38 アルジーラ・ニアヴェルディー1
――まったく、セラクに迫っていいのは私だけだというのに――
……と。
どうしようもなくぶっ飛んだ持論に基づいた怒りを訴えながら、ラミス姉さんは現れた。
鎧は着ておらずインナーのみの軽装。だが、いつも愛用している魔槍はしっかりとその右手に持っている。
「ラ、ラミス姉さん……!?」
どうして姉さんがこんなところに……いや、そりゃ王都にはいるだろうけど、この時間に起きていて、しかも城にいるというのは……。
「そこの魔族。今すぐセラクの上からどけ。さもないとその胸を削ぎ落すぞ」
アルジーラさんに向け、ラミス姉さんは忠告の形をした嫉妬をぶつける。
「……あなたもクレイがどこにいるか知っているの?」
「クレイ? 貴様が捜しているということは、それは先日まで捕まっていたという魔族のことか? だったら知らん」
「そう。それならあなたに用は無いわ」
「ふむ、そうか。……ただ、残念ながら私は貴様に用があるんだ」
「……互いの名前も知らないような、そんな初対面の相手に何の用?」
「端的に言うなら風紀の保持だ。一応名乗っておこうか――私はラミス・ラーミック」
言って、姉さんは槍を肩手で持ち――肩上で構える。
まるで、これから投擲でもするみたいに。
ま、まさか……。
「今、お前が襲っている男の姉だ」
そう言い終えると同時に投げた。
持っていた槍を、アルジーラさんに向かって思いっきり。
その着弾地点には俺もいるというのに、構わず投げた。
「……物騒ねぇ」
アルジーラさんは中腰になって俺の首元を掴み、そのまま俺をラミス姉さんの方へ放り投げながら、自分は跳躍して地下牢の奥へと下がった。
俺たちがいた場所の石の床をバキバキに砕き、細身の槍が突き刺さる。
「……うわ」
危ない……アルジーラさんが投げてくれなかったら死んでた……。
「いやぁ、それにしても久しぶりだな――セラク」
不甲斐なく足元へ転がって来た俺を、ラミス姉さんは仁王立ちで見下ろす。
「ああ、いや、久しぶりではないか。日中、エリティア嬢の護衛として来ていたな。だからまぁ、会話するのは久しぶり――といったところか」
「……なんだ、知ってたんだ」
「当然だ。今までエリティア嬢が護衛を付けることなんてなかったし、このタイミングで顔を隠した従者を雇うなんて不自然過ぎる。だから私はてっきり、セラクが『お姉ちゃん、僕は無事ですよ』と報告に来たのかと思ったぞ。エリティア嬢が健気に隠し通そうとするから見逃したが……そうじゃなかったらあの場で抱きしめるとこだった」
「…………」
一人称も三人称も違う……。
「僕」と自称したこともなければ「お姉ちゃん」と呼んだこともない。……まあ、子供の頃はそうだったかもしれないけど。
「……でもどうせ、姉さんはエリティアが一人で来てたとしても見抜いてたんだろ?」
「まあな。エリティア嬢以外に目撃者がいないのは信用に欠けるし、私の話術で問い詰めれば彼女はすぐに白状しただろう」
「今回の件で、俺が姉さんを欺ける可能性のあった手段は?」
「そんなものはない。私は端からお前が生きていると断定していた。私の弟が私以外に負けるはずがないんだからな」
「…………」
その手の発言の根拠は一体どこから来ているんだ……。
「……というか、姉さんはなんでここに?」
「フフ、愛する弟の貞操の危機ともなれば飛んで駆けつけるさ」
「どちらかというと命の危機だったけど……で、本当の理由は?」
「単純に、お前がここに来るだろうと思ったからだ」
姉さんは口角を上げて言った。
「エリティア嬢に魔力障壁のことを尋ねさせるということは、そのクレイとかいう魔族を匿っているんだろう? セラクがその子を王都から出す方法を探っているのなら、何か情報を求めてここにやってくるのは自明の理だ。……ただまあ、あの様子だとどうやらうまくはいっていないようだな」
と、ラミス姉さんは、先ほどから地下牢の奥で目を丸くしているアルジーラさんの方へ目を向けた。
やはり姉妹だけあって、驚いてる時の表情がクレイによく似ている。




