第59夜(学園編) 三者三様、四角関係
前回のあらすじ
ユリアさん、ストレスフル。
魔法専攻と騎士専攻の合同実習は、五日に渡る、所謂、強化合宿だ。現代の学校行事で言う、林間学校的なものだが、その趣きは実に実践的。
モンスターを倒すのである。
フローレンス内で言うモンスターというと、ゴブリン、スライム、ウォーウルフ、ドラウサギ、マントルモグラだとかいう辺境伯領では初心者が倒すようなモンスターを示す事が多い。たまにオークといったそこそこの強さを誇る個体もいるが、基本、無害だ。
何故、こんなモンスターしかいないのかというと、フローレンスでは長い間、城壁に囲まれていたせいで、モンスターの脅威はその歴史の中で薄れて行き、繁殖力が強い個体のみがその城壁の中に残った。強いモンスターは皆、倒されたのである。
故に。
モンスターを倒すというのも、実践で剣や魔法の腕を磨く練習台という意味合いが強い。辺境伯領のように生活の為に狩りをする必要が無い為、練習台に殺すだけの研鑽、もしくは、娯楽になってしまっているのだ。
だから、この実習もモンスターを練習台に、ちょっとハラハラドキドキする娯楽も兼ねて、研鑽する為にある。
命や金の為ではなく、自分の為に他者の命を奪う。
果たしてこれが倫理的にどうなのか、ということはさておき。
その実習が決まってからのシヴァリエは学園入ってから一番の機嫌の良さだった。
気分は有頂天、足は今にスキップしそうである。
フィンも訝しむレベルの機嫌の良さだったが、フィンにもシヴァリエは何故こんなに機嫌が良いのか言わなかった。
まあ、言えたものでもない。
なんてたって、妹であるユリアと同じ班になったのである。
名乗れなくても、彼女と話せるチャンスであることも然る事乍ら、彼女に近づけるチャンスでもある。友達になってしまおうかな?シヴァリエの楽しみは尽きない。
学校行事最高!五日間はユリアと一緒に居られるし、近づいても問題が無い。あ、そうだ!ユリアは超いい子だし、フィンにも紹介しようかな?
と、待てよ。
そこでふとシヴァリエは思い出した。
‥‥そう言えば、未だに王子とお近づきになりたいとかユリアは思っているのだろうか?
あの王子と?
あ・の・王子と?
思い出されるは先日の数々。あんな王子とユリアが夫婦になったら、ユリアが苦労すること間違い無しなエピソードの数々。
いけない。
シヴァリエはピンと来た。
同じ班である以上、8年前と同じ夢をユリアが持っていた場合、ユリアが王子に近づくこと間違い無し。そして、おだてられるのに弱く、ご機嫌取りも真に受ける王子が、ユリアに気を許すのも間違い無し。そして、王子の本性を知らない可哀想なユリアは結婚してから王子の本質を知って苦労することになるだろう。ダメだ。それはいけない。かなりダメだ。
「‥‥ユリアの幸せは私が守る‥‥!!」
王子があの可愛いユリアを好きになってしまう可能性もある。王子とユリアが仲良くならないようにしなければ!もう王子の吐息でさえもユリアには近づけさせない。決めた。
あの王子はYESダメ男。ユリアにはもっとふさわしい男がいるはずだ。彼女を優しく愛して、献身的に支えてくれる人とか!
だが、そんな人はまだユリアの近くにはいない。この五日間、そのユリアを守れるのはシヴァリエだけなのである。
シヴァリエは(本当に要らないお節介すぎる)決意をした。
一方。
フィンはため息を吐いていた。
考えるのは同じ班になったヒロインと攻略対象である王子である。
絶対これ、ゲームの序盤にあるイベントだよね?
他に関わっている攻略対象が居らず、攻略対象である王子の中でヒロインに対する好感度が低い場合のみ発生する、強制好感度上げイベント。
ヒロインであるユリアがあれだけ誰とも関わらなければ起こるのも仕方が無い。だとしても、この乙女ゲームをクソゲーと呼んでいたフィンにとって憂鬱で仕方がない。あのシーンを生で見ることになるのか俺は?と先程からため息が止まらない。
何故かシヴァリエが妙に機嫌が良く、実習を楽しみにしているが、フィンとしてはどうにかしてでもこのイベントから逃げたい。
しかし。
「フィン!(貴方にユリアを紹介したいので)一緒の班で良かったです!!」
とか、男の体だけど、あの憧れのアイドルにそう言われてしまっては行かないという選択肢は無いのである。折角、クラス内一番の友達ぐらいの好感度を得たのである。無下にしたくない。それに個人的にシヴァリエという人物をフィンは人としてかなり好いているのだ。なかなか二人居てあそこまで居心地の良い人間もいない。
「‥‥ま、シヴァリエの側にいて、あの二人から距離を取れば、万事平和だろう。」
そう、フィンは致命的な迄にのんきに構えた。
同じ頃。
ミカエラはシヴァリエと同じ班になったことにほくそ笑んでいた。
全てはそう。
計画通り。
先日の一件からシヴァリエを完全に怒らせた王子だが、どうにかして仲を深めて彼と手合わせする機会が欲しかった。
自身を強くする為にも、クラスの中では抜きん出た実力を持つシヴァリエと何度か手合わせして、技術を磨きたい。そうして彼より強くなりたい。強くなる秘訣も聞きたいし、何だったら練習方法も聞きたい。
しかし、悲しいことに自分が愚かだったせいで、怒らせた上に、あれからあからさまに避けられるようになった。貴方と話すことは無いとばかりに。
そこでシヴァリエと仲の良いフィンに仲立ちを頼んだのだが。
「‥‥貴方、人に頼むにしても注文多すぎだろ?自分でそのぐらいしたら?」
と一蹴されてしまった。
ただ自分が最もシヴァリエの剣の凄さを知っているだとか、そんなに頑なに俺を無視しないでいいだろう?とか、俺を強くするためにどうか手合わせして欲しいとか‥‥あと10個ほどの伝言と仲介を頼んだだけだというのに。今まで友人は全て快く引き受けてくれたことを彼は断った。フィンもなかなかに狭い心の持ち主のようだ。いつの間にか彼からも距離を置かれるようになってしまった。
しかし、この五日間の実習なら確実に彼と話す機会や手合わせをお願いできるチャンスは出てくる。
魔法専攻の彼等には悪いが、俺は交渉がしたいのである。
アルフレッドに毎日のように鍛錬してもらっているが、やはりどうしてもシヴァリエの剣を見た後では、シヴァリエの一度体感して吸収したいのだ。
その為の五日間といって過言ではない。
ミカエラの瞳には闘志が宿る。
この実習は彼にとって死活問題も帯びているような気がした。
「待ってろよ!シヴァリエ!!」
ミカエラは来たるその日に息巻いた。
またまた別の場所。
スフィア・カルマンは悩んでいた。
ユリアが攻略対象と絡まないのである。
いや、まず学園にいる攻略対象が今のところ王子だけというのがそもそもの問題なのだが。
それとはまた別に、それとなくゲームのスフィアの真似をしてユリアに近づいてみれば、彼女に誰かと恋をする意思がないことが判明し、ゲームの展開を事細かに記憶しているスフィアにとってかなりショックだった。
とにかく、スフィアは緊急的にゲーム内での序盤にある、あの強制イベントが起こる状況をあの手この手で作った。さらに、それとなく手を回して、彼らがゲームのように恋に落ちるよう、二人きりする計画も練った。
ここがあのゲームと同じならば、二人きりにするだけでイベントは起こるだろう。
スフィアはフローレンスの将来を憂うがあまりとはいえ、ここまで踏み込んだ計画を立てなければならない事態に眉間を抑える。
しかし、まだ苦悩するには早い。希望はあるのだ。
ブーゲンビリア学園にいなかったあの攻略対象。ラキシスという子爵の子息になる筈だった彼。
スフィアの手元には彼からの書状がある。
その書状にスフィアは微笑んだ。




