八甲田山という、ノンフィクションで見る「死」について
八甲田山という作品をずっと前にWOWOWで視聴した。
2つの行軍が日露戦争に向けて、寒いロシアの地に備え雪山で訓練をするというもの。
高倉健が率いる行軍はきちんとした準備がなされていたので、特に大きな問題はなく訓練は終了。一方でもう1つの行軍(青森第5連隊)はあろうことかピクニック気分で雪山に挑んだため、遭難に見舞われることになる。この作品の教訓は「リーダーはしっかり状況を把握すべし」という事だろう。
私はあまりノンフィクション作品を見ないのだが、これだけは何故か強く脳裏に焼き付いている。もう、死に方がとにかくリアルなんですよ。寒さに耐えかねて気が狂い、自分から雪山に飛び込んだり、裸になったり…。なぜ寒いのにわざわざ服を脱ぐんだと思うかもしれないが、凍死する瞬間は"寒くない"らしい。感覚器官が狂ってしまう影響で「暑い!」と感じるのだ。人間の能力の限界をひしひしと感じさせられ、さらに人間が死ぬ瞬間をこれでもか!と言うくらいに見せるわけです。
死ぬ瞬間はよくフィクションである「後は任せた!」とか「○○によろしく」と言い残して眠るように死ぬ、なんて綺麗なもんじゃあない。そこが「フィクションとノンフィクションの壁」なんですよね。小便をしようとしたらちんちんが凍りついてショック死するシーンは(言っちゃ悪いが)カッコ悪すぎる死だし、さらにその「カッコ悪さ」がまたリアルなんですよ。
「こんな死に方なんて…」というショックを受けたのは軍隊だけじゃなく、私たち視聴者にも言えることなのだ。だからこそ、インパクトが強い。死ぬ瞬間を決して美化しない、出来うる限り史実に基づいて描かれている。小便死のシーンは「いつ、どんな死に方をするか分からない恐怖」の象徴とも考えられる。
もしかしたら明日、外へ出かける際に交通事故で顔面がわからなくなるほどになってあられもない姿で葬式を迎えることになるかもしれない。また、火事に巻き込まれて全身焼かれて死ぬ可能性もある。誰かに滅多刺しされて全身から血を吹き出して死ぬこともある。「カッコ悪い死に方」とは言ったが、ノンフィクションならばそんな死に方など"普通"なのかもしれない。
さらに面白いのが「戦時中が舞台の作品」でありながら死因が「戦死」ではなく「訓練中の遭難」という所。つまり死んだ人間は全員"自滅"ってことになるのだ。永遠の0で描かれた神風特攻隊は自滅は自滅でも、「敵」との戦いの中での死なので、意味は違ってくる。こちらは「敵」すら居ないのである。雪山が敵だったという言い方もできるが、軍隊が全滅した原因は「隊長の計画性のなさ」だったので、結局は「敵すら居ない状況で死んだ」という事になるのだ。
そりゃあノンフィクションとは言え、映画なので少しは脚色されてるところもあるだろうけど、それでもあの軍隊たちの死に方は「本物」だと思えてならない。ホラー映画やゾンビ映画のような死に方とは一味違っている。本当に「突然の死」が何の脈絡もなくやってくる。普通だと思ってた人間がいきなり叫び出して雪山にダイブをして死んでしまうのだ。
私はあれほどまでにリアルな死に方を見たことがない。
毎日更新宣言したのに、昨日はつい忘れてしまった。いかんいかん。