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第二面 : 武闘家 前編

前回までのあらすじ :


不動沢應之介が自宅リビングで昆虫食について研究を重ねていると突然呼び鈴が鳴りそこに現れたのは比名子という名前の義妹を名乗る美少女であり清楚で大人しい雰囲気だったのだが次の日になってみればなぜかツンデレ美少女に代わっておりイナゴやサナギをしこたま食わされたが逆に不味いオムライスをお見舞いしてやったところ何やかんやで彼女の秘密を知ることができこれから騒々しくも愉快な生活がはじまるのだとおもいきや今度は随分と暴力的な属性をまとった比名子に朝からコブラツイストを掛けられていた。

「起きろーーーーー!!! 早起きはサーモンの得だぜ!!!!!!!」


「三文の得だ」


 いよいよ左肩から先と胴体が分離しそうにだったのでギブアップの意思表示をしたのだが、一向に比名子(?)は離れようとしない。

 それにしても、こうしていると私の背中と比名子(?)の胸が密着して彼女の発育や体温がダイレクトに伝わってきてかなり困惑させられる。彼女は意外にもグラマーなようだった。


「兄貴!!!!」


「なんだ」


「兄貴兄貴兄貴兄貴……ん?」


 何かに気づいたように比名子が言葉を止めて、それから私を覗き込むようにした。


 長いまつげに飾られた綺麗な黒い両目が私を捉える。やはり、間違いなく比名子本人のようだ。『彼女』ではないのだろうが。

 今日はポニーテールだった。


「起きてるじゃねえか!」


「起きているぞ」


 ぱあっと晴れやかな表情を見せると、比名子はベッドのスプリングを利用して華麗なバック宙をして見せた。音もなく床に着地する。


「いい朝だな! 兄貴!」


「考え方にもよるな」


 彼女が勢いよく跳ねたせいで私はベッドから床に墜落したのだが、彼女のその笑顔を見ればこんな朝も悪くはないのかもしれなかった。


「ちゃっちゃと飯食ってトレーニングと行こうぜ! 時間がもったいねえ! タイム・イズ・マッスルだ! 今日明日も鍛錬あるのみ!!」


 そう言い残すと彼女はドアも閉めずに私の部屋を飛び出し、そして一階に続く階段の欄干を飛び越えた。


「なるほど」


 静かになった室内で私は少し考えてみた。今日のは一体どういう人格なのだろう。


「わからん」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「で、朝からステーキを1キロ食べさせられた上に家の近所を20キロ走らされたと」


「その通りだ」


 昼休み、小唄が心配そうに私の顔を覗き込む。


「顔色、土偶みたいになってるけど」


「お前が五人いるように見える」


 20キロ走らされている間に比名子の方は数回私を抜き去っているから、単純に考えれば私の数倍は走っていることになる。朝からフルマラソンとは脱帽だ。


「今日のはどういう人格なのだろうか」


 生憎こういう事には疎いので小唄に知恵を借りるしかない。


「う~ん……その話を聞いただけじゃわからないなあ。あえて言うなら、元気っ娘?」


「ちょっと元気すぎる」


「でも、その人格のことをよく知らないと『納得』の糸口はつかめないかも」


「…………」


 比名子の『秘密』について、小唄には伝えてある。私だけでは限界があるので、昨晩、『ツンデレ』の比名子に対して、信頼できる親友であり女性でもある小唄の助力を得てもいいかと尋ねたところ、快諾されたのだ。


「いくつ人格があるかって、ツンデレちゃんには聞いてるの?」


「百はあるようだ」


「これはこれは……」


 小唄は苦い表情だ。


「大変そうだね、お互い」


「しかし、そのうちのすべてが『我が強い』わけではないらしい。『ツンデレ』の比名子のような、他の人格からの信頼が篤い人格を納得させれば、案外苦労はしないかもしれない」


「今日の比名子ちゃんはどうなの」


「肉体的にはかなり強靭だが、わからん」


「どうあれ、もう少しコミュニケーションをとるべきだね」


「そうだな」


 放課後、また比名子と会話してみよう。朝は勢いに押されて引きずり回されてしまったが、夕方になれば少しは落ち着くだろう。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 放課後、比名子の所属してる一年E組へ向かうと、なぜだか教室にはほとんど人がいなかった。

 教室の中を覗いていると、眼鏡を掛けた小柄な一年生の女生徒がとことこと私のほうへやってきた。


「どうかしましたか、先輩?」


「不動沢比名子はいるか」


「え、もしかして挑戦者の方ですか!?!?!?!?!?」


「挑戦者?」


「知らないんですか!?」


 驚きに目を丸くすると、女生徒は私の制服の袖を掴んでぐいぐいと引っ張った。


「今から道場へ行きましょう! すぐに!」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「甘い!! 甘すぎるぜ!!!! このガッコーにゃこんなのしかいねえのかよ!!!」


 柔道部の主将を畳に沈めると、比名子は快哉の声を上げた。

 それに呼応するように道場内に集まった大量の観衆が黄色い歓声を響かせる。


「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」

「比名子ちゃあああぁぁぁぁああああああああああああああああんんん!!!」

「かっこよすぎるぜぇえええええええええええええええええええ!!!!」

「やっちゃえぇぇえええええぇぇぇぇぇ!!」



「なるほど」


 道場の隅で私は呟いた。


「昨日まで面倒見のいいお姉さんみたいな感じだったのに、今日は急にあんな感じになってたんです!」


 小柄な後輩は私のそばで興奮気味にそう言った。


「もう強くてかっこよくて、一年生は男子も女子も比名子ちゃんにゾッコンなんですよぅ!」


 比名子が学校で上手くやれているようで大変安心だった。


「で、比名子ちゃん、この高校で一番強いやつは誰だって、武道系の部活に殴り込みにいったんですよ。それでもう、あっという間に百人抜き!!」


「なぜだ」


「さあ? 『あいつを守れるやつはどこにいる!』とか言ってましたけど、よく意味はわかりません。でもかっこいいから関係ないんです!」


 私は気を引き締めた。


 この武神のような比名子が言う『あいつ』というのは、きっと『彼女』――比名子の基本人格のことだろう。『ツンデレ』の比名子が求めたのが包容力や善良さだとしたら、この比名子が求めるのはきっと肉体面の強さに違いない。


 であればこうして拱手傍観してはおられない。


 彼女を守るのは私だ。そう約束したのだ。


「次はどいつだぁ? 束でかかってきてもいいぜ!」


「俺だ」


 私は立ち上がった。

 道場中の視線が私に注がれる。


「あ、あれもしかして二年生の不動沢先輩じゃねえか?」

「熊を睨み殺したっていうあの!?」

「UFOでフリスビーしてたっていうあの!?」

「地球を自転させてる原動力って噂されてるあの!?」

「つーか、不動沢って、比名子ちゃんと同じ苗字じゃねえか??」

「すげえ! 遠凪高校二大巨頭の激突じゃねえか!!!!」

「いけえええええええええええええ!!!! 


 なにやらあらぬ噂が校内で流れているようだが、特には気にしないことにした。


「へっ……まさか兄貴がそんな最強野郎だったとはな……」


 なぜか嬉しそうに鼻の下をこする比名子だった。


「いや全部嘘だ」


「照れなくたっていいじゃねえか」


 スッとファイティングポーズを取ると、比名子はこちらを誘うように手招きした。


「いくぜ兄貴」


 私も両手で拳を握り、腰を落とした。

 いくら格闘娘だとはいえ、比名子は女子だ。生まれつき体格の大きい私と比べれば二回り以上も体が小さい。ここは少し手加減しておかないと彼女にけがをさせてしまうかもしれない。そうしたら『彼女』に対して申し訳ない。


 やさしく戦おう。



「とぅッ!」



 比名子が飛びかかって来る。



「……」



 兄の強さに驚き、そして安心するがいい。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~





 気が付けば病院だった。


 医者によると全治二週間だそうだ。

次回、特訓パート

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