これから
「前を見据えた者は、どんな姿だって美しく、恰好いい・・・・・・私と違って」
星宮星雅
P2の本音を知り、自分が夫に邪魔者だと思われていないことを知ったサンビタリアだが、まだ全ての問題が解決した訳ではない。サンビタリアはもう一度自分に活を入れて、気を入れなおした。
「ぴぃつぅ様、ぴぃつぅ様の心遣いは嬉しいですが、今は黄金族の台頭している大変な時期です。どうかお気になさらず、私に出来ることがあるのであれば何でもおっしゃってください。」
『…本当に大丈夫なのか?』
「ええ、良縁に恵まれたおかげでどうにか。それに、夫婦は助け合うものでしょう?」
(不謹慎ではありますが、少しワクワクしますね!)
皇子とはお互いの立場もあってそういった助け合いの機会には恵まれなかったが、サンビタリアは恋人や夫と互いに支え合い、力を合わせるというシュチュエーションに憧れていた。
サンビタリア・ラックス・デ・カウ、17歳。本来ならまだまだ恋に恋するお年頃である。
『なら、端末の通話設定をスピーカーモードに切り替えて周りにも聞こえるようにしてくれ。ああ、耳に当てたままだと音が大きすぎるから気をつけろ?』
「…?はい。」
サンビタリアは不思議に思いながらもP2の指示に従い、耳から端末を離して設定をスピーカーモードに切り替え、サンビタリアは「スピーカーモードに出来ました。」と報告した。
『ありがとう。…レコメンド!話は聞いてたな?辞令だ!』
「はい!社長!何なりと!」
電話通信なのでP2には見えないが、レコメンドは反射的にビシッと敬礼の構えをとった。
その迅速な反応と綺麗な敬礼の見事なこと!サンビタリアとガーネットは関心の余り2人して拍手でレコメンドを称えていた。
『護衛任務と並行して、俺は一週間後に撤退した第二防衛隊の面々を連れて戻る!それまでにサンビタリア嬢がウチの入社試験を越えられるようサポートしろ!俺が戻り次第、黄金族対応の為に入社試験を行う!』
「まさか、嫁入りに来たお嬢様が就職活動をすることになるとは………大変なことになりましたね。」
電話が切れた後、ガーネットは頭を抱えながら愚痴を漏らした。
ガーネットの想定ならもっと夫婦らしい、こう「貴方、お茶が入りましたよ」「ああ、ありがとう」みたいな感じの関係性に成れるものだと思っていた。が、蓋を開けたら「就職しろ」である。夫婦らしさもあったものでは無い。
「まぁ、仕方ありませんよ。キチンと試験を通ってきた社員の方々を押しのけてお仕事を貰うのは申し訳がありませんし・・・・・・帰ってよかったかもしれません。」
サンビタリアの方は「これでよかった」とばかりに安心した顔を見せていた。が・・・
ドサリッ!と大きな音が鳴り、サンビタリアとガーネットが音のした方へと意識を向けると、レコメンドが大量の本やノートと机の上に乗せていた。
「先ずはどの部署の試験を受けるか決めるためにしりょうをあつめてきました。時間は有限ですので早速始めていきたいのですが・・・よろしいですか?」
長い夜はまだ始まったばかりだ。
「で?結局、何処の部署に就職するか決まったのかしら?言っておくけど、食堂のプリンセスの名は譲らないわよ?」
翌朝、サンビタリアはシフトの関係で今日は休みのサファイアと向むかいに座って話していた。
種族は違えど互いに元貴族の令嬢ということで、2人はよく話が合い、同族意識が働いたこともあって直ぐに距離は近づいた。元々、互いのことを知っていたお陰でもあるかもしれない。
「色々と資料を見せて貰ったのですが、「戦術書を百度読むよりも1度戦場を指揮せよ」の言葉に従い、それぞれの部署を見学させて頂こうかと思いまして・・・・・・御迷惑でしょうか?」
「そうねぇ・・・・・・社長が受け入れると言った以上、赤目製ではその言葉が何よりも優先されるから、面と向かって邪魔者扱いする人は居ないわ。でも・・・社長LOVE勢は内心面白くないでしょうね。」
サファイアは蒲焼きを箸で弄くって骨を取り除きながら答えた。
本日の朝食メニューは、ツインヘッドアナコンダの蒲焼きと甘さが特徴のアマメのポタージュスープそして茶碗1杯のご飯とササミサラダの定食である。
「社長LOVE勢?字面からしてP2殿に対して好意的なのは分かるが・・・?」
「・・・ゴクンッ!読んで字の通りですよ。社長に対して恋愛感情を隠さずに向けている人たちのことです。」
ガーネットの疑問にレコメンドが口の中の蒲焼きと米を呑み込んで答えた。
「P2殿が社員たちに慕われているのは知っていたが、そんな連中まで居るのか・・・」と、ガーネットは驚きを隠せずにポカンと口を開ける。
一方、サンビタリアの方は思わぬ恋敵の存在を知り、戦々恐々としていた。
「ああ、これが悲劇と言わずして何と言うの!?私とP2様の恋物語はまだまだ序章に過ぎないのに!」
「先輩、また室長が妄言吐き散らかしてます。」
「心配するな後輩、あの状態でも室長の手はちゃんと動いている」
資料編纂室、PCとプリンターが並んだこの部屋で室長を務めるシェヘラは仕事中に叫び始めた。
遥か東方にある砂の国の出身者であるシェヘラの肌は褐色に染まっており、黒いストレートの長髪の真上からはピョコンと犬の耳が生えていて、特注の穴が開いた紺のジーンズから伸びた尻尾はピンと真っすぐ天井を向き、星のような黄金の輝きを放つ瞳は決意の炎を燃やしていた。
資料編纂室の社員たちは叫ぶシェヘラを冷めた目で一瞥すると、またPCの画面に向き合った。
「そうだあぁ、例の女の正体を私が暴いてやればいいんですよ。裏の顔を捉えて、P2様の目を覚まさせてあげます。」
シェヘラ23歳、仕事場の社長に恋慕と信仰を一方的に向ける淑女?が動き出した。
「その為に、先ずは今日のお仕事を超特急ので終らせなければ・・・!」
・・・・・・・・・動き出すにはもう少し、時間が掛かりそうである。
人物情報記録 シェヘラ(第一項)
性別:女性 年齢:23歳
身長:165cm 体重;55kg
種族:アヌビスリア 所属:本社情報編纂室
元々は東方にある砂の国で実家の貸本屋を手伝っていたがとある病のために赤目製薬の支社で治療を受ける。その後、本人の希望により採用試験を行い合格したことで正式に入社した。
入社後は順調にキャリアアップを積み重ね、現在は先任の推薦もあって本社で情報編纂室室長を務める。