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39 アルジーラ・ニアヴェルディー2

「セラク、あの魔族の名前は?」

「アルジーラさん。魔王ディアグレイの娘で、クレイの姉だ」

「なるほど、把握した。……おい、アルジーラとやら、何をそんなに驚いている?」

「何って……」


 アルジーラさんは困惑しながら、地下牢の床に突き刺さった槍を指さした。


「ラミス……だったかしら? あの槍、もし私が自分だけ飛び退いて避けていたら、その子に刺さっていたわよ」

「フッ、うちの弟は槍が刺さったくらいじゃ死なんよ」

「……え」


 普通に死にますけど……。

 しかもあなたの槍は特注のヤツじゃないですか。魔力を込めて本気で投げたら、床に刺さるどころか階下まで突き抜けるような代物だって以前自慢してたじゃないですか。

 この人、弟の身体をなんだと思っているんだ……。


「まあ、セラクならあれくらいは余裕で避けると踏んでの投擲だ。姉弟ゆえの信頼関係というやつだな」

「……そうなの? 弟さん、結構グロッキーだったけど……」

「はは、まさか。セラクが私以外に後れを取るはずがない」

「……いや、アルジーラさんが投げてくれなかったら姉さんの槍……刺さってたよ」

「……はぁ?」


 俺がそう言うと、ラミス姉さんはとても意外そうな顔をした。


「……なんだ、まさか本当に組み伏せられていたのか?」

「ああ」

「どうしてだ? 確かにヤツはそんじょそこらの魔族とは格が違うようだが、私の見立てではセラクと五分だぞ」

「それは贔屓目が過ぎる。俺とアルジーラさんじゃ三対七くらいの実力差があると思う」

「だがそれでも、あそこまで一方的に追い詰められるほどお前は弱くないだろう? 一体何があった?」

「え……ああ……」


 それを聞くのか。

 いや、聞くよな、普通は。


「まあその、色々あって……」

「それを言え」

「だから……えっと……」

「私が教えてあげましょうか?」


 と、割り込んでくるアルジーラさん。


「勘弁してください、本当に。血の繋がった姉の前なんですよ……」

「私が自分の服の裾をめくったら動きが鈍ったから、そこに蹴りをいれたの。普通に戦っても負けはしないけど、無駄に労力を使いたくはなかったから」

「…………」


 まるで俺の言葉が聞こえていないみたいにサラッと言った……。

 それを聞き「ふむ、なるほどな」とラミス姉さんは二やつきながら相槌を打った。


「そうか、セラクはそういうのが好きか。いやぁ、お姉ちゃんは普段着にスカートとかはあまり選ばないからなぁ。盲点だった」

「……そういうんじゃないって。思いがけない行動を取られて動揺しただけだ」

「フフ、まあいい。だったらお前はここにいろ。あいつはお姉ちゃんが一人で相手をする」


 そう言って、ラミス姉さんはアルジーラさんに向かって歩き出そうとする。


「待ってくれ姉さん。殺しちゃ駄目だ。その人は――」

「分かってるとも。上でエリティア嬢に会って話は聞いた。痛めつけはしない。ただ諫めるだけだ」

「姉さん……」

「そういうわけだから、お互い余計な怪我をしないで済むよう、おとなしくすると約束してくれると助かるんだが……どうだ?」


 ラミス姉さんにそんな言葉を投げかけられたアルジーラさんは、手を胸の前に構えながら言った。


「悪いけど断るわ。あなたまで私を止めようとするのなら――もうインフェルノを使うわよ。こんな牢獄、その気になれば焼き切って外に出られるんだから」

「まったく、聞き分けの無い奴だな。妹のためにそこまで取り乱すとは」

「大切な妹だもの。当たり前でしょ」

「ちょっとは落ち着けよ」

「弟さんに跨っていた私を見るなり槍を投げつけてきたラミスに言われたくはないわ」


 ……正論だなぁ。


「大切な弟だからな。当たり前だろ」


 しかもアルジーラさんと同じこと言ってるし……。


「ラミス、妹はいる?」

「いや、いないが」

「だから分からないのよ。助ける為になりふり構っていられなくなるあの可愛さが」

「……ほう。だったらなんだ? 貴様には可愛げのない弟がいるのか?」

「いいえ、私に弟はいないわ」

「だったら貴様に弟の良さが分かるはずもないだろう」

「なんにせよ、パンツに目を奪われるあなたの弟さんなんかより、私のクレイの方が崇高よ」

「……なんだと?」


 ……いや、どこに引っかかってるんだよ。


「一応、同性として忠告しておくが、下の子はよく自分を姉や兄と比べたがるものだ。努々気を付けろよ。頭の出来や性格はもちろん、姉妹の場合は身体のパーツも比較対象だ。もし、貴様が『お揃いよ』などとのたまって、妹と同じような服を着てその差をまじまじと見せつけているのなら、妹から密かに恨みをかっているかもしれんな」

「なっ……いえ、そんなはずは……」

「図星か? 『お姉ちゃん、お揃いの服はやめて』とか言われたこともあるんじゃないか? それをただ照れているだけだと思ったりしたならいよいよだな」

「ぐっ……!」

「ああ、さぞプライドを傷つけられているだろうなぁ。クレイちゃんとやらは」

「……私は今、人間と魔族の種族間の因縁とは別口で、あなたを倒したいと思っているわ。実物のクレイを見れば――ラミスも納得するでしょうから!」


 なんとも言い難い動機と共に、アルジーラさんは姉さんに飛びかかる。

 両者の拳が激突し、その距離が一気に縮まった。 


「フン、貴様のような妹に目がない奴に私が負けるはずがない。すぐにおとなしくさせてやる」

「それはどうかしら。あなたのような弟に固執している人間に私は倒せないわ」

「…………」


 ……いや。

 弟がどうだとか、妹がどうだとか言っているけど……。

 結局のところ、二人とも同じ「姉」だろうが!


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