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第56夜(学園編) レーヴェンス

前回のあらすじ


シヴァリエ、鬼と出会う。

 









 それから更に数日後のことだった。


 詫び、という名目で明連に呼ばれたのは、学園の近くにある、そこそこに良いレストランだった。メニュー表に値段が載っていないある意味怖い店である。

 あの後、書状が届き、指定されたこの店で話そうと言う話になったのだ。

 実を言うと明連から書状が来た時、また鍛錬しないか?と言われるんじゃないかとシヴァリエは恐々していたのだが、それを見越したように、する予定は無いと書状に書かれていた。良かった。また、死にかけたくないのだ。シヴァリエの中であの模擬戦はすっかりトラウマと化していた。



 店につくと、個室に案内された。

 6畳ほどの広さのそこには薔薇が部屋の四隅に飾られ、その真ん中に真っ白なクロスのかかった二人がけのテーブル、そんなテーブルを囲む猫足の椅子が2脚ある。

 そして、そこに既にその人は来ていた。

 「久しぶりだな。この前は巻き込んですまなかった。」

 その明連と目を合わせた瞬間、シヴァリエは緊張する。どうもこの人の前に立つと、自分のような人間が面と向かって話していいのか?と萎縮する気持ちが出てくる。それほどまでにこの人は存在自体が圧倒的だ。

 「‥‥お久しぶりです。」

 明連に促されてシヴァリエは席につく。

 すると店のメイドが待っていたかのようにメニュー表をシヴァリエの前に置いた。明連が言う。

 「まあ、好きなの頼め。遠慮するな。何だったら全メニュー、一品ずつ頼んでも構わないぞ。」

 明連は実に気軽にそういうが、値段を一切書かない店でそんな暴挙する度胸はシヴァリエにはない。

 とりあえず、昼時でもあったので紅茶と軽食、持ち帰りでケーキを2つ頼んだ。フィンへの治療室に連れてって貰ったお礼と迷惑料である。


 実は。

 治療室に運んで貰ってる途中で、一瞬魔法がとけかけて身体が女性に戻ってしまい、服のサイズのせいであわやシヴァリエは廊下の真ん中で服がはだけるところだったのだ。一部始終を目撃したフィンには申し訳ないことした。あの後、フィンはショックで壁に激突でもしたのか、鼻血がしばらく止まらなかったのだ。



 その時を思い出してシヴァリエはため息を吐きたくなったが、明連の前なのでガマンした。

 やがて、紅茶が運ばれ、明連の前には食前酒で飲むような軽めのワインが運ばれてきた。

 メイドもいなくなり、完全に部屋に二人だけとなるとシヴァリエに明連は質問をした。

 「さて、ずっと聞きたかったんだが。お前の剣、レーヴェンス流だろう?」

 「レーヴェンス流?」

 突如出たその言葉にシヴァリエは首を傾げる。そう言えば、模擬戦の前にも言っていた。剣技、流派に興味があると。

 明連は首を傾げるシヴァリエに「この分だと知らないようだな。」と苦笑した。

 「一度、その剣を教えた人間に聞いてみるといい。過去の栄光に胸を張っているなら、すんなりこの名前を言うだろう。

 お前の剣を見た時、まさかこのフローレンスでその流派を継ぐ人間がいたとは驚いてね。思わず、話してみたいと思って、この場を設けてしまった。」

 「過去の栄光‥‥?」

 「‥‥ああ。お前はその身についた剣技に胸を張るといい。」


 ややあって明連は実に誇らしげにこちらを真っ直ぐ見つめながら言った。



 「レーヴェンス流派‥‥その祖たる者はかつて魔王を倒した剣士だ。」










 魔王‥‥。

 その名を聞いてシヴァリエはふとまだローザレンスの家にいた頃に読んでいた勇者と魔王の話を思い出した。どういう内容だったか思い出せないが、こんなファンタジーな本があるのかとワクワクしながら読んだ記憶がある。

 辺境伯領の本棚にはそんな本無かった。だが、今、レーヴェンス、魔王と来て思い出したことがある。

 ハルトの執務室には色んな国の歴史書が置かれている。‥‥その本の中にレーヴェンス家という貴族がいなかっただろうか?

 思案するシヴァリエに明連は答えを明示するように話し出した。

 「フローレンスでは滅多に聞かない話だ。分からなくても仕方が無い。魔王という存在はフローレンスの中では否定されている。何せ、歴史書を改竄して当時のことを無かったことにするぐらいだからな。」

 「‥‥どういうことですか?」

 明連は実に穏やかに語る。



 「‥‥フローレンスという国が生まれる前にこの土地には全く別のフローレンスという名前の人間の国があった、ということだ。」




 周辺国とフローレンスの若い世代は今も昔も人間の国はフローレンスというこの国一つだけだと思っているが、実はそうではない。旧フローレンスとも言える、今のフローレンスとは全く異なる国があった。同じフローレンスという名前だが、支配体制や文化は完全に別物の国。便宜上、故国と呼ばれるフローレンスがあった。

 今のフローレンスは国王も含め、その存在全てを否定している国だ。

 千何百年程前の話である。

 故国は今の国王や貴族と血筋の意味でも存在の意味でも全く異なる王と貴族によって統治され、豊かな土地と恵みを背景に平和に暮らしていた。そして、今とは違い、異種族と積極的に交流し貿易していた。


 だが。当時の故国は完全なる独立国家ではなかった。


 「当時、世界は1つの国とも呼べた。魔王という存在が世界全てを管理していたからな。魔王は世界に住む全ての種族をその傘下に入れ、全ての土地をその手に収めていた。だから、故国は貿易するにも開墾するにも‥‥何をするにも魔王の許可がいた。世界の全ては魔王のものだからな。」


 しかし、だからといって魔王に対して故国は何の恨みも無かった。理不尽なことを命じられたり、臣民を侵害されるようなことも無く、貿易も開拓も許可すれば、すんなり許可されて保障された。

 魔王に従っていても特に悪いことは無かったのである。

 だから、故国と魔王は長いこと友好関係を築いていた。




 だが。




 「 魔王を疎ましく思い、異種族を毛嫌いする連中が現れ始めたのさ。」

 「‥‥何故ですか?」

 「宗教、だよ。」

 故国の国内での話だ。

 人間達の間で俄に流行り出したその宗教。聖女と呼ばれる人間を中心に異種族は悪魔だと、魔王は世界に穢れを齎す存在だと触れ込み回り、故国が取り締まり、圧力を加えても信者を増やし、やがて故国のあちこちで暴動を起こし始め、異種族を惨殺するようになった。

 平和だった故国はいきなり大きなガンを抱えることになったのである。

 そして、とうとう。


 「魔王に、その宗教団体は故国の名を騙り、宣戦布告をした。」


 故国にとって見れば、寝耳に水の話だった。宗教の取り締まりに慌て、彼らの凶行に辟易していたのに、魔王に宣戦布告したことに国際社会ではなっていたのだから。

 このままでは国が潰される。

 彼らは慌てた。弁明の為に奔走した‥‥その隙に宗教団体からクーデターを起こされたり、暗殺者を仕向けられても、市民の為、故国の王や貴族は必死になっていた。


 しかし、悪いことは重なる。


 その宗教団体は信者を束ねて、魔王に仕えていた重臣を1人、奇襲して殺したのである。

 これを軍事挑発行動と見て、魔王軍、つまり、人間という種族以外の異種族全員から故国は攻められる事となった。

 勝ち目は当然無い。

 故国の王と貴族は苦悩の末に自分達の支援者や支持者、農民や女、子どもを連れて逃げ、自領を宗教団体に明け渡すことを決意、自分達は逃亡する事に決めた。

 懇意にしていた異種族の当主や頭領に頼み込んで逃亡を手伝って貰い、フローレンスの全てを放棄した。

 戦場となり荒れゆく自国を見ながら、フローレンスの北にある険しくそそり立つ山々を危険を犯してまで乗り越え、酷く痩せた土地が広がる北方の地への過酷な逃亡。途中、宗教団体によって家族が惨殺され人間を恨む連中に襲われたり、食糧が尽きたり‥‥寒さに死んでしまったり、筆舌に尽くし難いほどの残酷で希望のない逃避行。

 更にそこに。

 「その道中で出会ってしまったのさ。‥‥魔王軍の本隊‥‥つまり、魔王その本人と鉢合わせしてしまった。」

 「‥‥。」

 「恐らく逃亡を手伝った異種族の中に裏切り者がいた。おかげで彼らの命は風前の灯。まさに絶体絶命だったというわけだ。」



 故国の王は自分の命を差し出して、逃亡する仲間達の助命を嘆願した。

 しかし、魔王は許さなかった。いや、正確には許せなかったのだろう。あの故国にいた宗教団体は異種族というだけで仲間や自身の国民を殺しすぎている。あの者達を野放しにした王やその国の者達を許すということは、殺された仲間の無念を無為にする行為。許せる筈がなかった。


 「‥‥しかし、魔王にも情はあった。魔王は果し合いよる決着を申し出た。」

 「果し合い?え?魔王自ら死ぬまで戦うと‥‥?」

 「当時の文化だ。双方の意見がまとまらないなら、どちらかが死ぬまで果し合いをして決める。」

 「‥‥つまり。魔王は王同士の果し合いによって事態の解決を試みたんですね?」

 「そうだ。誰も魔王の敗北なんぞ思っていなかったから、反対の声も無かった。‥‥それに長らくの逃避行で足を悪くした故国の王の代理として果し合いに参加することになった剣士が‥‥まだ20なりたての若者だったのだから。」



 その青年の名前は後世に伝わっていない。

 ただ故国の貴族、レーヴェンス家の人間だったと伝わる。

 更にその青年と魔王の戦いの詳細もまた後世には伝わっていない。ただ熾烈で三日三晩に渡る超絶なものになり、一瞬で終わると考えていた魔王軍も故国の逃亡者達もその三日三晩眠ることすらできなかったと伝わっている。


 そして、三日三晩が明け、青年が魔王を討ち果たした。


 よって、故国の逃亡民は全員の命が保障され、命を差し出そうとした国王も赦免された。こうして全員、魔王軍から逃げ延びることが出来た。

 青年はまさに彼らのヒーローとなり、魔王軍からも一目置かれた。




 「魔王はどうなったのですか?」

 「さあな。そこは俺も知らない。何しろ、青年によって魔王軍はトップを失ったのに、故国の連中を見逃した後、喪に伏すことなく最初からその予定だったように宗教団体と戦争している。

 ‥‥まあ、魔王というぐらいの存在だ。若しかしたら、死んでも蘇る存在なのかもしれない。」

 「‥‥。」

 「とにかくこの世界に魔王を倒した人間が現れたことで大混乱に陥った。魔王軍は慌てなかったが、他の異種族からしたら金槌で頭を叩かれるぐらいのショックだ。戦争の士気まで下がる事態になり戦争は頓着状態に移行。異種族排斥に盛り上がる宗教団体は自分達が彼らを過酷な事態に追いやったにも関わらず、青年を勝手に英雄に仕立てあげて美談化させ、異種族とは逆に士気が上がりまくった。」




 そして、宗教団体は故国領地を覆うように城壁を作り、士気爆上がりに任せて周辺諸国と対戦し、孤軍奮闘ながら休戦に持ち込んだ。その上で断交を決行し、故国亡き国に新しい国を作った。

 そう、これが今のフローレンスである。

 建国したフローレンスは故国の存在を歴史からも人々からも消し、かつて魔王に従っていた事実も当然抹消した。だが、魔王と青年の話は美化と湾曲と捏造と誇張を混ぜて、勇者と魔王の物語として後世に残ることとなった。


 一方。


 故国の逃亡者達は北の大地の獣人の国に近い場所に小さな村を作ってほそぼそと暮らす事になる。豊かな実りも贅沢もない暮らしだが、青年が魔王に勝ったことで誰にも脅かされない生活を保障された。

 しかし、そこにその青年はいない。

 彼は自分の剣技に自身の家名であるレーヴェンスという名前をつけ、レーヴェンス流という剣術を作った。そして、世界各国を放浪し、剣一つで生きていくことにしたという。



 「‥‥だから、最初、お前の剣の持ち方といい、切り返し方といい内心、驚いたものさ。このフローレンスでまさかレーヴェンス流の剣技を見るとは思わなかった。レーヴェンス流は断つことを特徴する。故にその剣筋は他の流派と全く違い、一発でそれと分かる唯一無二の剣技だ。」

 「‥‥そうだったんですね。」

 「因みに聞きたい。誰にそれは教わったんだ?」

 「兄様‥‥私の兄であるハルト・マイネスです。」

 その名前を聞いて、明連は一瞬、目を見開く。

 「そうか。マイネス伯か。確かに辺境伯領なら有り得るか‥‥。」

 「?」

 そして、何事も無かったかのように微笑んだ。

 「すまんな。長話に付き合わせて。」

 それにシヴァリエは首を横に振った。

 「いえ、興味深いお話でした。‥‥ところでなんですけど。」

 先程からシヴァリエは気になっていたことを聞いた。

 「どうした?」

 「どうしてヘツギショウ様はそんな事を知っているんですか?」

 それに明連は何でもないように話した。

「‥‥ああ、俺はうちの実家が追放同然にフローレンスから放り出された時、そこの村に世話になったんだ。だから、知ってる。」

「追放同然?」

「‥‥まあ、その件は置いておこう。しかし、それにしてもシヴァリエ公は興味が尽きないな。」

「?」

 緩やかにワイングラスを傾け飲むと、明連は言った。

「レーヴェンス流は相当、剣に通じている者でなければ、ついていけない。マイネス伯の教え方が良いのか分からないが、この前の模擬戦を見るにその歳でよくあそこまで扱えるものだ。今まで何回かレーヴェンス流を極めている者に出会ってきたがお前程出来ている人間は初めてだよ。‥‥まるで創始者自らがお前に教えたようにある。」

「‥‥ヘツギショウ様?」

「ああ、悪い。騎士団長代理だが厳密には俺は騎士ではないんだ。どちらかと言えば相手の力量を測る方が好きでね。文官気質なんだ。剣は戦うのも見極めるのも好きで個人的に趣味で色々と調べてしまう。分析マニアという奴だ。」

 明連はそう自身のことを説明すると、シヴァリエに手を差し出した。

「!」

「これからもよろしく。将来騎士団に入るのが希望なら言ってくれ、融通してやる。最もお前が就職する年月には俺は騎士団長代理を辞めているだろうが何とかなるだろう。」

「は、はい。ありがとうございます。」

 シヴァリエは差し出された手に自分の手を重ねて、明連と握手した。

「あと、たまにはお前とまた打ち合いしたいのだが‥‥?」

 が、その言葉に思わずシヴァリエはギョッとして肩を震わせてしまう。きっと顔も青ざめただろう。

 そんなシヴァリエに明連は仕方がなさそうに肩を竦めると、面白いものを見たとばかりに微笑んだ。

「そう、怯えるな。あの時は何せ王子を諦めさせきゃならなかった。だから、済まなかったな。お前に騎士団と同等の訓練をさせてしまった。」

「騎士団と同等‥‥。」

 だから、あんなにキツかったのか!?そもそも騎士団はあんな訓練を毎日しているのだろうか?

 青ざめたままのシヴァリエの手を明連を離す。

「だが、お前、うちの団員より上手く立ち回ったぞ。初見だろうに攻略してきたし、レーヴェンス流を扱えているだけはある。もしお前が学園所属じゃなければ、すぐにスカウトして精鋭に入れたいよ。」

「どういたしまして‥‥。」

 そうベタ褒めに褒められても‥‥あんなにフルボッコにされたのだ。騎士団に入った暁には騎士団長代理による訓練で死亡する未来しか見えない。

 シヴァリエは苦笑いで切り抜けるしかなかった。


 こうして、シヴァリエは騎士団長代理、明連・ヘツギショウに気に入られ、以後、何かと目をかけられ、良くしてもらうようになった。


「にしても、レーヴェンス流か‥‥。」


 自分の流派が本当にレーヴェンス流なのかは聞かなくてはならないが、それにしても、フローレンスがその歴史書から消したという故国の話や魔王の話、幼少の頃から歴史書を読み込んでいたシヴァリエにとって、とても興味深い話だった。まさか、そんな歴史があるとは思わなかった。誰かに話したいが、恐らく表立って話してはいけない話だ。我慢しよう。‥‥しかし、それにしてもレーヴェンスの青年か‥‥。


「‥‥魔王を倒すって絶対凄いことだよね。‥‥。」


 世界を統治していたその人なのだ。強いだろう。現代であれば、騎士団長代理ができそうだが、ハルトも魔王を倒せそうだ。何しろあの人も強い。

 まだ実力の底を見たことは無い。だが、分かる。ハルトは強い。

「私も精進しなきゃ‥‥。」


 だが、かといって明連の鍛錬は受けたくないと思うシヴァリエだった。


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