの中で私が走る姿は想像できなかった。赤羽だから、あの舞台に立てたんだ。


「赤羽、お疲れ様」


 予選敗退だったとしても、赤羽には胸を張ってほしい。私たちの代表として走り切ったのだから。


「……ケイ」


 だけど、遅れて陣地に戻ってきた赤羽の、いつもピンと伸ばしている背中は丸まっていた。口元を上げるだけの笑みを浮かべる。私を見た瞬間、目に涙が溜まっていくのがわかった。


「ごめん」


「あ、明日があるじゃん!それに、200mよりも100mの方が得意なんでしょ」


「それもあるけど……」


「だったら、今日はゆっくり休んで、それで明日に備えれば」


 うつむいて私の話を聞いていた赤羽は、カッと目を見開いて顔を上げ、私の両肩を力強く掴む。


「ケイに!情けないところを見せて、ごめんね」


 徐々に声も手の力も弱くなり、許してくれと言わんばかりの今にも泣きだしそうな顔をしている。まるで悪いことをしたのを謝ってくる子どものようだ。

 これまでの経験からして、赤羽は言葉で励ますよりも、行動で示した方が私の気持ちを伝えられる。

 人目は気になるけど、少しならいいか。

 赤羽の両手を払いのけて、今度は私の両手で、赤羽の後頭部を包む。すると、力を入れなくても赤羽の方から顔が近づいてくる。両目を閉じて、すっかりその気みたいだ。


「(チューではない!)」


 私はとっさに首を逸らして、赤羽の顔面は私の右の鎖骨にぶつかった。垂れてきた赤羽の髪の毛の隙間から右手を出して、よしよしと頭を撫でる。


「……ケイのケチ」


「それを言うぐらいの元気はあるみたいでよかった」


 ケラケラと笑って見せると赤羽も安心したようで、しばらくの間私の右肩に顔をうずめていた。



―――



 午後からは、昨日と同じく補助員の仕事をした。それなりにクタクタになって、昨日と同じ電車に乗って家に帰る。

 競技場は私たちの学区からすぐそばにあるから日帰りで行き来できるけど、県の北部の学校とかは泊りで来ているのだろうか。


「ケイ、明日は頑張るからね」


「うん、期待してる」


 最終日は、いよいよ赤羽と春香さんとノエルが出る100mがある。

 ノエルから聞く分には、赤羽は実力を出せば準決勝には行ける的な言い方だったけど、果たしてどうなるんだろう。

 明日のスケジュールはもう把握している。明日も朝一番で100mの予選だ。今日は昨日よりも早く寝よう。

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